その声は媚薬.2

江上蒼羽

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お食事会⑦

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「それ、上條さんに関係あります?」


精一杯笑顔を作る。


「んー……関係ないかもだけど、興味はあるよね」

「興味持って頂かなくて結構ですよ」


上條さんの包囲から抜けようと試みると、それを阻止するかのように彼も私の動きに合わせて移動する。


「久世くんて、彼女いた事あるのかな?経験少なそう」


私を見下ろして、馬鹿にしたように笑いながら上條さんは続ける。


「AVを鵜呑みにしてガンガン突いときゃ女は喜ぶとか思ってそう。下手だよねー絶対」

「………」


じわじわ沸き上がっていた苛立ちが怒りへとシフトしていく。

上條さんは久世さんの何を知っているというのか。


「俺のが良くない?久世くんなんかよりずっと良くしてあげられるよ」

「………」

「島津さんは勝沼くんに任せて、この後瑞希ちゃんは俺の部屋に来ない?明日も仕事だから流石に朝までとはいかないだろうけど……」


上條さんが私の耳元に唇を寄せてそっと囁く。


「二人で気持ち良くなろうよ」


ゾワッと全身に鳥肌が立った。

この瞬間から、上條さんがちょっと苦手から一気に“生理的に無理”に変わった。

嫌悪感から、軽く吐き気と目眩を覚える。


「いっそ明日の朝は俺の部屋から出勤しちゃう?」

「…………」

「久世くんには悪いけど俺に乗り換えちゃいなよ。誰も文句言わないよ。だってあの久世くんより俺の方が断然上だし」


上條さんを尊敬して慕っている久世さんに心底同情した。

目の前にいるこの男は、後輩を影で侮辱した挙げ句、付き合っている女に手を出そうとする最低なクズ野郎だ。

こんな奴、尊敬する価値なんてない。

当然、私も体を許す気になれない。


「…………」

「瑞希ちゃん?」


噴火しそうな怒りを抑えるのに必死で、言葉を発しない私を不思議に思ったのか上條さんが顔を覗き込んでくる。

と同時にちゃっかりキスしようとしてきたから、即座に顔を背けた。


「ごめ~ん、せっかち過ぎたね。驚かせちゃった?」


ここで怒りに任せて殴ったら、上條さんの久世さんへの当たりが強くなってしまうかもしれない。

負の感情をぐっと堪える。


「本当……驚きました」

「あは、ごめんごめん」


ヘラヘラと笑う上條さんに、こちらも敢えて笑って返す。


現実リアルで壁ドンしながら迫ってくる人っているんだーって驚きです。そしてドン引き」

「え……」


上條さんの笑顔が固まったのを確認してから、努めて明るく言ってやる。


「申し訳ないけど、上條さんの喧しいアヒルみたいなダミ声じゃ私全然興奮出来ないですよー」


上條さんは、顔こそかなりのイケメンだけれど、声がとてつもなく残念。

職場の多くの女性達が色めき立つ中で、私はどうしても彼に魅力を感じられなかった。

その理由が彼の特徴的な声。

普通に話をする分には平気だけれど、今みたいな状況に聞くのはちょっと耐えられない………というか、虫酸が走る。


「だ、だみ………」


想像以上にショックを受けたらしい上條さんに笑顔のままトドメを刺してやる。


「上條さんの声を聞いてると、どうしても出川○朗の顔がちらつくんですよね」


流石に出○は言い過ぎかと思ったけれど、彼の久世さんへの物言いに比べたら遥かにマシだと思う。


「そんなの笑っちゃう。気持ち良さ半減する所か、イケるものもイケないだろうから、折角のお誘いだけど辞退させて頂きますね」

「え、そんな………」

「すみません、それじゃあ私タクシーで帰ります」


ショックで呆然としている上條さんの腕をすり抜け、さっさと逃げた。

逆上して追い掛けて来たら……と、脳裏に過ったものの、その心配は無かった。

どうやら精神的ダメージが大き過ぎて動けなかったらしい。

 
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