その声は媚薬.2

江上蒼羽

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上條さん②

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「久世くんは元気ですよ」


上條さんは爽やかに当たり障りのない返答をしたかと思えば「あぁ、そうそう」と、声を大にして言う。


「何でも最近彼女が出来たみたいで~」


これまた思いっきり動揺。

口に入れたご飯を殆ど噛まずに喉の奥に押しやった。


「まぁ!!」

「大人しそうなふりしてやるわね」


お節介と詮索がお得意のおばさま世代は、芸能人のスキャンダル、ご近所の噂話、話題の新商品、若者の恋ばな………等々、何にでもすぐに飛び付く。


「そのお陰か、彼今やる気に満ち溢れてますよ。以前より少し明るくなったような気もするし」

「あらあら、良い傾向じゃないの~」 


久世さんの身近にいる人から彼の様子を聞くのは、何だか新鮮な感じがする。

けれど、とてつもなく気恥ずかしい。


「身なりにも気を遣い出したみたいで、爽やかな好青年になってますよ」

「本当に~?見てみたいわ~」

「はは、俺も皆さんに今の彼を見て貰いたいですよ」


どうやら私が知らぬ間に、久世さんは垢抜けたらしい。

久世さん本人は自分は冴えない奴だと卑屈になっているけれど、元は決して悪くない。

だから、身なりをきちんとすれば結構いい線いくと私は思っているのだけれど、他の女性に目をつけられても厄介だからあまり頑張り過ぎないで欲しいとも思う。


「彼、筋トレなんかもし始めたみたいですよ」

「あらま!」

「スーツの上からでも分かるくらいひょろひょろだったものねぇ。彼女を守れるように鍛えてるのね、きっと」

「微笑ましいわぁ」


上條さんとおばさま方の会話から、筋トレに励む久世さんを想像してみる。

ダンベルを持ち上げる度に「ふぅ……」とか「はぁ……」とか色気たっぷりの吐息を漏らし、時に「ん……」とか「くっ……」みたいな声も出してみたりしながら全身を汗で濡らしている久世さんの姿を思い浮かべただけで、脳味噌が沸騰しそうになった。


「……………ヤバい…」

「えっ?何がです?」


うっかり漏らした声に島津さんが反応する。

それに「何でもない」とだけ返して食事を続けようとした時、不意に上條さんと視線が絡んだ。

何となく彼が何かを言いたげな空気を纏っている事を感じたものの、おばさま方に有らぬ誤解を与えぬよう、私はそっと視線を外した。

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