その声は媚薬.2

江上蒼羽

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上條さん①side:瑞希

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久世さんから話を聞いていた通り、上條さんが二週間私が所属する部署に入り浸る事になった。

製品の品質向上の為に製造ラインに張り付いて、何やら分析したりデータ化したり、何たらかんたら……しに来たらしい。

何でも先日の視察で課題が見付かったとか何とか。

私にはよく分からないけれど。




朝礼時に課長から説明があった際、おばさま達を始めとする多くの女性社員が色めき立っていた。

その中には例外なく島津さんも入っている。

上條さんは人当たりが良いので男性社員達からも歓迎されているような感じだ。

熱烈歓迎ムードの中、これがコミュ症の久世さんだったらどうだったのかな?と私一人だけ冷静だった。




「上條くん、暫くよろしくねぇ」

「上條くんが居ると目の保養になるわぁ」

「お漬物食べる?美味しいわよ~」


お昼休みの社食で早速おばさま達に囲まれる上條さんを見て、島津さんが舌打ちをした。


「年甲斐もなくはしゃいじゃって……若者に譲れって感じ」


苦々しげに吐き捨てた島津さんを「まぁまぁ…」と宥め、レンゲを手に取った。

両手を合わせて小さく「いただきます」と呟き、湯気が上がる中華丼に手を付ける。


「あっち……」


真っ先に口に入れたうずらの卵が口内で爆発した。


「伊原さんて、うずらからいくんですね。うずらはメインだから普通最後にしません?」

「え……うずらってメインなの?中華丼のメインはエビだと思ってた」

「あー……そういう考えもありますね」


よく分からない会話を交わしながらランチを進めていると、不意に上條さんを取り巻く集団からあの人の名前が飛び出す。


「そういえば、この前一緒に来てたもう一人の………久世くんだっけ?彼はお元気?」


前ぶれなく出てきた彼氏の名前に動揺したものの、隣でラーメン麺を啜る島津さんに悟られないよう素知らぬふりで食事を続ける。

食事の味なんて二の次で耳に全神経を集中させた。

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