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声という宝物②
しおりを挟む「ありがとうございました。良い思い出になりました」
「あ…………いえ……」
晴れやかな表情を浮かべて頭を下げた彼女は、バスローブを羽織ってベッドから降りた。
その背中をぼんやり見つめながら、襲ってきた強烈な睡魔と懸命に戦う。
「…………録音しておけば良かったぁ……」
絞り出すように発せられた声に眠気が遠退いた。
俺が「え……?」と聞き返せば、彼女はこちらを振り向かずに言う。
「………久世さんの声、やっぱり好き過ぎる。直に聞けて最高。最後の掠れ声とかもう……ヤバい。語彙力なくなる程ヤバい……」
興奮を抑えながら噛み締めるように「ヤバい」と繰り返す伊原さんの表情は残念ながら確認出来ない。
「普段の声も良いけど、最中の色気増し増しの声はもうっ…………あー毎日聞きたい。何で録音しとかなかったかなぁー……」
心底悔しそうに嘆く伊原さんの様子に照れを感じずにはいられなかった。
今まで俺は、どちらかと言えば否定される事の方が多かった。
何度オーディションを受けても通らず、親にも夢を理解されず……
他人からは地味だの冴えない奴だの小馬鹿にされ、俺自身「俺なんか……」と自分を卑下してきた。
だから、伊原さんが俺の声を好きだと言ってくれた事や、感動を素直に言葉に表してくれている事が嬉しかった。
「魅惑の18禁ボイスもいいトコだよ…………はぁ……最高だったぁ……」
伊原さんに俺という人間を全肯定して貰えたような気がして、喜びのあまり涙が出そうだった。
彼女にこんなにも喜んで貰えた事が凄く嬉しかった。
「伊原さん」
そっと伊原さんの背後に立った。
それから俺の呼び掛けに振り返った彼女の唇を奪う。
突然の俺の行動に驚いたのか、彼女は握っていたスマホを落とした。
けど、彼女が抵抗する素振りは微塵もなく、俺の熱をすんなりと受け入れてくれている。
こちらが拍子抜けしてしまうくらいに。
柔らかい感触を堪能してからゆっくりと唇を離す。
「………俺、このまま1回で終わりたくないです」
勇気を出して言ってみた。
彼女にとっては一夜の遊びで、単なる思い出作りに過ぎないのだろう。
ただ弄ばれただけかもしれないけど、俺はここで終わりたくない。
俺の声を求めてくれる存在をこのまま手放したくない。
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