その声は媚薬.2

江上蒼羽

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配信者リューク②

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何度か新人向けのオーディションを受けてみた事がある。

毎回テープ審査までは通過するけど、受かる事は一度もなかった。




「今回受けた中に有名な作画監督の甥がいたらしいよ」

「マジで?じゃあ、今回の合格者はほぼ決まりじゃん」

「だろうな。ついてねーよ」



オーディション帰りに偶々耳にした会話。

彼等の話を聞いて、参加者の中で一際棒読みの素人臭い奴がいた事を思い出した。

まさかアイツじゃないだろうな……等と思いながら、彼等の会話がとても興味深く、耳を澄ませる。



「俺が前に受けたオーディションにさ、芸能人の身内が参加してて……」

「あー……たまにいるよね。声優さんに憧れてて~とか言って親や兄弟の名前使って出てくる奴」

「そうそう。発声も滑舌も散々なのに、ネームバリューだけで受かってさー」

「ま、忖度ってやつだな。あるある」

「でもそれっきりそいつの名前聞かなくなったな」

「やっぱ実力が伴わないと厳しい世界なんだろうな。俺の時は演技も声も普通なのに顔が良いだけで受かった奴いたよ」

「俳優で成功しなかったから声優にって感じ?舐めてるわー。けど、そういう奴のが人気出て、テレビでイケメン声優とかってもてはやされるんだろうな」

「声優もそこそこの容姿求められる時代になったもんな。しゃーないだろ」



彼等は面白可笑しく話していたけど、俺はちっとも笑えなかった。

そもそも忖度って言葉が俺は嫌いだ。



後日オーディション結果の通知が届いて、自分の落選を知った。

粗削りながらも良い演技をしている、声質も良いと評価されたものの、アピールが足りないとの講評を頂いた。

今まで何度も何度も心が折れそうになっては、踏ん張って前だけを向いてきた。

だから今回もさっさと頭を切り替える。



………つもりでいたけど。

次こそは受かってみせる……と意気込んでいた時に、自分が落選したオーディションの合格者が、例の棒読みの奴だった事を知った。


ここでポッキリ、心が折れた。

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