その声は媚薬

江上蒼羽

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「久世さんはどうしてリュークという名で活動しているんですか?」


ホテルを後にして、久世さんの車で送って貰う道中、疑問に思っていた事を聞いてみた。


「名前が久世 竜生くぜ たつき なんです。名前の久と竜の字を反対に組み合わせてリュークとしました」

「へぇ、なるほど。それを私以外に知っている人いるんですか?」

「いえ…………あの活動の事は恥ずかしくて誰にも言ってないので」

「そっか……私だけが知る貴重な情報ですね」


リュークの正体を知っているのは自分だけという優越感に浸っていると、今度は久世さんが私に質問を投げてくる。


「伊原さんの下の名前って何と仰るんですか?知りたいです」



私が「瑞希みずきです」と答えると、久世さんが小さな声で「瑞希さんか……」と私の名前を復唱する。

それにくすぐったさを感じている間に最寄りのコンビニの明かりが見えてきた。


「ここで降ります。ありがとうございました」

「本当にここでいいんですか?こんな時間なので、家の前まで送らせて下さい」

「大丈夫です。私の家、ここからダッシュで1分ちょいなんで」


車が停止したのを確認してからシートベルトを外した。

降りようとドアに手を掛けた時、強めの力で久世さんに引き寄せられる。


「おやすみ瑞希。また電話する」


甘い囁き+おまけのリップ音付きに、口付けられた方の右耳から体が溶けてしまいそうだった。


「あ………うっ……」


嬉しい不意打ちを受け、声にならない声が出る。


「こ、この後興奮して眠れなかったら久世さんの所為ですからね!」


耳を押さえながら久世さんを睨み付けると、彼は照れ臭そうに笑って「気を付けて」と手を振っていた。




思いがけずイケボの彼氏が出来てしまった。

まさかこんな展開になるとは思ってもみなかった。

全くの予想外だけど………悪くない。

でもこれから先、今みたいな不意打ちが続くと耳と心臓がもたない。

私が彼自身に身も心も完全に支配される日は案外近いかもしれないと、家路を急ぎながら思った。

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