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彼女の為に出来る事③[side:一男]
しおりを挟む漣の趣味に理解出来ずにいたある日、事件が起きた。
その日は、漣が家を出て一人暮らしを始める日だった。
漣からの連絡を受けて仕事帰りに漣の新居へ寄り、引っ越し作業を手伝いに来ていたという凛香ちゃんと輝子ちゃんと、四人で飲む事になった。
凛香ちゃんの存在にテンションが上がった俺は、ついつい飲み過ぎて、先に別室に避難させて貰った。
「………あー……だる…」
仕事の疲れとアルコールで、横になった瞬間に強烈な睡魔に襲われ、夢の中へと旅立った。
心地好い眠りにイビキをかいていたかもしれない。
このまま朝までぐっすりといきたい所だったのに、ドタドタ、バタン……という音で目が覚めた。
誰かが部屋を飛び出して行ったようだった。
「……何だ?」
気怠い体を起こしてみる。
「…………かないで」
隣室から微かに聞こえた声に耳を澄ます。
「行かないで、高瀬…」
「いや、追い掛けないとまずいでしょ」
凛香ちゃんと………漣の声。
とすると、部屋を飛び出して行ったのは、輝子ちゃんか。
「………服、ちゃんと着といて。風邪引かれたら困るし」
「待って」
切羽詰まったような凛香ちゃんの声を無視して、足早に廊下を通り過ぎる漣とおぼしき足音。
玄関ドアの開閉音の後、少ししてからそっとドアを開いた。
恐る恐るリビングの方へ向かうと、暗闇の中に白い人影がぼんやり浮かび上がっている。
「………っ、うっ…」
「……凛香ちゃん…?」
声を掛けながらゆっくり近付く。
「うっ、っ………」
「………泣いてるの?………って、え……?」
肩を小刻みに震わせる彼女の姿に言葉を失った。
下着一枚に、肩に服が掛けられている状態。
「凛香ちゃん……」
「…………高瀬っ…」
凛香ちゃんの肩から服が滑り落ち、彼女の白い背中が露になる。
女性らしいなだらかな曲線を描く綺麗な背中に思わず視線は釘付け。
「高瀬……どうして…?」
慌ただしく飛び出した輝子ちゃん、それを追い掛けて行った漣………
そして、一人残され、啜り泣く凛香ちゃんを見て、何となく事の顛末を汲み取った。
こっそり生唾を飲み込んでから、彼女の肩に触れた。
ビクッと大きく揺れた肩の冷たさに驚かされる。
だから、つい……衝動的に彼女の体を包み込んでしまった。
「な………離してよ!触んないでっ!」
身を捩る彼女を抑え込むように、腕に力を込めた。
俺の腕を解こうともがく凛香ちゃんの耳にそっと唇を寄せる。
「………胸貸すよ。思う存分泣いて」
そう囁いた瞬間、凛香ちゃんの抵抗が止んだ。
「うっ………っ……やめてよ………同情なんか要らないんだから……」
「同情じゃない。好きな子の力になりたいだけだよ」
「だから、そういうのが要らないって…」
「言ってんじゃん……」と弱々しく付け加えた凛香ちゃんは、甘えるように俺の胸に顔を埋める。
「ひうっ、……っ、ううぅー……もう最低……っ、私も、アンタも……ひぐっ」
「…………凛香ちゃん…」
「アンタに優しくされたって…っ……ちっとも嬉しくないんだから……うっ…」
「…………」
堰を切ったように泣きじゃくる彼女の髪を撫でながら、自分が彼女の為に何が出来るかを懸命に考えてた。
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