ヒロインになりたい!!

江上蒼羽

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ハッピーエンドを引き寄せろ③

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心臓がヤバイくらい鼓動を強めてる。

今にも膝が折れてしまいそうな程、ガクガクしてる。

膝カックンなんてされたら、コント並みの見事なコケを披露出来ちゃう自信有り。

恥は一瞬、後は野となれ山となれだ。

もしかしたら塵になって消えてしまうかもしれないけど。

意を決して、三度深呼吸をした。


「あの、折り入って話があって…」

「……話?まず上がれば?」


部屋に上がるよう促す高瀬さんに「いや、いい」と断りを入れる。


「玄関で良いよ。済んだら帰るから」


高瀬さんは怪訝そうに顔をしかめた。

相変わらず、彼の目は細い。


「あ、あの……」


シンプルに一言伝えるだけなのに、緊張で頭がどうにかなりそうだ。

月9のヒロインみたいな私を味わっている余裕なんて、微塵もなさそう。


「わ、私………」

「ん?」


あぁ~、駄目だ駄目だ駄目だ。

高瀬さんの顔を見ていたら、たった2文字の言葉すら言うのが困難で。


「私………ヒロインに憧れてた………ってゆーか、現在進行形で憧れてて…」


決定的な一言を口に出来ずに、見当違いな言葉を発してしまう。

力み過ぎてやってしまった。

こうなれば頑張って軌道修正するように持っていくしか方法はない。


「ヒ、ヒロインの相手は、イケメンが鉄則で、何でも出来て、性格が良くて、お金持ちで、皆から好かれてて……」


突然呪文のようにヒーローの条件を挙げ始めた様子に、高瀬さんが不思議そうに瞬きを増やす。


「女心もバッチリ分かってて、紳士で、格好良い車に乗ってて、話が面白くて、ちょっと意地悪で………他諸々あるけど、とにかく完璧な人が私の理想なの」


捲し立てるように一気に話したら、軽く酸欠起こして頭がクラっとした。


だからといって引き返す術はないから、いつも通り、暴走しながら突っ走るのみ。


「街中歩いててイケメンを見掛けると、すぐ目で追っちゃうし、芸能人でも、イケメン見るとテンション上がるし……」


自分で言ってて、だから何が言いたいの?とツッコミを入れたくなる。

告白って、簡単なようで難しい。


………というか、自分で複雑にしてるだけなんだけど。


「最近のお気に入りは、俳優の忍足 慧史(※)で。切れ長目がメチャクチャ格好良くて……あの目で睨まれたいとか思っちゃってるくらい…」


軌道修正する筈が、どんどん逸れている。


「だから、高瀬さんみたいな平々凡々で普通過ぎる人なんて、私の中で絶対ないって思ってた。イケメンなんてお世辞にも言えないし、目は開いてるの?って言いたくなる程ほっそいし……」


あれ………途中から悪口になってる……気がする。


「何より私、パチンコする人なんか大嫌い。何か、お金にだらしないイメージがあるっていうか………とにかく論外」


一度深く息を吸い込んでから、吐いた。


「だけど………好きになっちゃったの」


これが月9のワンシーンだったなら、BGMは絶対、西野カナが良い。

キラキラしたイメージの、ポップで可愛い音楽が流れてくれたら、私のグダグダな告白も何とか様になると思う。


「この前の、自惚れて良いから。私、高瀬さんが…………好き、なの」


最後の最後で何とか軌道修正し、結論まで辿り着いた。

やっと言えた達成感に浸りかけた所で、高瀬さんが言う。


「………うん、で?コーヒーとお茶、どっちにする?」


穴の空いた風船みたいに、猛烈スピードで力が抜けていく。




(※)拙作【売名恋愛】より。
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