54 / 100
息の詰まる夜①
しおりを挟む「……ごめん、俺、明日も仕事で早いから…」
飲み始めて3時間位が経過した頃、大きな欠伸をしながらカズさんが離脱の姿勢を取る。
四人の中で土日関係ないサービス業はカズさんだけ。
翌日も休みで気兼ねなく飲めるカレンダー通りの休みの残りの三人は、まだチューハイをグビグビやってる。
「俺達の声が気になるようなら、向こうの部屋使って構わないから」
「んじゃ、そうする………ふあーあ…」
イケメンは、欠伸をする姿もイケメンだ。
結局、カズさんは凛ちゃんの方ばかり見て、私なんか全然相手にしてくれなかった。
凛ちゃんは凛ちゃんで、高瀬さんに夢中で、いつもより過剰なボディータッチが目に余る所だった。
私も凛ちゃん位可愛くて自信があれば、もっと大胆にカズさんにアプローチ出来ただろう。
今の私じゃ、カズさんと当たり障りのない話をするだけで精一杯だ。
ボディータッチなんて、以ての外。
いっそ整形でもして自分に自信を付けようかなぁ?………いやいや、ヒロインが整形なんて……みたいな葛藤をしていたら、次第に瞼が重くなってきた。
ふと、喉の渇きを覚えて、目が覚めた。
部屋の中を、シーリングライトのオレンジ色の極僅かな光が仄かに照らしている。
目の前にはテーブルの脚、頬にはラグの柔らかい感触があって。
いつの間にか酔い潰れて寝ちゃっていたらしい事を察知した。
部屋の中が暗いという事は、凛ちゃんも高瀬さんも私と同じように酔い潰れて寝てしまったのだろう。
ツマミやお菓子の食い散らかしをそのままに。
朝起きた時に皆で手分けしてお片付けタイムになりそうだ。
喉渇いたなー………水飲みたいなー……でも、動くの怠いなー……
水が勝手に流れて来て口に入らないかなー……って無理か。
動くの面倒臭いし、どうにかしてまた寝るしかないかなー……なんて。
夢の中に片足突っ込みながら横着する事ばかり考えてウダウダしてた私を覚醒させたのは「………とっくに気付いてるんでしょ?」という、凛ちゃんの切羽詰まったような声だった。
「………何の事?」
「いつまで惚けるつもり?知ってるんでしょ?私の気持ち」
凛ちゃんと高瀬さんだ。
「落ち着きなよ。ちょっと飲み過ぎたんじゃない?」
「私は落ち着いてるよ。それ程酔ってもないし」
テーブルの脚の隙間から、辛うじて凛ちゃんの爪先が見えた。
「ねぇ、真面目に聞いて」
「…………」
緊迫した空気に、体が強張る。
どうやら、これは聞いてはいけない話っぽい。
「…………好きだったの……ずっと…」
当事者じゃない私の心臓がはち切れんばかりに、鼓動を強める。
「本当は前の時も酔ったフリしてた」
「…………うん、分かってた。楠木は、カクテル二杯でベロンベロンになる程、酒弱くないでしょ?」
「だったら、どうしてあの時冗談で流したの?!」
暫く沈黙が続いた後「………はぁ…」と、高瀬さんのものと思われる溜め息が聞こえた。
「………楠木はさ……何で俺なの?」
呆れたような口調で高瀬さんが言う。
「楠木だったら、他にいくらでも良い奴居るじゃん。それなのに、何で敢えて俺?」
「…………」
「俺の何が良いっての?」
どうしよう…
本気でどうしよう……
この張り詰めた空気の最中、悠長に寝てられない。
というか、眠れない。
だからといって、ここで「じゃじゃ~ん!輝子、起きてま~す!」とか「話は聞かせて貰った!」なんて、ふざけて登場する度胸もないし。
「……人を好きになるのって、理屈じゃないよ。私は高瀬が良いの。高瀬をもっと知りたいの」
ただ、話が良い方向へと向かって終了するのを願いながらじっと待つのみ。
0
お気に入りに追加
81
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる