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アンニュイな一日①
しおりを挟む『俺さ一人暮らししようと思ってるんだよね』
『へぇ~そうなんだ。何でまた?』
『んー?この前猫カフェ行った時に改めて猫飼いたいなって思って。実家じゃ飼えないし。この辺にペット可の良い賃貸あったんだよね』
『へぇ……って、ここら辺、私の会社の近くじゃん』
『マジ?てるりの会社この辺なの?』
『うん。この辺、近くにスーパーもコンビニもドラッグストアも揃ってるから便利だよ。あと、お弁当屋もあるし』
『そっか、なら決めちゃおうかな。引っ越したら報せるし、機会があれば楠木と二人で気軽に遊びに来てよ』
という会話を、焼き肉を食べに行った帰りの車内で高瀬さんとした。
遊びに来てよ……は、多分社交辞令。
凛ちゃんなら、真に受けちゃうだろうけど。
それから暫くして、ワカメちゃんカットが馴染んで来た頃…
「高瀬、一人暮らしするんだって」
スタバでお茶していたら、徐に凛ちゃんが切り出してきた。
「あぁ……みたいだねー」
特に深く考えもせずに相槌を打つと、凛ちゃんが怪訝そうに眉をひそめる。
「みたいだね……って、アンタ知ってたの?」
「ごふっ……」
忽ち、限定フレーバーのフラペチーノに溺れそうになった。
ゴホゴホ……と咳き込んで、治まったのを見計らってから深呼吸を一つ。
「前に猫カフェ行った時に、猫飼いたいからペット可の賃貸で一人暮らし検討してるっぽい事言ってたからさぁ……」
「ふぅん……」
聞いたタイミングは違えど、嘘じゃない。
凛ちゃんには、高瀬さんに焼き肉を奢って貰った事は言ってない。
高瀬さんは気にしなくて良いと言ってたけど、やっぱり引け目を感じてしまって。
凛ちゃんと高瀬さんは付き合ってる訳じゃないし、私と高瀬さんはお互いに友達以上の感情を抱いてないから普通に「ご飯行ったんだ~」と言えばいい事なんだけど……
凛ちゃん的には、絶対面白くないんだろうなー…なんて。
もし逆の立場だったら、私も嫌だし。
という事で、罪滅ぼしって訳じゃないけど、今日は私の奢りだ。
「で?どうしたって?」
あまり深く突っ込まれるとボロが出そうなんで、早々に話題を戻す。
私の言い訳に納得したのかしないのか微妙な所の凛ちゃんがカップ片手に言う。
「次の土日に引っ越しらしいよ」
「そうなんだ~」
とか言いつつ、高瀬さんからLINEで報告を受けてたから既に知っている。
「友達や会社で仲良い人に引っ越し手伝って貰うみたいなんだけど……」
「うんうん」
「私も手伝いに参加しようかなって」
ここで照れたようにはにかむ凛ちゃん。
「や、ほら、恩を売るって訳じゃないけど、手伝いを買って出る事で、少しは好意的に見てくれるようになるかな?みたいな」
「あーなるほど」
普段勝ち気な凛ちゃんは、高瀬さんに関しては乙女全開だ。
「素の高瀬を知れるかもだし、家庭的な一面をアピール出来るチャンスだし行きたいんだよね。だから輝子、アンタ次の土日暇?」
「ん、まぁ……特に予定はないけど…」
悲しいかな……
うら若き乙女のくせに、休日の予定が何にもない。
ちょっぴりはにかみながら「彼とデートなの、うふっ」とか言ってみたい。
「だと思った。一緒に行ってくれない?」
だと思った………なんて、凛ちゃんてば酷い。
「えぇー?やだよ、面倒臭い。土日はGEOでDVD借りて、ダラダラゴロゴロしてようと思ってたのに」
「暇なら良いじゃない!」
「ひ、暇じゃないし!恋愛系のレンタルして、沢山キュンキュンして、ヒロインパワーを補給するの!」
「ヒロインパワーって、バッカじゃないの?!いいから付いて来てよ!」
凛ちゃんの態度は、人にお願いするソレではないと思う。
「一緒に行ってくれたら、高瀬と焼き肉食べに行った事、お咎めナシにしてあげる」
「うげっ………凛ちゃん、知ってたの?!」
カップを叩き付けるように置いた凛ちゃんが鋭い眼差しを私に向ける。
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