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平坦な日常にスパイスを⑪
しおりを挟む空気がしんみりしかけた時、凛ちゃんが「そんな事より」と話題を変える。
「アンタこそ、あの田中 一男のどこが良いの?」
馬鹿にしたように名前の部分だけ強調して言った凛ちゃん。
改めてフルネームを聞かされると、少し気持ちが萎える。
顔と名前が合ってない、ダサって。
「えっ………分かる?やっぱり」
「うん、目付きが獲物を狙うハンターそのもの。怖いよ」
「イメージはゴルゴ13かな」
小首を傾げながら「てへっ」と舌を出す私に「知らねーよ!」と凛ちゃんのツッコミ。
「イケメンで爽やかで性格良くて、お金持ちで……高校時代は絶対サッカー部のエースだったよ!」
「アンタの中ではあくまで、イケメン=サッカー部のエースって構造なのね……」
「ヒロインの相手役として不足なしだよ、凛ちゃん」
「だから何度も言うけど、アンタはヒロインじゃないっての」
凛ちゃんは、いちいち私を否定する。
「チャラそうじゃん。てか、男性美容師って遊び人のイメージ。見た目からしてすっごい遊んでそう」
凛ちゃんは、露骨に嫌悪感を露にするけど、私はいつでもポジティブシンキングだ。
「きっとまだ本気になれる相手と出会えてないんだよ!」
「はぁ?」
「本気の恋を知らないの!だから私が彼に本気の恋を教えてあげるつもり」
力説する私に、凛ちゃんはいつもの呆れ顔。
「一度も恋愛した事ないくせに?」
「だからこそ、私のウブで純情な心とひたむきさで彼を変えるの!」
「……アンタがウブで純情だったなんて全然知らなかったわ」
私のヒロイン的な純情さで、イケメンな彼もきっとイチコロ。
すぐにメロメロになって、一途に私だけを愛するようになる筈。
『俺だけを見てろよ……』
なんて、束縛が激しくなったりして。
新たな悩みの種になるかもしれないけど、これはこれで幸せな悩みだ。
「よーし、花火大会は艶やかな浴衣で色気を醸し出して悩殺するぞー!」
「あーはいはい……精々頑張んな」
ただなぞるだけの平坦な日々に、ピリリと刺激的なスパイスが導入された。
突如開いたヒロインへの道。
キラキラした道の途中には、波瀾万丈、紆余曲折が待ち構えている事だろう。
だけど、ゴールには必ずハッピーエンドがヒロインの為に控えている。
「神様……今日の出会いに感謝します」
「いや、高瀬と知り合いだった私に感謝して欲しいわ」
「おぉ、神よ~……ぼふぉっ!!」
天に向かって祈りを捧げたのも束の間、思いっ切り路上の看板にぶつかった。
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