私は彼の恋愛対象外。

江上蒼羽

文字の大きさ
上 下
64 / 66

大人の女性に……side:涼亜

しおりを挟む



告白ついでに、勢いで処女捧げます宣言までしてしまった。

恥ずかしさが込み上げてくるものの、後悔はない。


「……は、は」


口元をヒクヒクさせながら、お兄さんは苦笑いを浮かべた。

それから一度空を仰いでから、私に向き直る。


「気持ちは嬉しいけれど、涼亜ちゃんを縛りつけたくないんだ」


困ったように笑いながら、お兄さんは言った。

胸がぎゅっと締め付けられる。



また私はお兄さんを困らせてしまった。

どうして、私はいつもお兄さんを困らせてしまうのだろう。

最早特技の一つとして習得しちゃったのかも。

これといた大した特技がないくせに、人を困らせるのが得意だなんて、私ってばとてつもなく迷惑な存在だ。

それでもこのまま引き下がりたくなくて、どうにかお兄さんの気を引けるような言葉がないか、悪い頭で必死に考えた。

けど、ちっとも名案は浮かばない。

こんな時、自分の言葉のボキャブラリーの少なさに腹が立つ。

もっと国語の勉強しとけば良かったとか、本をいっぱい読んでおけば良かったとか………今後悔しても仕方がない事は分かってるけど、どうしようもなくて……

無駄に歯をカチカチさせてるだけの状態。


「涼亜ちゃんには、涼亜ちゃんに相応しい人がいると思うんだ。俺みたいなオッサンじゃなくて」

「………」


お兄さんの低い声は、とても心地好くて耳が蕩けそうになるけど、口にしている言葉は心をチクチク突っついてくるようだ。


「もう一度言う。約束はしない」


淡々とした口調で言った後、お兄さんがすぐに「だけど」と付け加える。


「涼亜ちゃんがこれからどう化けるか、少しだけ興味が湧いたよ」


思わず「えっ…」と聞き返すと、お兄さんがいつもの優しい笑顔を私に向けた。


「もし、3年経っても涼亜ちゃんの気持ちが一ミリもブレていなかったら、是非会いに来て」


私が反応する間もなく、お兄さんは私の耳元に顔を寄せて囁く。


「それまで取り敢えず預けておくね、ハンカチ」


耳に一瞬息がかかっただけなのに、こそばゆいのとドキドキするのとで、体がビクッと大きく震えて熱くなる。

そんな私の反応を見たお兄さんは、笑いを堪える素振りを見せながら「それじゃ」と私の頭を軽く撫でて、車のある方角へと歩いて行った。


その場に呆ける私は、お兄さんの広い背中が小さくなっていくのをただ見ていた。


絶対、見た目も中身もパーフェクトな大人の女になってやる………と決意しながら。




side:涼亜―――終わり
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

売名恋愛

江上蒼羽
恋愛
売名=利益や名誉の為に自分の名を世間に広めようとする事。 お笑いコンビ、まんぼうライダーのボケ担当、森川 素良(モリカワ ソラ) 期待の新人として華々しくデビューしてから、早5年。 テレビで引っ張り凧だったのは、最早過去の栄光。 近頃は相方の活躍ばかりが目立ち、自身は一視聴者としてそれを眺めているだけの日々…… 所属事務所からの契約解除に怯える彼女に降って湧いたのは、主演と知名度が欲しい若手俳優からのヤラセ交際の申し出。 「貴女の名前を僕に貸して下さい。悪いようにはしませんので」 果たして、素良は再びテレビで輝けるのか、それとも……… H27.12.22 執筆開始 ~H28.7.29 書き上げ H31.3.14~ アルファポリスにて公開開始 *作者はお笑いに関してド素人であり、芸能界に関しての知識もありません。 その辺をどうか御了承の上、閲覧願います。 *同タイトルの別バージョンも公開してます。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

会うたびに、貴方が嫌いになる

黒猫子猫(猫子猫)
恋愛
長身の王女レオーネは、侯爵家令息のアリエスに会うたびに惹かれた。だが、守り役に徹している彼が応えてくれたことはない。彼女が聖獣の力を持つために発情期を迎えた時も、身体を差し出して鎮めてくれこそしたが、その後も変わらず塩対応だ。悩むレオーネは、彼が自分とは正反対の可愛らしい令嬢と親しくしているのを目撃してしまう。優しく笑いかけ、「小さい方が良い」と褒めているのも聞いた。失恋という現実を受け入れるしかなかったレオーネは、二人の妨げになるまいと決意した。 アリエスは嫌そうに自分を遠ざけ始めたレオーネに、動揺を隠せなくなった。彼女が演技などではなく、本気でそう思っていると分かったからだ。

灰かぶりの姉

吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。 「今日からあなたのお父さんと妹だよ」 そう言われたあの日から…。 * * * 『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。 国枝 那月×野口 航平の過去編です。

CROWNの絆

須藤慎弥
青春
【注意】 ※ 当作はBLジャンルの既存作『必然ラヴァーズ』、『狂愛サイリューム』のスピンオフ作となります ※ 今作に限ってはBL要素ではなく、過去の回想や仲間の絆をメインに描いているためジャンルタグを「青春」にしております ※ 狂愛サイリュームのはじまりにあります、聖南の副総長時代のエピソードを読了してからの閲覧を強くオススメいたします ※ 女性が出てきますのでアレルギーをお持ちの方はご注意を ※ 別サイトにて会員限定で連載していたものを少しだけ加筆修正し、2年温めたのでついに公開です 以上、ご理解くださいませ。 〜あらすじとは言えないもの〜  今作は、唐突に思い立って「書きたい!!」となったCROWNの過去編(アキラバージョン)となります。  全編アキラの一人称でお届けします。  必然ラヴァーズ、狂愛サイリュームを読んでくださった読者さまはお分かりかと思いますが、激レアです。  三人はCROWN結成前からの顔見知りではありましたが、特別仲が良かったわけではありません。  会えば話す程度でした。  そこから様々な事があって三人は少しずつ絆を深めていき、現在に至ります。  今回はそのうちの一つ、三人の絆がより強くなったエピソードをアキラ視点で書いてみました。  以前読んでくださった方も、初見の方も、楽しんでいただけますように*(๑¯人¯)✧*

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

処理中です...