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計画外の売名
しおりを挟む数日後。
「………森川……派手にやらかしてくれたわね…」
口元に笑みを浮かべつつも、どこか呆れにも似たような声色で言う川瀬さん。
彼女の手には今日発売の週刊誌が握られている。
「………す、すみません」
怒りはしていないながらも、機嫌はあまりよろしくない川瀬さんを前に、私は萎縮しまくっていた。
「別にあんたを責めてはないの。恋愛ご法度のアイドルとは立場が違うし、自由に恋愛して貰って構わないけど……今の状況を考えたら最悪な事よ」
「い、いや、彼とはそんなんじゃないですから!」
弁解する私に彼女は盛大に溜め息を吐いてみせる。
「私は分かってるけど、世間がどう見るかよ」
川瀬さんの手中にある週刊誌の見出しに大きく記された【夜の街で撮った!女芸人禁断の二股愛!!】の文字。
太く大きなゴシック体で、他の記事より一際目立っている。
「イケメン俳優との熱愛が報じられ世間を賑わせた女芸人に禁断のスキャンダル発覚。まんぼうライダー森川がとある飲食店で密会していた相手は、舞台等で活躍中の最上 宗介(27)。これまたイケメン俳優だ……」
川瀬さんが週刊誌の記事を声を大にして読み始めた。
「二人は終始見詰め合い、微笑み合っていた」
「いや、その表現はちょっと違うような……」
「遅くまで滞在した飲食店を後にした二人は、そのまま寄り添うようにホテルのある方角へと消えて行っーーー…」
川瀬さんが記事の全文を読み終える前に「でっち上げです!!」と、立ち上がる。
「デタラメも良い所ですから!ホテルなんて行ってません!」
時間はそんなに遅い時間じゃなかったし、何よりホテルなんて有り得ない。
私と最上さんの記事を書いた週刊誌は、誇張表現やガセ、ゴシップが多い事で有名だ。
けれども、どんなに滅茶苦茶な記事でも、真に受ける人は少なくない。
ましてや、ホテルの方角へ……とぼかされてはいるものの、ホテルと明記されている時点で大幅なイメージダウンの可能性がある。
「参ったなぁ……」
頭を抱える私に、川瀬さんが言う。
「ただの飲み友達かもしれないけど、男と二人で……なんて、かなり軽率だったわね」
「………すみません」
テーブルに突っ伏して落ち込む私に、川瀬さんが追い討ちを掛けるように言う。
「ましてや、忍足さんと交際していると報じられている中での、別の男との密会………芸能界は二股や不倫に寛容な所があるけれど、世間へのイメージダウンは免れないわね」
「………」
私は潔白なのに黒だと決め付けるような内容の記事に悪意を感じる。
「どうする?会見でも開いて世間に弁明する?それとも、スルーしとくのが無難かしら」
川瀬さんが冷ややかな視線を浴びせながら言う。
「まぁ、いずれにしても批判はされるでしょうけど」
「………」
私が言葉を詰まらせていると、携帯から短い音が鳴る。
LINEの通知音だ。
表示されている名前を見て、ドキッと心臓が大きく跳ねた。
「忍足さんかしら?」
川瀬さんの問いには答えずに、恐る恐る携帯を手に取る。
絵文字やスタンプなしでたった一行……
慧史
【今日お時間ありますか?】
短い一文ながらも私を恐怖に至らしめるには十分だった。
サーッと血の気が引いていく。
「も、もしかしなくても、忍足さんの耳にも入ってしまったんでしょうか……?」
「さぁ?どうかしら。でも、弁解出来る丁度良い機会じゃない」
「………お、怒ってますかね?」
「まぁ、一応交際相手として認知されている忍足さんの顔に泥を塗ったのは確かね」
「う、ううっ……」
川瀬さんに「誠心誠意謝って来なさい」と促されたものの、忍足さんの反応が怖くて堪らない私は……
「今日は忙しいので、お会い出来ません………と」
ビビって逃げた。
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