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第一章 幸せが壊れるのはあまりにも呆気なく

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「……俺は見くびっていました。直人様だって世界屈指の大財閥のご令息なのにまともな金銭感覚してるわけがないっすよね」
「ですね」
「おれは兄さんよりまともだし。家族で一番まともな自信あるから」
「このご家族では比較対象になりません」

 失礼な。おれを家族と一緒にしないでほしい。特に兄さん!

「直人くんも俺に対して失礼なこと考えたでしょ。表情に出てるんだよ、全部」
「そんなことより、旭たちどうするの?」
「私はボーナスなんて無くても命令されましたら同行しますよ。頂けるものは頂きますけど」
「俺もっす」
「まあ俺の死に金になるより経済回した方が良いっていう理由もあるから。父さんたちには俺から言っておくよ。じゃあ気持ちを切り替えて……直人くん、演技の練習するからホールに行くよー」

 相変わらずのマイペースで無理矢理話を終わらせた兄さんは、おれの手を引いて地下の防音室へ入って行った。

 ◇

「直人くん、今日は俺のペースでやるからね」
「分かった」
「内容だけど、まずは軽く柔軟しよっか。そのあとにボイトレしてダンスの練習、歌の練習、演技の練習するよ」
「ダンスとか歌の練習っているの?」
「柔軟やボイトレを兼ねてやるんだよー。別で柔軟とかするけど色々やっておいた方が演技の練習の時に楽だから。ボイトレだけじゃ声を出し辛いんだよね」
「なるほどね」

 これだけ聞くとそんなにハードでもなさそうだな、なんて。そう思っていたのはこの一瞬だけだった。

 柔軟は兄さん体操やってるだけあって体が柔らかいんだけど、おれは当然兄さんほど柔らかくない。おれも体操はやってるけど、体は固い方だから。そして柔軟と言いながらアクロバットな動きを始めるし。たまにだけど兄さんがやりたいだけじゃない?と思う動きがあったんだけど、おれの予想は間違っていないんだろうね。

 ついでに言うと兄さん、いまTシャツみたいなラフな格好だからバク転とかした時にお腹見えるんだよね。なんであんな綺麗に腹筋綺麗なのか心底不思議なんだけど。
 なんで細いのに筋肉だけはついてるの?鍛えたムキムキな感じじゃなくて、スポーツやってるうちに自然と付いたようなしなやかな筋肉だし。ほんとになんで?

「俺の体の感想言わなくて良いから練習しなよ。今のわざと声に出してたでしょ」
「あ、バレた?」
「人の体をジロジロ見てないで練習しな。桜井警察、陽太を呼ぶよ」

 柔軟のはずなのに疲れすぎて、床と仲良くしてたら注意された。兄さんおかしいって。なんでほんの少しも息乱れてないの?すごすぎでしょ……

「陽太って警察官になったんだ」
「うん。俺が勝手に警察にした」
「人の職業を勝手に変えないでください」

 そういえばこの場には旭と陽太もいたんだったね。ほぼ常に一緒にいるから忘れるんだよたまに。
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