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「そろそろ決まりましたか?」
「……ほかの選択肢はないのか?」
「ありませんね。レイモンド様はどうしてそこまで跡取りの座に執着するのですか?権力は便利な時もありますけど、生まれた時から決められた人生ほど詰まらないものもないと思うのですが」

 ただ権力がほしいだけかもしれないですね。それでも不思議ではありませんし。でも明確な理由を聞いた事はなかったはずです。

「俺は……お前が婚約者であったことと同じように、公爵家を継ぐことも勝手に決められていた。そのための教育だって受けてきた。苦労して学んできたというのに今更それを無駄にしたくない」
「……甘えないで。その努力を無駄にするような行動を取ってきたのは一体誰なのかしら?それなら私だって同じよ。レモーネ家が私にまともな態度を取ってくださったことは一度もありません。それでも私は花嫁教育を受けてきたわ。それが無駄になったのは他の誰でもなく、貴方のせいでしょう。自分の努力だけでなく私の努力まで踏みにじった貴方が言って良い言葉ではないわよ」

 持っていて無駄になる知識はありません。それも含めての私ですから。それでも、彼の婚約者でなければ他に出来た事はたくさんあったはずです。このように婚約破棄になるのであれば私の時間を奪わないでほしかった。返してほしいですよ、私の約十年という長い時間を。

 人の時間を無駄にした張本人であるレイモンド様が言って良い言葉ではないのでは?

「……そうだな」

 レイモンド様が認めた……?いえ、今はそんなことはどうでも良いですね。

「それで、どうするのですか?」
「跡取りの座を降りる。これが誰にとっても最善の選択だろうからな」
「分かりました。私はこれで失礼致します」

 ようやく全てが終わったと退室しようとした時、懐かしい声と共に後ろから声を掛けられました。振り返って見ると憑き物が落ちたかのようにすっきりした表情のレイモンド様がいました。

「カティア……いや、カティア皇女殿下。大変申し訳ございませんでした。結局俺は最初から最後まで貴女に迷惑しか掛けていなかったように思います。こうなったのは当然の結果ですね。今までありがとうございました」
「………畏まっているのは貴方らしくなくてよ。もっと堂々としていなさいな。全ての非が貴方にあったとも思いません。ですが同じことを繰り返さないよう肝に銘じてくださいね。は貴方が優秀であると知っています。家柄だけでなくそれに見合った能力があるとちゃんと知っています。次は昔のように素敵な方になっているよう願っています」
「はい。……ずっとお慕いしておりました。今度お会いする機会がありましたらその時は」
「昔のようにお話しできると良いですね。私もお慕いしていますよ。ご家族との問題も解決出来ますように。それでは」

 まさか最後の最後で………今後お会いすることは一生ないと思っていましたけれど、今の彼ならお話くらいはしても良いかもしれませんね。だってもう──昔のレイモンド様に戻っておられるようですし。ご家族との問題には口を出さないようにしましょう。それも罰のひとつです。
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