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第一章

36 旦那様の恋人

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 結局、旦那様とゆっくり話す───なんてことにはならなかったけど、当初の目的は果たしたので一緒に屋敷に帰ることになった。わたしはもちろん別々が良いと思いましたけど「恋愛結婚」の新婚夫婦ですからね。

 本音はしっかり隠したわたし、偉い!

 まあこんなことで褒めてくれる人なんて他にいないだろうけど。でも皇族の皆様にはバレていると思うんですよね。それか怪しまれてる。だって今まで何の交流もなかったのにいきなり恋愛結婚した、なんて話を信じる人は普通はいない。それでも相手は公爵家だから誰も口に出して言うことは出来ないんですよ。便利だね、建前とは言え公爵家だと。

「……移動中までお仕事だなんて、公爵様は忙しいですねえ」
「逆に君は何故そんなに暇そうなんだ?」
「わたしは仕事が早いですから」
「私も早い方だと思うが」

 何が言いたいんですかね?わたしが嘘を言っているとでも?貴方の恋人は嫌味さんと皮肉さんですか?わたしだったら絶対に関わりたくもない人たちですけど、公爵様は忙しすぎて頭がおかし……特殊な趣味になってしまったのでしょうか。だとしたらかわいそうですね?

「……なんだ、その哀れなものを見る目は」
「そんなつもりはないですよ」
「まあ君が自分のことを仕事が早いと言うなら本当なんだろうな。実際、何年も一人で没落寸前の伯爵家を守ってきただけでなく、ロードの仕事までこなしていたのだから」
「旦那様って……」

 人を認めるようなことも言えるのですね、と言う言葉は声に出さないようにした。だってそうじゃない?何度も言うけど、嫌味と皮肉ばっかりの人だからね?

 本気で驚いているとわたしが言いたかったことが分かったのか、心外だとでも言いたげな表情になった。すみませんね、本心だったとしてもそうじゃなかったとしても驚きなんですよ。旦那様は前科が多すぎますから!

「………旦那様。なにかありました?」

 ずっと思ってたけど疲れているような気がする。肉体的にと言うより精神的に。

「いや……そうだな。君は領地に詳しいか?」
「領地に詳しいかって、それはどこの領地のことです?」
「すべてだ」
「すべて、ですか」

 情報戦は得意、特に国内のことで知らないことはほとんどない。だから旦那様の言いたいことが何となくだけど分かる。
 ただ、旦那様が聞いていることがはっきりするまでは何も言わないつもり。あまりこちらの事情を探られるのも困るからね。
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