上 下
6 / 16
第一幕 惑星アルメラードへの旅

6 大山鳴動してネズミ一匹

しおりを挟む
 突如鳴り響いた警報アラートに、レイレンは今出てきたばかりのブリッジへ飛び戻った。
 コントロールパネルを叩き、表示された船内マップへ視線を走らせる。

「……倉庫の方で熱反応がある。通信回線オープン、アルさん応答お願いします」

 コールからコンマ数秒もかからず、スクリーンにウィンドウが開くとアルフリードの顔がそこに映し出された。

『こちら機関室エンジンルーム、今の警報アラートはなんだ?』
「倉庫で熱反応を検知しました。熱源の大きさからいってネズミだとは思いますが、確認してもらえますか?」
了解I copy。すぐ現場に向かう。坊ちゃんは熱反応の動きを追ってくれ』

 そのやり取りをレイレンの後ろから覗き込むように見ていた伽乱は眉を顰めた。

「熱反応?待ってください、こういう場合にはマニュアルがあったはずです。航海の序盤からルールを無視するつもりですか?まずはイルジニアに通信を……」
『いやだな~これだからおばかちゃんSilly babeは』

 パッ、と割り込むように現れたウィンドウにはチェリッシュの顔があった。

『ただのネズミでしょ?ちゅ~ちゅ~ネズミさん♪そんなもんにいちいち緊急通信回線開いてたら、イルジニアの連中に笑われちゃうよ。ねえそこのおまえ、ネズミ捕まえたらぼくのところに持って来てよ、部屋で飼うからさ』
『おいおい、遊びじゃねえんだぞ。密航者でも潜んでたら大事だ、少しは気ぃ引き締めろ』

 ウィンドウの中で倉庫の入り口を潜ったアルフリードは、慎重に中を見回して歩きながら言う。

『例えただのネズミだったとしても、ウィルスを持ち込んでる可能性がある。見付けたら即検査ポッド送りだ、ペットなんかにゃ出来ねえよ』
『目の保養もほとんどないこんな宇宙空間で、それくらい自由にさせてくれればいいのに!どうしてそんな筋肉頭Muscle headなのかね~』
『そりゃあんたたちお偉いさんの身の安全を守る義務が俺にあるからだよ。もう気が散るから黙っといてくれ!』

 通信越しに喧々諤々とやりあう二人に、レイレンも眉間を押さえる。
 と、ついに3つ目のウィンドウが開き、いつものように変わらぬ表情をしたフォルニスが映し出された。

『通信失礼いたします。キャプテン・レイレン、倉庫の酸素を抜いて密閉してみればよろしいかと』
「提案ありがとうニース。で、もしそれで万が一、人間だったらどうする?」
『死にます』

 容赦ない一言に、画面の向こうでアルフリードがぶほっと噴き出した。
 何かツボに入ったのか、チェリッシュも腹を抱えてげらげらと笑っている。

『ぶっ、あは、あはははははっ!しっ、死にます、って?なにその殺意!うっかり笑っちゃったじゃないか!いいね、今のはイイよ!このぼくが褒めてあげる!』
『恐縮です』

 ニース本人はあくまで真面目なのだろうが、表情が変わらないせいかむしろ道化ているようにすら見える。
 隣でそれを聞いていた伽乱の青筋が洒落にならなくなってきたのに気付いて、レイレンが慌てて口を挟んだ。

「あー、ニース、流石にそれはまずい。マニュアル的にも倫理的にもちょっとまずい。もうちょっと穏便な方法で――」
「レイレン」

 伽乱の手がコンソールを殴りつけるように叩いた。その表情には呆れと、そして失望のようなものが浮かんでいる。

「……君達が遊んでいるうちに熱反応が消えました」

 同時にアルフリードも言う。

『倉庫を一周したがネズミの形跡は見付からなかった。どこかセンサーに引っ掛からないところに逃げられたかもしれん。また怪しい反応が出たら教えてくれ』
「解りました、皆さんご協力ありがとうございます。通信を一旦クローズします」

 順々にウィンドウが閉じていく。それを最後まで見届けて顔を上げると、伽乱はその紫水晶のような瞳を濁らせて笑った。

「この任務に真剣に取り組んでいるのは私だけのようですね」
「いや、伽乱、まって、そんなことは」
「いいんです、もう解かりました。……構いませんよ、それならそれで。私だけでもやり遂げて見せます。だって、イルジニアの未来がかかっているのですから」

 吐き捨てるように言って、伽乱は身を翻す。その背中を引き留めることも出来ず――

 ***

 こうして小さな諍いの種を生み育てながら、それでも時間は刻々と過ぎ行く。
 ワープ走行を繰り返し彼らが最初に辿り着いたのは、緑と水の満ち溢れた星……古き良き時代のイルジニアに良く似た、惑星アルメラードだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

【R18】孕まぬΩは皆の玩具【完結】

海林檎
BL
子宮はあるのに卵巣が存在しない。 発情期はあるのに妊娠ができない。 番を作ることさえ叶わない。 そんなΩとして生まれた少年の生活は 荒んだものでした。 親には疎まれ味方なんて居ない。 「子供できないとか発散にはちょうどいいじゃん」 少年達はそう言って玩具にしました。 誰も救えない 誰も救ってくれない いっそ消えてしまった方が楽だ。 旧校舎の屋上に行った時に出会ったのは 「噂の玩具君だろ?」 陽キャの三年生でした。

男子学園でエロい運動会!

ミクリ21 (新)
BL
エロい運動会の話。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

おしっこ8分目を守りましょう

こじらせた処女
BL
 海里(24)がルームシェアをしている新(24)のおしっこ我慢癖を矯正させるためにとあるルールを設ける話。

新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~

焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。 美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。 スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。 これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語… ※DLsite様でCG集販売の予定あり

壁穴奴隷No.19 麻袋の男

猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。 麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は? シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。 前編・後編+後日談の全3話 SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。 ※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。 ※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。

処理中です...