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芝くんと城さん~元ヤン部長×ヤンデレ新人~

時にはそんな穏やかな日常風景

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 戸破を人生の師と崇める桜井と、城を運命の恋人と称する芝は、その上司二人の間柄と照らし合わせたように仲が良い。
 休憩中でもプライベートでも良く行動を共にしている二人に、同じく行動を共にしているのだから、当然といえば当然かもしれない。
 二人の距離は徐々に近付き、今では兄弟のように、時には上司達がいなくともキャッキャとはしゃいでいる事が多々あった。
 コレはそんなある日のお話である。

「なぁなぁツヅナ、昨日のテレビなんだけどー」
「あ、見ました見ました。あれ面白かったですよねー。特に最後の……」
「タンマ! そこ俺見てない。後でビデオで見るから今は言うな!」
「ぇー。そう言われると言いたくなっちゃうなー。どうしよっかなー」
「こーの、後輩の癖に生意気だぞー」
「アイタタタ、桜井先輩、ギブギブ!」

 チョークスリーパーを食らって、芝はバンバンと地面を叩く。
 あははと楽しげな笑い声を立てて、桜井は芝の頭をくしゃくしゃと撫でた。
 昼休みの屋上でのことである。
 ころころと仔犬のようにじゃれあう二人を、戸破と城が少し離れたところで眺めていた。
 これもまた、最近では良くある光景だ。

「……ああしてると、普通の若者なんですけどね」

 ぽつりと呟く城に、戸破はいつものようにきょとんとした表情でそちらを振り返った。

「彼等が普通の若者じゃないことなんて、ありましたか?」
「あ、いや……」

 改めてそんな事を聞かれると、どう言ったらイイのか悩む。
 この変なところで朴念仁の同僚は、自分があの部下からどういう目で見られているのかを、まったく自覚していないらしい。まぁ、それが彼らしいといえば彼らしいのだが。
 隙あらば襲われる自分としては、自覚しないでいるわけにもいかず、多少それが羨ましくもある。
 ふぅ、と溜息一つ。城はまた、転げまわる二人に目を向けた。

「しっかし、仲良いですね、あいつら」
「そうですね。友人というのは人生の宝ですから、あの関係を大切にして欲しいものです」
「ええ……それは、そうですね」

 自分達がいつまで側にいてやれるかなど、まったく解からないのだ。
 この社会で生きていくには幅広いコネが不可欠。これから先、彼等はそれを痛感することになるだろう。そんなことは、城にも解かっていた。
 だがしかし……

(俺の前でもアレくらい無邪気でいりゃ、可愛げがあるんだがな。
 そうしたら、俺だって逃げずに、もっと、ずっと――)

 ふと浮かんだ言葉に、誰よりも己自身が動揺した。
 今、俺は何を考えた?
 もっと……なんだっていうんだ。俺は今、何をする気だった? あいつに応えたらとんでもないことになる。それは解かっているはずなのに――

「どうしました、城さん? 顔が赤いですよ」
「あ、いや、なんでも……」
「熱でもあるんじゃありませんか? 医務室に行ってらした方がいいんじゃ」

 戸破のその言葉に、ぴくりと反応した芝が、城へと駆け寄ってきた。
 ストーカーを自負するだけあって、こういう時は耳聡い。

「城さん、風邪? 風邪なの? それなら俺、おかゆ作って看病するよっ?」
「人を勝手に病人にすんな!」
「ぇー。じゃあ、看病したいから病気になってよ」
「むしろ病気なのはおまえの頭だ!」

 俺はおまえが心配だよ、と疲れたように肩を落として、城は空を仰ぐ。
 やはり今のは何かの間違いだ。
 気のせいだったら気のせいなのだ。

「ツヅナー、どうした?」
「あ、うん、なんでもありません、桜井先輩」

 だからこれも多分、ただの間違い。
 自分に背を向けて桜井の方へと戻って行く背中に、伸ばしかけた指。ぎゅっと握る。

「……戸破サン」
「なんでしょうか、城さん?」
「やっぱり俺、熱、あるみてぇです」

 戸破はふっと笑って、青年達を見る。そしてこんな風に言うのだ。

「大丈夫ですよ。その熱ならば僕の方がずっと、付き合いが長いんだから」
「……え?」

 問い返す前に、桜井の声が響いた。

「戸破さーん! 見てください、これ! これってどうなんですか?」
「はいはい、今行くよ、桜井くん」

 立ち上がり歩き出す同僚の姿を見送って、城は頭を抱える。――彼はもう2年。自分は数ヶ月。戸惑いは増すばかりなのに。これからも悩み続けるのか。迷い続けるのか。

「あー……柄じゃねぇ」

 見上げた空は呆れるほどに青く。
 彼等を見下ろして、どこまでもどこまでも、澄み通るばかりだった。
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