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最終章 白雪姫
158話 紡がれた物語
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下から熱気が伝わってくる。今は多少熱いと感じる程度だったが、すぐに耐えられなくなるのは分かりきっていた。
炎によって顔を隠すためにつけられていた袋と両手を縛っていた紐が燃えて消える。視界が晴れてあたりを見渡すとすでに炎はサンドリオンの周辺を取り囲んでいた。
(これが私の終わりなの……)
意地悪なシンデレラの姉という前世から「白紙の頁」の所有者に生まれ変わった人間の最後は意地悪なシンデレラの姉と同じような結末だった。
前世の記憶の中で一つだけはっきりと抱いていた感情があった。
走馬灯のようにサンドリオンは前世の記憶を振り返る。あの頃はただ「主役」に憧れた。
与えられた役割によってそれは叶わぬ願いだと知っていた。それでも諦めきれなかった。
そして舞踏会の当日、魔女によって舞踏会に行くことさえ叶わなくなった。世界のすべてに絶望していた。
そんな時、たった一人の男が手を差し伸べてくれた。その男によってサンドリオンは本当の願いを叶えることが出来た。
「どうして私は……忘れていたんだろう」
転生して「白紙の頁」になった時、サンドリオンは前世の記憶を全て失っていた。
世界の理だからと一言で片づけられてしまう内容ではあるがそれでも彼女は大切な記憶を忘れていたことに悔しく感じた。
転生した後の記憶は今もなお残り続けている。アーサー王伝説の世界にたどり着き、主人公アーサーと共に戦場を共にした日々は辛く厳しいものが多かった。それでも忘れられない思い出になっていた。
アーサー王からは自身が本当にやりたいことを見つけるべきだと諭された。
「私がやりたかったこと……」
それはアーサー王のように誰かの為に生きたい、ただそれだけだった。
「それこそ、彼と同じように……」
頭に浮かぶのは黒と銀の髪を交えた男の姿だった。
今のサンドリオンは意地悪なシンデレラの姉とアーサー王の友としての二人の記憶が交わっていた。そのどちらも決して忘れてはいけないものだった。
「それなのに……」
この世界で白雪姫の役割を受け入れた後、正確にはローズによって王妃の役割に変えられた役割を受け入れて以降、サンドリオンは再び忘れてはいけない記憶を失ってしまった。
挙句のあてには再び大切な相手を殺した。アーサー王伝説の世界では自身の手によるものではないにせよ、サンドリオンを庇う形でアーサーは亡くなった。そしてこの世界では自らの手でグリムを刺し殺した。
この結末は自身に対する罰なのかと涙を流しながら空を見上げる。灰色の雪が降りしきり、暗雲が世界を覆いつくしていた。
足元の熱がいよいよ耐えられなくなり始めた。すでにガラスの靴を履いている足の裏はやけどで傷ついているのが痛みからわかっていた。
「彼の痛みに比べたらこんなもの……」
サンドリオンは空を見上げながら涙を流す。自身の死を受け入れようとした、その時だった。
城の上空の窓ガラスが割れるのを彼女は目撃する。
そして人影がこちらに向かって落ちてくるのを確認した。
「…………え」
上空からこちらに向かってくる人間が誰かサンドリオンはすぐに理解する。それはサンドリオンが困ったとき、絶望した時、死を受け入れた時に必ず手を差し伸べてくれるあの男だった。
◇◇◇
文字通り火の海となった王妃の処刑場にグリムは飛び込んだ。その中にいる彼女とは空中で視線が交わった。
勢いよく彼女の目の前に着地する。衝撃で傷口が再び開き、耐えきれず口からも吐血するが痛みを悟られぬように歯を食いしばってこらえた。
「どうして……」
彼女はグリムを見るなりそうつぶやいた。瞳からは涙が溢れていた。
「……この状況で理由が必要か?」
「……私はあなたを殺そうとしたわ」
彼女は消え入りそうな声で言う。
「俺は生きてる」
「たくさんの人たちを傷つけたわ」
小人たちの事をいっているのだとグリムは理解する。
「これから一緒に償っていけばいい」
すでにほとんどの小人たちは崩壊する世界の影響によって焼失してしまっている事実はあえてこの場では言わなかった。
「私は……悪役よ」
意地悪なシンデレラの姉を演じていた彼女が、今この場では白雪姫の王妃を指しているのは分かっていた。
「それなら俺はもっと悪い奴だ」
一度では飽き足らずに度もグリムは白雪姫ではなく王妃を救おうと白雪姫の物語で奔走いている。誰が見てもグリムの行動は正しいとは言われないだろう。
燃え盛る業火の中、グリムは髪留めからあるものを取り出すと彼女の足元にかがむ。
「ずっとこれを返すために俺はあの日からいくつもの世界を超えてきた」
自分が何をしたいのか、それは初めてリオンと出会った世界から決まっていた。
その願いを叶える為にグリムはこれまで渡り歩いた世界でどれだけ自分勝手な行いをしていただろうか。
いくつもの出会いがあった。
崩壊する世界を救おうとした心優しい白雪姫。
聖女として外から来た人間まで救ってみせたジャンヌダルク。
シンデレラの幸せを願う意地悪なシンデレラの姉。
与えられた役割に葛藤しながらも少女を思いやるオオカミの少年。
偉大なる王の遺志を継いで世界を救おうとした円卓の騎士達。
世界を犠牲にしてでも幼馴染を救おうとしていたいばら姫。
定められた死を前にしても笑顔でグリムを見送ったマッチ売りの少女。
そのどれもが今のグリムを形作っていた。
「これ……」
サンドリオンの視線がグリムの手元に向かう。
グリムが取り出したのは緋色のガラスの靴だった。
「約束の時だ、灰被りのお姫様、君にその靴は似合わない」
シンデレラの物語はガラスの靴を本物のシンデレラが履くことで物語は完結する。
あの日交わした約束を果たすときが来た。
「さぁ……物語を始めよう」
炎によって顔を隠すためにつけられていた袋と両手を縛っていた紐が燃えて消える。視界が晴れてあたりを見渡すとすでに炎はサンドリオンの周辺を取り囲んでいた。
(これが私の終わりなの……)
意地悪なシンデレラの姉という前世から「白紙の頁」の所有者に生まれ変わった人間の最後は意地悪なシンデレラの姉と同じような結末だった。
前世の記憶の中で一つだけはっきりと抱いていた感情があった。
走馬灯のようにサンドリオンは前世の記憶を振り返る。あの頃はただ「主役」に憧れた。
与えられた役割によってそれは叶わぬ願いだと知っていた。それでも諦めきれなかった。
そして舞踏会の当日、魔女によって舞踏会に行くことさえ叶わなくなった。世界のすべてに絶望していた。
そんな時、たった一人の男が手を差し伸べてくれた。その男によってサンドリオンは本当の願いを叶えることが出来た。
「どうして私は……忘れていたんだろう」
転生して「白紙の頁」になった時、サンドリオンは前世の記憶を全て失っていた。
世界の理だからと一言で片づけられてしまう内容ではあるがそれでも彼女は大切な記憶を忘れていたことに悔しく感じた。
転生した後の記憶は今もなお残り続けている。アーサー王伝説の世界にたどり着き、主人公アーサーと共に戦場を共にした日々は辛く厳しいものが多かった。それでも忘れられない思い出になっていた。
アーサー王からは自身が本当にやりたいことを見つけるべきだと諭された。
「私がやりたかったこと……」
それはアーサー王のように誰かの為に生きたい、ただそれだけだった。
「それこそ、彼と同じように……」
頭に浮かぶのは黒と銀の髪を交えた男の姿だった。
今のサンドリオンは意地悪なシンデレラの姉とアーサー王の友としての二人の記憶が交わっていた。そのどちらも決して忘れてはいけないものだった。
「それなのに……」
この世界で白雪姫の役割を受け入れた後、正確にはローズによって王妃の役割に変えられた役割を受け入れて以降、サンドリオンは再び忘れてはいけない記憶を失ってしまった。
挙句のあてには再び大切な相手を殺した。アーサー王伝説の世界では自身の手によるものではないにせよ、サンドリオンを庇う形でアーサーは亡くなった。そしてこの世界では自らの手でグリムを刺し殺した。
この結末は自身に対する罰なのかと涙を流しながら空を見上げる。灰色の雪が降りしきり、暗雲が世界を覆いつくしていた。
足元の熱がいよいよ耐えられなくなり始めた。すでにガラスの靴を履いている足の裏はやけどで傷ついているのが痛みからわかっていた。
「彼の痛みに比べたらこんなもの……」
サンドリオンは空を見上げながら涙を流す。自身の死を受け入れようとした、その時だった。
城の上空の窓ガラスが割れるのを彼女は目撃する。
そして人影がこちらに向かって落ちてくるのを確認した。
「…………え」
上空からこちらに向かってくる人間が誰かサンドリオンはすぐに理解する。それはサンドリオンが困ったとき、絶望した時、死を受け入れた時に必ず手を差し伸べてくれるあの男だった。
◇◇◇
文字通り火の海となった王妃の処刑場にグリムは飛び込んだ。その中にいる彼女とは空中で視線が交わった。
勢いよく彼女の目の前に着地する。衝撃で傷口が再び開き、耐えきれず口からも吐血するが痛みを悟られぬように歯を食いしばってこらえた。
「どうして……」
彼女はグリムを見るなりそうつぶやいた。瞳からは涙が溢れていた。
「……この状況で理由が必要か?」
「……私はあなたを殺そうとしたわ」
彼女は消え入りそうな声で言う。
「俺は生きてる」
「たくさんの人たちを傷つけたわ」
小人たちの事をいっているのだとグリムは理解する。
「これから一緒に償っていけばいい」
すでにほとんどの小人たちは崩壊する世界の影響によって焼失してしまっている事実はあえてこの場では言わなかった。
「私は……悪役よ」
意地悪なシンデレラの姉を演じていた彼女が、今この場では白雪姫の王妃を指しているのは分かっていた。
「それなら俺はもっと悪い奴だ」
一度では飽き足らずに度もグリムは白雪姫ではなく王妃を救おうと白雪姫の物語で奔走いている。誰が見てもグリムの行動は正しいとは言われないだろう。
燃え盛る業火の中、グリムは髪留めからあるものを取り出すと彼女の足元にかがむ。
「ずっとこれを返すために俺はあの日からいくつもの世界を超えてきた」
自分が何をしたいのか、それは初めてリオンと出会った世界から決まっていた。
その願いを叶える為にグリムはこれまで渡り歩いた世界でどれだけ自分勝手な行いをしていただろうか。
いくつもの出会いがあった。
崩壊する世界を救おうとした心優しい白雪姫。
聖女として外から来た人間まで救ってみせたジャンヌダルク。
シンデレラの幸せを願う意地悪なシンデレラの姉。
与えられた役割に葛藤しながらも少女を思いやるオオカミの少年。
偉大なる王の遺志を継いで世界を救おうとした円卓の騎士達。
世界を犠牲にしてでも幼馴染を救おうとしていたいばら姫。
定められた死を前にしても笑顔でグリムを見送ったマッチ売りの少女。
そのどれもが今のグリムを形作っていた。
「これ……」
サンドリオンの視線がグリムの手元に向かう。
グリムが取り出したのは緋色のガラスの靴だった。
「約束の時だ、灰被りのお姫様、君にその靴は似合わない」
シンデレラの物語はガラスの靴を本物のシンデレラが履くことで物語は完結する。
あの日交わした約束を果たすときが来た。
「さぁ……物語を始めよう」
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