148 / 161
最終章 白雪姫
148話 王妃
しおりを挟む
これは銀髪の騎士がマロリーとサンドリオンと離れた直後の出来事である。
「それでは我々も行くとしましょうか」
銀髪の騎士を見送った3人はローズを先頭にして部屋を出る。
「どこに寄るのですか?」
「それは……ついてからのお楽しみにしましょうか」
ローズは笑いながら階段を下る。そのまま1階まで下りたのでどこに向かうのか見当がつかない二人だったがローズは更に下に、地下の階段を下り始めた。
「ずいぶんと暗いわね……」
地下へと続く階段は薄暗く、明かりもともされていないせいもあって不気味な雰囲気を醸し出していた。
「もうすぐ着きますよ」
ローズはそういうとやがて一つの部屋の前にたどり着く。よく見ると天井のいたるところにクモの巣が張り巡らされており、とてもではないが同じ白亜の城の中とは思えなかった。
ローズは無言のまま扉を開ける。
「ここは……?」
「ここは王妃の実験部屋ですよ」
「王妃の……?」
ローズは部屋の明かりをつける。部屋につけられていたランタンに明かりがともっても薄暗さはなかなか晴れなかった。
サンドリオンはあたりを見回すとローズの言う通りへの中には不気味な薬や大きな窯があった。
「ほら、そこにいますよ」
ローズが指さしたのはマロリーとサンドリオンの背後だった。振り返るとそこにはいつのまにかローブを被った人間が二人の目の前に立っていた。
「ひゃっ!」
女性二人は驚いて飛び上がってしまう。
背後に突如現れた人間はゆっくりと被っていたローブを脱いで顔をあらわにする。長い黒髪に色白な肌、そして何よりも気品のあるとても美しい女性だった。
「ごきげんよう……私はこの国の王妃を務めさせていただいております」
女性は丁寧にお辞儀するとローズの横に立つ。
「お久しぶりです王妃、玉座にいなかったのでこちらにいると思いましたよ」
「ほんとに久しぶりですね……あなたが来たということはこの世界はなんとかなりそうなのかしら」
「えぇ、もちろん」
ローズの言葉を聞いて王妃は嬉しそうな表情をした。
「良かった……私の方でもいろいろ模索していましたが……白雪姫と王子の代役を務められる方はいませんでした」
王妃はローズに言われた「白紙の頁」所有者をこの世界で探し続けていたらしいがどこにも見つからなかったらしい。
「「白紙の頁」の人間は世界に一人生まれるだけでも珍しい存在です……あなたが気負う必要はありませんよ」
「しかし……外から来た人間に役割を担わせるのはあまりにも……」
王妃は申し訳なさそうに顔を下に向ける。すでにローズからどのようにこの世界を救おうとしているのか聞かされているようだった。
「でも……あなたが白雪姫を演じる方ですね……とても奇麗な方」
王妃は顔を上げるとサンドリオンを見てそう言った。
「あの子がいなくなった事は本当に悲しいけれど……あなたならきっとこの世界の人々も受け入れてくれるわ」
「王妃は白雪姫の事を憎んでいるはずでは?」
サンドリオンの問いに対して王妃はふふっと笑う。
「それは立場じょうのものですよ……私個人としてはあの子の事をとても愛していました」
彼女の台詞を聞いてサンドリオンはシンデレラの世界の自身の境遇を重ねてしまう。
嫌うのは役割でしかないことはサンドリオン自身が一番わかっていた。
「……王子の役割を担う人間はもうこの世界にいるのですか?」
「じきにやってきますよ……」
王妃の言葉にローズは意味深な回答を返した。
「あの……私は外の世界の事を存じ上げておりません……もしよろしければですが皆様がどのような経験をしてきたのか教えていただけませんか?」
王妃の言葉にサンドリオンとマロリーは快諾した。
「私もこの世界の事を教えてほしいかな」
「やれやれ……とても崩壊を危惧している人とは思えませんね」
ローズの言葉に王妃は口を膨らませて文句を言っていた。王妃といい役割を持っているが彼女の容姿はサンドリオンとほとんど変わらなく、その反応にはかわいさがあった。
「そうね……まずは私の前世の記憶でも話しましょうか」
「前世!?」
王妃は目を輝かせてサンドリオンに詰め寄った。王妃のリアクションに驚きつつも前世の記憶がある前例がない時点で興味を引くのは納得だった。
「王妃、何か飲み物はありませんか?」
王妃の興奮に水を差すようにローズは尋ねる。
「そちらの奥の戸棚に飲み物が入っています……あ、くれぐれも赤い蓋のついた方は手を付けないでくださいね」
王妃の指をさした先にはボトルがいくつか並んでいた。容器の形は同じものだが、キャップの部分だけ色が赤色と白色に分かれていた。
「赤色の方は毒が入っています」
なんでそんな危険なものが置いてあるのかとサンドリオンは言葉に出そうとしてすぐに理解する。ここは王妃が魔女としての役割をこなす場所と言っていた。
あたりを見れば薬のようなものが入ったガラスの便や呪いのまじないの類がいくつも乱雑に置かれていた。物語の中で王妃が白雪姫を殺すための毒をこの部屋で作成しているのは誰が見てもわかった。
「わざわざ毒と普通の飲み物を同じ場所に置かなくてもいいでしょうに……」
「だ、だまりなさい……私がずぼらと言いたいのかしら!」
白色の蓋のついたボトルを手に取り、キャップを開けて飲み始めたローズに対して王妃は顔を赤くしながら物申した。その様子は王妃というよりも少女のようでかわいらしいとサンドリオンは思った。
軽く咳払いをして向き直った王妃はサンドリオンに再び距離を詰める。
「さ、さぁお話を聞かせてください!」
「えぇ……まず初めは私がシンデレラの世界で意地悪なシンデレラの姉の役割を持っていた頃……」
王妃は目を輝かせていた。サンドリオンは目を閉じてゆっくりと今までの旅の記憶を語り始めた。
「それでは我々も行くとしましょうか」
銀髪の騎士を見送った3人はローズを先頭にして部屋を出る。
「どこに寄るのですか?」
「それは……ついてからのお楽しみにしましょうか」
ローズは笑いながら階段を下る。そのまま1階まで下りたのでどこに向かうのか見当がつかない二人だったがローズは更に下に、地下の階段を下り始めた。
「ずいぶんと暗いわね……」
地下へと続く階段は薄暗く、明かりもともされていないせいもあって不気味な雰囲気を醸し出していた。
「もうすぐ着きますよ」
ローズはそういうとやがて一つの部屋の前にたどり着く。よく見ると天井のいたるところにクモの巣が張り巡らされており、とてもではないが同じ白亜の城の中とは思えなかった。
ローズは無言のまま扉を開ける。
「ここは……?」
「ここは王妃の実験部屋ですよ」
「王妃の……?」
ローズは部屋の明かりをつける。部屋につけられていたランタンに明かりがともっても薄暗さはなかなか晴れなかった。
サンドリオンはあたりを見回すとローズの言う通りへの中には不気味な薬や大きな窯があった。
「ほら、そこにいますよ」
ローズが指さしたのはマロリーとサンドリオンの背後だった。振り返るとそこにはいつのまにかローブを被った人間が二人の目の前に立っていた。
「ひゃっ!」
女性二人は驚いて飛び上がってしまう。
背後に突如現れた人間はゆっくりと被っていたローブを脱いで顔をあらわにする。長い黒髪に色白な肌、そして何よりも気品のあるとても美しい女性だった。
「ごきげんよう……私はこの国の王妃を務めさせていただいております」
女性は丁寧にお辞儀するとローズの横に立つ。
「お久しぶりです王妃、玉座にいなかったのでこちらにいると思いましたよ」
「ほんとに久しぶりですね……あなたが来たということはこの世界はなんとかなりそうなのかしら」
「えぇ、もちろん」
ローズの言葉を聞いて王妃は嬉しそうな表情をした。
「良かった……私の方でもいろいろ模索していましたが……白雪姫と王子の代役を務められる方はいませんでした」
王妃はローズに言われた「白紙の頁」所有者をこの世界で探し続けていたらしいがどこにも見つからなかったらしい。
「「白紙の頁」の人間は世界に一人生まれるだけでも珍しい存在です……あなたが気負う必要はありませんよ」
「しかし……外から来た人間に役割を担わせるのはあまりにも……」
王妃は申し訳なさそうに顔を下に向ける。すでにローズからどのようにこの世界を救おうとしているのか聞かされているようだった。
「でも……あなたが白雪姫を演じる方ですね……とても奇麗な方」
王妃は顔を上げるとサンドリオンを見てそう言った。
「あの子がいなくなった事は本当に悲しいけれど……あなたならきっとこの世界の人々も受け入れてくれるわ」
「王妃は白雪姫の事を憎んでいるはずでは?」
サンドリオンの問いに対して王妃はふふっと笑う。
「それは立場じょうのものですよ……私個人としてはあの子の事をとても愛していました」
彼女の台詞を聞いてサンドリオンはシンデレラの世界の自身の境遇を重ねてしまう。
嫌うのは役割でしかないことはサンドリオン自身が一番わかっていた。
「……王子の役割を担う人間はもうこの世界にいるのですか?」
「じきにやってきますよ……」
王妃の言葉にローズは意味深な回答を返した。
「あの……私は外の世界の事を存じ上げておりません……もしよろしければですが皆様がどのような経験をしてきたのか教えていただけませんか?」
王妃の言葉にサンドリオンとマロリーは快諾した。
「私もこの世界の事を教えてほしいかな」
「やれやれ……とても崩壊を危惧している人とは思えませんね」
ローズの言葉に王妃は口を膨らませて文句を言っていた。王妃といい役割を持っているが彼女の容姿はサンドリオンとほとんど変わらなく、その反応にはかわいさがあった。
「そうね……まずは私の前世の記憶でも話しましょうか」
「前世!?」
王妃は目を輝かせてサンドリオンに詰め寄った。王妃のリアクションに驚きつつも前世の記憶がある前例がない時点で興味を引くのは納得だった。
「王妃、何か飲み物はありませんか?」
王妃の興奮に水を差すようにローズは尋ねる。
「そちらの奥の戸棚に飲み物が入っています……あ、くれぐれも赤い蓋のついた方は手を付けないでくださいね」
王妃の指をさした先にはボトルがいくつか並んでいた。容器の形は同じものだが、キャップの部分だけ色が赤色と白色に分かれていた。
「赤色の方は毒が入っています」
なんでそんな危険なものが置いてあるのかとサンドリオンは言葉に出そうとしてすぐに理解する。ここは王妃が魔女としての役割をこなす場所と言っていた。
あたりを見れば薬のようなものが入ったガラスの便や呪いのまじないの類がいくつも乱雑に置かれていた。物語の中で王妃が白雪姫を殺すための毒をこの部屋で作成しているのは誰が見てもわかった。
「わざわざ毒と普通の飲み物を同じ場所に置かなくてもいいでしょうに……」
「だ、だまりなさい……私がずぼらと言いたいのかしら!」
白色の蓋のついたボトルを手に取り、キャップを開けて飲み始めたローズに対して王妃は顔を赤くしながら物申した。その様子は王妃というよりも少女のようでかわいらしいとサンドリオンは思った。
軽く咳払いをして向き直った王妃はサンドリオンに再び距離を詰める。
「さ、さぁお話を聞かせてください!」
「えぇ……まず初めは私がシンデレラの世界で意地悪なシンデレラの姉の役割を持っていた頃……」
王妃は目を輝かせていた。サンドリオンは目を閉じてゆっくりと今までの旅の記憶を語り始めた。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?
長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。
王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、
「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」
あることないこと言われて、我慢の限界!
絶対にあなたなんかに王子様は渡さない!
これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー!
*旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。
*小説家になろうでも掲載しています。
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる