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最終章 白雪姫

143話 決断

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「お二人とも、おはようございます」

 玉座の間に訪れるとそこには一足先に到着していたローズが丁寧なお辞儀をして二人を迎え入れた。銀髪の騎士も同行していたが彼の事をローズは気にも留めていなかった。そんなローズの態度に対して銀髪の騎士は気にしていないようだった。

「おぉ、本当に来てくれたのか」

 王様は胸をなでおろすようにほっと息を吐くと両手を向けて3人を歓迎した。

「ローズ、他の方法がないか模索を……」

「何を言っているのですか?」

 マロリーの言葉をローズはすぐに遮った。

「外を見られたでしょう。ついにこの世界にも灰色の雪が降り始めてしまった……もう時間はないのです。これ以上白雪姫の代役が見つからなければ被害は広がり、人々が焼失しかねない」

「でも……」

「私は構わないわ」

 マロリーの言葉を遮ったのはサンドリオンだった。マロリーと銀髪の騎士は驚いた反応を見せるがサンドリオンの言葉を聞いたローズと王様は笑顔を浮かべた。

「本人の意思も確認がとれました……これでもうあなたが迷う理由はないですね」

「……よろしいのですか?」

 マロリーはサンドリオンの目の前に立つと見上げて確認を取る。

「えぇ……お願い」

 サンドリオンはマロリーの瞳を見つめ返す。

「白紙の頁」の所有者になってからアーサー王伝説の世界でアーサー王に言われた言葉を彼女は思い出す。

『お前が本当にやりたいことを見つけるんだ』

(……私がやりたいこと)

 サンドリオンは心の中でつぶやく。シンデレラの世界で意地悪なシンデレラの姉の役割を持った時、そしてアーサー王伝説の世界でアーサー王の死後に彼の思いを継ごうとした時、そのどちらに対しても今の彼女の判断は本当にやりたかったことだと胸を張っていえる自信があった。

「わかりました……それでは」

 サンドリオンの決意が本物だと理解したマロリーは手をサンドリオンの胸元に伸ばす。

「頁」に文字を刻む、彼女の能力を使おうとした、その時だった。

「お待ちください」

 それを制止したのは意外にもローズだった。

「……なんでしょう?」

 マロリーが尋ねる。

「もしよろしければここではなく、別の場所で彼女に役割を与えてほしいのです」

「なぜ……?」

 その場にいる全員が疑問に思った。マロリーやサンドリオンの決意が揺らがぬうちに一刻も早く白雪姫の役割を持った人間をこの世界に用意したい、そう思うのが当然だった。

「王様、白雪姫が消えたのは物語のどのタイミングですか?」

「それは……王妃に殺されかけて小人たちの家に行ってからしばらくした後だが……」

「それならば、このお城で彼女を白雪姫にしてしまうのは少々物語に矛盾が生じかねません……違いますか?」

「それは……確かに」

 ローズの言葉に王様は納得する。その場にいた全員の了承を得られたと判断したローズは言葉を続ける。

「なので今からマロリーには別の場所でサンドリオンに役割を与えてもらいます、よろしいですね?」

「……わかりました」

 マロリーが同意すると二人を連れてローズは部屋を出ようとする。

「…………」

「あなたには別の役割を担ってもらいます」

 そのあとについていこうと足を踏み出した銀髪の騎士をローズは言葉で遮った。

「近頃近くの森で猛獣がうろついているそうです。あなたにはその獣退治をしてもらいます」

「……それはすぐにやらなければいけない事なのか?」

「そうですね……もしも白雪姫になった彼女が森の中で襲われたのなら目も当てられません」

「それならなおさらお嬢達のそばから離れるわけにはいかない」

「マロリーの能力を使用するのは森の中ではありません、だからあなたには一足先に獣を狩っていただきたいのです」

「何……?」

「どういうことですかローズ?」

 マロリーと銀髪の騎士がローズに疑問を持つ。その疑問は当然だった。先ほどまでの彼の発言に沿うならばサンドリオンは城の外で、具体的には小人たちの住む家で役割を与えられる……そう思っていた。しかし、ローズは銀髪の騎士だけを先に外へと出向かせるように指示していた。

「少しばかりお二人には来ていただきたい場所があるのですよ……いうなれば時間の有効活用です」

 ローズは淡々と述べるが銀髪の騎士は納得がいかない様子だった。

「だめですよ……彼は極度の方向音痴です。そんな男を一人で森に放ったら二度と出会えません」

「お嬢、俺を馬鹿にしているのか?」

「事実でしょう」

 マロリーの言葉を聞いて銀髪の騎士はむっとした表情になる。

「羅針石があるからよっぽどは大丈夫でしょう……お願いできますか?」

 ため息を吐いてローズはあきれる。それでも不安がっているマロリーの反応を見た銀髪の騎士は拗ねるようにひとりでに歩き始めた。

「わかった、お嬢達こそ迷わないようにな」

 そんな彼らの反応を見てサンドリオンは思わず笑ってしまう。これまで彼女たちがどのように旅してきたのかはサンドリオンにはわからない。それでも会話を見ているだけでその軌跡が垣間見えたような気がした。
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