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第4章 いばら姫編
121話 焦がれる恋
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「ターリア、急にどうしたんだい?」
王妃がなくなってから数か月後、シツジはいばら姫に大事なようがあると呼び出された。
今までも何度も彼女によばれて部屋に訪れたことはあったが、ここまで神妙な顔つきのいばら姫と二人だけになったのは初めてだった。
「……シツジ、お願いがあるの」
彼女は真剣な目でシツジの瞳を見つめていた。いばら姫が体調を回復させてからしばらくたつが、城の外で魔法使いに出会ったせいか、それとも王妃がなくなったからかいばら姫は時折少女から淑女のような雰囲気を持つようになっていた。
「お姫様のいうことは仰せのままに」
友達としてのシツジではなく、彼女に使える一人の執事として話を聞くべきだと判断する。
「あなたはこの世界から離れなさい」
「…………え?」
彼女の口からでてきた言葉はシツジが全くと言っていいほど想定していない内容だった。
「どういう意味ですか?」
「そのままの意味よ」
「クビということでしょうか……ボクがなにか粗相を?」
「違うわ、あなたは何も悪くない、悪いのは…………よ」
彼女は悪くないといった後にシツジに聞こえないほど小さな声で何かをつぶやいた。
「それならなぜですか!」
「こんな世界からあなたは一刻も早く出るべきよ!」
シツジの言葉に対して今まで聞いたことがないほど大きな声でいばら姫は叫んだ。シツジは驚き目を見開いた。
「こんな……世界?」
「そうよ」
母親が死んでしまったからか、それとも怖い思いをしたからか、いくつもの理由を模索するがそれでも彼女の言っている意味をシツジは理解することができなかった。
「ターリアは……ボクにこの世界から出て行ってほしいの?」
「そうよ」
彼女は即答した。嘘偽りのない本心で言っているのだとこの7年の付き合いから読み取れた。
「ボクの事が嫌いになったの……?」
彼女に使える執事としてはなんともなさけない文字通り子供のようなセリフを漏らしてしまう。
「ち、違うわ……あなたの事は決して嫌いじゃない!」
今度は即座に否定をした。
「ならなんで……」
「…………それは」
いばら姫は言葉に詰まってしまう。うまく説明できないからか、それとも説明をしたくないからか今の彼女の反応だけではわからなかった。
「……ボクはこの世界に残るよ」
シツジの言葉を聞いていばら姫は手に握りこぶしを込めながら怒りをあらわにする。
「……このわからずや!」
「ボクにとっては……君と過ごせるこの世界は大好きだよ」
「…………っ!」
言い終えてから随分と恥ずかしい発言をしてしまったと顔を真っ赤にしたいばら姫を見て気が付いたシツジは彼女と同じような反応を示す。
「………………」
「………………」
部屋の中に決まずい沈黙が訪れる。静寂を先に破ったのはいばら姫の方だった。
「……それなら私が15歳の誕生日を迎える前に必ずこの世界を離れなさい」
「……どうして?」
「あなたは「白紙の頁」の所有者よ、この世界と共に終幕する必要はないわ」
彼女の言う通り「白紙の頁」を持った人間は境界線を越えて別の世界に行くことができる。
生まれ育った世界で人々と共に消える必要はなかった。
「でもボクは外の世界に出てやりたいことなんて何もないよ」
「それなら外の世界に出てから見つければいいわ」
彼女はそういうと薬指をそっと差し出した。
「約束よ」
「……わかったよ」
彼女の薬指にシツジは自身の薬指を重ねた。なぜ唐突にいばら姫がこの世界から出ていくように話してきたのかはわからない。それでも彼女のお願いならば叶えるべきだとシツジはそう思った。
◇◇
約束を交わしたシツジが部屋を出ていくのを確認したいばら姫はベッドに倒れこみ、枕に顔をうずめた。
「…………~っ!」
先ほどシツジに言われたセリフを思い出していばら姫はその場でバタバタと足をばたつかせて身悶えする。
「まだ心臓がドキドキしてる……」
物心がつく前から共に過ごしていた彼女にとってシツジはどちらかといえば家族のような関係だと城の外に出たあの日までは思っていた。
心の変化を感じ取ったのは魔法使いに襲われたときだった。
襲われそうになったところ助け、いばらの道を抱えて懸命に走るシツジの顔を見ていばら姫は彼に対して恋に落ちていた。
そんな彼から告白のようなセリフを聞いてしまってはいばら姫も穏やかにはいられなかった。
「……どうしよう」
しかし……だからこそというべきか愛するシツジをこのままこの世界にとどまらせるべきではないといばら姫は今日この日彼にここから出ていくように命じたのだった。
「父は……あまりにも危険だ」
物語を進める為ならば平然と妻である人間を殺めてしまう。常識的に考えてその行為は咎められるべきものである。
だが、父親に与えられた役割はこの国の王様である。いくらいばら姫が主人公とはいえ、この国の権限のほとんどは王様が持っている。そんな父親に逆らおうとすればいばら姫といえ殺されないまでもどんな仕打ちを受けるかわからない。それこそ15歳を迎えるまで監禁されてしまいうことも安易に想像できた。
「いつ父親の気分が変わってシツジを殺すかもわからない」
そうなってしまう前に……シツジをこの世界から逃がしたかった。
「……それなのに!」
再度、彼の顔と言葉を思い出していばら姫は顔を赤くして両手を頬に充てる。その顔には熱気がこもっていた。
嬉しかった、大好きだった母親が父親によって殺されてもうこの世界では誰も信じる事さえできないとそう思いかけていた。そんな中で彼のまっすぐな言葉はいばら姫の心を動かしていた。
「…………私はもう二度と過ちをしない」
母親が殺されたのはもとはと言えばいばら姫がわがままを言ったせいだった。その事実を認識したあの日からしばらくは食事ものどを通らず精神的にも壊れそうになっていたが、もしもいばら姫が死んでしまえばこの世界の人々は全員焼失してしまう。
父親ほどではないが、この世界の主役を与えられた人間としてこれ以上の犠牲を出すべきではないと、あの日から内面的にも大きく成長したいばら姫はそう固く決意したのだった。
王妃がなくなってから数か月後、シツジはいばら姫に大事なようがあると呼び出された。
今までも何度も彼女によばれて部屋に訪れたことはあったが、ここまで神妙な顔つきのいばら姫と二人だけになったのは初めてだった。
「……シツジ、お願いがあるの」
彼女は真剣な目でシツジの瞳を見つめていた。いばら姫が体調を回復させてからしばらくたつが、城の外で魔法使いに出会ったせいか、それとも王妃がなくなったからかいばら姫は時折少女から淑女のような雰囲気を持つようになっていた。
「お姫様のいうことは仰せのままに」
友達としてのシツジではなく、彼女に使える一人の執事として話を聞くべきだと判断する。
「あなたはこの世界から離れなさい」
「…………え?」
彼女の口からでてきた言葉はシツジが全くと言っていいほど想定していない内容だった。
「どういう意味ですか?」
「そのままの意味よ」
「クビということでしょうか……ボクがなにか粗相を?」
「違うわ、あなたは何も悪くない、悪いのは…………よ」
彼女は悪くないといった後にシツジに聞こえないほど小さな声で何かをつぶやいた。
「それならなぜですか!」
「こんな世界からあなたは一刻も早く出るべきよ!」
シツジの言葉に対して今まで聞いたことがないほど大きな声でいばら姫は叫んだ。シツジは驚き目を見開いた。
「こんな……世界?」
「そうよ」
母親が死んでしまったからか、それとも怖い思いをしたからか、いくつもの理由を模索するがそれでも彼女の言っている意味をシツジは理解することができなかった。
「ターリアは……ボクにこの世界から出て行ってほしいの?」
「そうよ」
彼女は即答した。嘘偽りのない本心で言っているのだとこの7年の付き合いから読み取れた。
「ボクの事が嫌いになったの……?」
彼女に使える執事としてはなんともなさけない文字通り子供のようなセリフを漏らしてしまう。
「ち、違うわ……あなたの事は決して嫌いじゃない!」
今度は即座に否定をした。
「ならなんで……」
「…………それは」
いばら姫は言葉に詰まってしまう。うまく説明できないからか、それとも説明をしたくないからか今の彼女の反応だけではわからなかった。
「……ボクはこの世界に残るよ」
シツジの言葉を聞いていばら姫は手に握りこぶしを込めながら怒りをあらわにする。
「……このわからずや!」
「ボクにとっては……君と過ごせるこの世界は大好きだよ」
「…………っ!」
言い終えてから随分と恥ずかしい発言をしてしまったと顔を真っ赤にしたいばら姫を見て気が付いたシツジは彼女と同じような反応を示す。
「………………」
「………………」
部屋の中に決まずい沈黙が訪れる。静寂を先に破ったのはいばら姫の方だった。
「……それなら私が15歳の誕生日を迎える前に必ずこの世界を離れなさい」
「……どうして?」
「あなたは「白紙の頁」の所有者よ、この世界と共に終幕する必要はないわ」
彼女の言う通り「白紙の頁」を持った人間は境界線を越えて別の世界に行くことができる。
生まれ育った世界で人々と共に消える必要はなかった。
「でもボクは外の世界に出てやりたいことなんて何もないよ」
「それなら外の世界に出てから見つければいいわ」
彼女はそういうと薬指をそっと差し出した。
「約束よ」
「……わかったよ」
彼女の薬指にシツジは自身の薬指を重ねた。なぜ唐突にいばら姫がこの世界から出ていくように話してきたのかはわからない。それでも彼女のお願いならば叶えるべきだとシツジはそう思った。
◇◇
約束を交わしたシツジが部屋を出ていくのを確認したいばら姫はベッドに倒れこみ、枕に顔をうずめた。
「…………~っ!」
先ほどシツジに言われたセリフを思い出していばら姫はその場でバタバタと足をばたつかせて身悶えする。
「まだ心臓がドキドキしてる……」
物心がつく前から共に過ごしていた彼女にとってシツジはどちらかといえば家族のような関係だと城の外に出たあの日までは思っていた。
心の変化を感じ取ったのは魔法使いに襲われたときだった。
襲われそうになったところ助け、いばらの道を抱えて懸命に走るシツジの顔を見ていばら姫は彼に対して恋に落ちていた。
そんな彼から告白のようなセリフを聞いてしまってはいばら姫も穏やかにはいられなかった。
「……どうしよう」
しかし……だからこそというべきか愛するシツジをこのままこの世界にとどまらせるべきではないといばら姫は今日この日彼にここから出ていくように命じたのだった。
「父は……あまりにも危険だ」
物語を進める為ならば平然と妻である人間を殺めてしまう。常識的に考えてその行為は咎められるべきものである。
だが、父親に与えられた役割はこの国の王様である。いくらいばら姫が主人公とはいえ、この国の権限のほとんどは王様が持っている。そんな父親に逆らおうとすればいばら姫といえ殺されないまでもどんな仕打ちを受けるかわからない。それこそ15歳を迎えるまで監禁されてしまいうことも安易に想像できた。
「いつ父親の気分が変わってシツジを殺すかもわからない」
そうなってしまう前に……シツジをこの世界から逃がしたかった。
「……それなのに!」
再度、彼の顔と言葉を思い出していばら姫は顔を赤くして両手を頬に充てる。その顔には熱気がこもっていた。
嬉しかった、大好きだった母親が父親によって殺されてもうこの世界では誰も信じる事さえできないとそう思いかけていた。そんな中で彼のまっすぐな言葉はいばら姫の心を動かしていた。
「…………私はもう二度と過ちをしない」
母親が殺されたのはもとはと言えばいばら姫がわがままを言ったせいだった。その事実を認識したあの日からしばらくは食事ものどを通らず精神的にも壊れそうになっていたが、もしもいばら姫が死んでしまえばこの世界の人々は全員焼失してしまう。
父親ほどではないが、この世界の主役を与えられた人間としてこれ以上の犠牲を出すべきではないと、あの日から内面的にも大きく成長したいばら姫はそう固く決意したのだった。
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