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第3章 アーサー王伝説編
92話 異変
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風にあたってくると告げてグリムは王の間を離れ、魔法陣から中庭が見える場内へと戻った。城の外を見渡すと先ほど彼女から聞いた話が嘘ではないかと疑うぐらいの今でも人々の賑やかな声が聞こえてくる。
「なんだ、こんな場所にいたのかい」
聞き覚えのある声がグリムに話しかけてくる。声の主の顔を見るとそれは先ほどまで酒豪王に参加していたランスロットだった。
「てっきり俺は王と共に最上階にいるのかと思っていたんだがね」
つい先ほどまで彼の言う通りだったわけだが、それを説明するのも面倒だと感じたグリムは無言で外を眺める。ランスロットは無視をされて不快になるかと思いきや同じように無言のままグリムの横に立ち、城から外を眺めた。
「…………今は魔法使いの姿じゃないんだな」
しばらくしてランスロットが開いた口から出た言葉は突拍子もないものだった。
「宴会は一区切りついたからな」
グリムの言葉を聞くとランスロットはそりゃそうだと笑った。
「良い世界だろ?」
人々を見ながらランスロットは話す。
「……そうだな」
「アーサーのやつはいつも人々を見て満足そうに笑っていたよ、これこそがあるべき姿だってな」
「……もしかしてあんた酔ってるのか?」
「まさか、俺があの程度のお酒で酔うわけがないだろ?」
あれはモードレットに華を持たせる為にわざと棄権したんだとランスロットは飄々と話す。それが嘘か本当かは彼の表情から読み取ることは出来なかった。
「王妃が酒に強いのは知っていたけど、まさか王があれほど強いのは知らなかったよ」
その言葉を聞いてグリムは一瞬硬直してしまう。もしも今のアーサー王がサンドリオンであることがばれているのならこの世界が崩壊を始める可能性は0ではなかった。
「それにしてもこの世界で王様を演じている奴が今宵の王だなんて笑えるよな」
ランスロットは笑いながらグリムの背中をバンバンと叩くが、それがどのような意味で彼が話しているのか分からないグリムは笑うことは出来なかった。
「ま、俺としては久しぶりに宴が開かれて、人々も王の顔を見ることが出来て良かったと思うぜ」
その言葉を聞いてグリムはそういえばと彼女に魔法をかけて本物のアーサー王の顔にしていた事を思い出す。その為に今夜のパーティーを開いたのだった。疑いがあったとしてもむしろ晴らす舞台であった。
「まぁ……王妃は泣いてたけどな」
ランスロットが今までの軽い口調から少しだけ声を落とす。
「……それは少しかわいそうだな」
王妃としては是が非でもアーサー王と一夜を共にしたかったのだろう。彼女の事を考えるとグリム自身が参加していたわけではないが、少しだけ今宵の結果には申し訳なくなってしまう。
「安心しろ、そこは俺がちゃんとカバーするさ」
ランスロットは元の口調に戻るとニッと笑いながら親指を立てる。
「そういえば、あんたと王妃はそういう関係になるんだったな」
「おいおい、そう言うつもりで言ったんじゃないぜ」
グリムの冗談にランスロットは苦笑いしながら突っ込みを入れる。ランスロットと話していると自然に砕けた話し合いになるのはアーサー王のカリスマと同じように彼の人間性たる所以なのかもしれないとグリムは思った。
「それじゃ、俺は行くわ」
ランスロットはそう言って城のどこかへと歩いて行った。グリムはそれを見送ると再び外を眺めた。
外から流れてくる風がここちよく、つい先ほどサンドリオンから聞いた話の内容についても少しずつ整理がつけられそうだった。
「やぁ、グリム」
突然声が聞こえてくる。辺りを見回すと人の気配はなく、その声の主が誰なのかはいつの間にか肩に止まっていた蝶々を見てグリムは理解する。
「いきなり声が聞こえてくると心臓に悪いな、マーリン」
「ごめんよ、蝶々をもっと派手な色にするべきかな?」
マーリンが穏やかな口調で話す。淡い青色の光を放つ幻想的な蝶々を見過ごしたグリムも注意が足りていなかったかもしれない。
「何か用か?」
「まずは、今宵のパーティーお疲れ様、見事だったよ」
「それはこっちの台詞だ」
対人でこのように会話している時の口調とは異なり、円卓酒豪王決定戦では観客を実況で盛り上げたその手腕こそ見事なものだった。
「伊達に何度もアーサー王の宴会の司会を務めていないからね」
マーリンは少しだけ恥ずかしそうに話す。
「……ここまで企画して優勝したアイツが一番の功績者かもな」
「驚いたよ、今のアーサー王はこんなにもお酒に強いんだね」
「……アーサー王は酒に弱かったのか?」
もしも本物のアーサー王がお酒に耐性がないのであれば、アーサー王の素顔を見せて人々を安心させようとした今宵の企画はむしろ人々に不信感を与えてしまったかもしれない。
「いや、アーサー王は普段は決して人前でお酒を飲まなかったからその強さを知っている人は殆どいないはずだよ」
マーリンはボクも知らなかったと付け足す。グリムはそれを聞いて一安心する。
「今のアーサー王はおそらくそのことを知っていて今夜の自ら酒豪王に参加したのかな」
「だろうな」
流石にサンドリオンもお酒が飲みたいという理由ではないはず……である。
シンデレラの世界で出会ったリオンならばそれも否定しきれないな、とグリムは苦笑いをする。
「さてと、前置きはこれくらいにして話の本題に入ろうか」
突然マーリンの口調が真面目になる。その気配を感じ取ったグリムは彼の声により耳を傾ける。
「結論から言うと……灰色の雪がこの世界に降り始めた」
「なんだ、こんな場所にいたのかい」
聞き覚えのある声がグリムに話しかけてくる。声の主の顔を見るとそれは先ほどまで酒豪王に参加していたランスロットだった。
「てっきり俺は王と共に最上階にいるのかと思っていたんだがね」
つい先ほどまで彼の言う通りだったわけだが、それを説明するのも面倒だと感じたグリムは無言で外を眺める。ランスロットは無視をされて不快になるかと思いきや同じように無言のままグリムの横に立ち、城から外を眺めた。
「…………今は魔法使いの姿じゃないんだな」
しばらくしてランスロットが開いた口から出た言葉は突拍子もないものだった。
「宴会は一区切りついたからな」
グリムの言葉を聞くとランスロットはそりゃそうだと笑った。
「良い世界だろ?」
人々を見ながらランスロットは話す。
「……そうだな」
「アーサーのやつはいつも人々を見て満足そうに笑っていたよ、これこそがあるべき姿だってな」
「……もしかしてあんた酔ってるのか?」
「まさか、俺があの程度のお酒で酔うわけがないだろ?」
あれはモードレットに華を持たせる為にわざと棄権したんだとランスロットは飄々と話す。それが嘘か本当かは彼の表情から読み取ることは出来なかった。
「王妃が酒に強いのは知っていたけど、まさか王があれほど強いのは知らなかったよ」
その言葉を聞いてグリムは一瞬硬直してしまう。もしも今のアーサー王がサンドリオンであることがばれているのならこの世界が崩壊を始める可能性は0ではなかった。
「それにしてもこの世界で王様を演じている奴が今宵の王だなんて笑えるよな」
ランスロットは笑いながらグリムの背中をバンバンと叩くが、それがどのような意味で彼が話しているのか分からないグリムは笑うことは出来なかった。
「ま、俺としては久しぶりに宴が開かれて、人々も王の顔を見ることが出来て良かったと思うぜ」
その言葉を聞いてグリムはそういえばと彼女に魔法をかけて本物のアーサー王の顔にしていた事を思い出す。その為に今夜のパーティーを開いたのだった。疑いがあったとしてもむしろ晴らす舞台であった。
「まぁ……王妃は泣いてたけどな」
ランスロットが今までの軽い口調から少しだけ声を落とす。
「……それは少しかわいそうだな」
王妃としては是が非でもアーサー王と一夜を共にしたかったのだろう。彼女の事を考えるとグリム自身が参加していたわけではないが、少しだけ今宵の結果には申し訳なくなってしまう。
「安心しろ、そこは俺がちゃんとカバーするさ」
ランスロットは元の口調に戻るとニッと笑いながら親指を立てる。
「そういえば、あんたと王妃はそういう関係になるんだったな」
「おいおい、そう言うつもりで言ったんじゃないぜ」
グリムの冗談にランスロットは苦笑いしながら突っ込みを入れる。ランスロットと話していると自然に砕けた話し合いになるのはアーサー王のカリスマと同じように彼の人間性たる所以なのかもしれないとグリムは思った。
「それじゃ、俺は行くわ」
ランスロットはそう言って城のどこかへと歩いて行った。グリムはそれを見送ると再び外を眺めた。
外から流れてくる風がここちよく、つい先ほどサンドリオンから聞いた話の内容についても少しずつ整理がつけられそうだった。
「やぁ、グリム」
突然声が聞こえてくる。辺りを見回すと人の気配はなく、その声の主が誰なのかはいつの間にか肩に止まっていた蝶々を見てグリムは理解する。
「いきなり声が聞こえてくると心臓に悪いな、マーリン」
「ごめんよ、蝶々をもっと派手な色にするべきかな?」
マーリンが穏やかな口調で話す。淡い青色の光を放つ幻想的な蝶々を見過ごしたグリムも注意が足りていなかったかもしれない。
「何か用か?」
「まずは、今宵のパーティーお疲れ様、見事だったよ」
「それはこっちの台詞だ」
対人でこのように会話している時の口調とは異なり、円卓酒豪王決定戦では観客を実況で盛り上げたその手腕こそ見事なものだった。
「伊達に何度もアーサー王の宴会の司会を務めていないからね」
マーリンは少しだけ恥ずかしそうに話す。
「……ここまで企画して優勝したアイツが一番の功績者かもな」
「驚いたよ、今のアーサー王はこんなにもお酒に強いんだね」
「……アーサー王は酒に弱かったのか?」
もしも本物のアーサー王がお酒に耐性がないのであれば、アーサー王の素顔を見せて人々を安心させようとした今宵の企画はむしろ人々に不信感を与えてしまったかもしれない。
「いや、アーサー王は普段は決して人前でお酒を飲まなかったからその強さを知っている人は殆どいないはずだよ」
マーリンはボクも知らなかったと付け足す。グリムはそれを聞いて一安心する。
「今のアーサー王はおそらくそのことを知っていて今夜の自ら酒豪王に参加したのかな」
「だろうな」
流石にサンドリオンもお酒が飲みたいという理由ではないはず……である。
シンデレラの世界で出会ったリオンならばそれも否定しきれないな、とグリムは苦笑いをする。
「さてと、前置きはこれくらいにして話の本題に入ろうか」
突然マーリンの口調が真面目になる。その気配を感じ取ったグリムは彼の声により耳を傾ける。
「結論から言うと……灰色の雪がこの世界に降り始めた」
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