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第2章 赤ずきん編
49話 赤ずきんの世界
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「「頁」を……持ってないだと?」
グリムの問いに少女は「はい」とだけ答える。その一言をグリムは理解出来なかった。
これまでいくつもの世界を旅してきた中で、役割の書かれていない「白紙の頁」を持った人間には出会ったことがある。それでも自分と同じ、「頁」を持っていない人間には一度も出会ったことがなかった。
「もしかして、疑っています?」
少女は納得のいっていないグリムの表情を見て首をかしげながら見つめてくる。
「それなら、私の中を探ってください」
少女はそう言うとグリムの手を自身の胸に当てる。そしてそのまま体の中にいれていった。
「…………!」
他者の「頁」には触れることが出来ない。それは世界の理《ことわり》である。
その例外はグリムだけ……正確には「頁」を持たない者だけのはずだった。
他者の体内を通して「頁」に干渉できる。それを知っているだけでも「頁」を持っている人間ではない証明にもなりえるほどだ。
「……どうですか?」
「……確かにないな」
他の生き物なら胸を貫いて体内を探れば「頁」をつかむことが出来る。しかし、彼女の中には何もなかった。
「信じてもらえたようですね」
少女はそう言うと掴んでいたグリムの手を離す。ゆっくりと彼女から手を引いたグリムはいまだに信じられないという気持ちと初めて自分と同じ境遇の存在に出会えたことへの期待が入り混じっていた。
「君は…………」
聞きたいことは山ほどあるはずなのに、いざ言葉にしようとすると何から話せばいいのかわからず言葉に詰まってしまう。
そんな困った様子を見て少女は再び笑うと口を開いた
「私の名前はマロリーと言います」
少女は自分の名前を名乗ると立ち上がりお辞儀をする。容姿は幼い少女だが彼女からは見た目以上に大人びた雰囲気が醸し出されていた。
「俺の名は……グリム。グリム・ワーストだ」
自己紹介をされたからにはこちら側も名乗らないわけにはいかず、彼女と同じように軽く頭を下げながら自身の名前を告げる。すると少女は目を輝かせてこちらに距離を詰めてきた。
「グリム!あなたはグリムという名前なのですね!」
「あ、あぁそうだ……」
今までの中で一番テンションの高い様子に困惑する。名前を名乗っただけでここまで興奮されることは過去に一度もなかった。
「もしかしてご兄弟とかいませんか?」
「い、いや……いない」
生まれ育った白雪姫の世界で物心がついた頃に小人たちに教えてもらったが、グリムは森の中に捨て子のように一人で乳母車に入っていたらしい。兄弟はおろか自分がどのようにしてあの世界に生まれてきたのかもわからなかった。
マロリーはグリムの回答を聞くと「そうですか」と急にテンションが下がってしまう。一体なぜ彼女がここまで一喜一憂するのか問いかけようとしたその時だった。
「ぐぎゅるるるるる」
目の前にいる少女のお腹から爆音が鳴り響いた。
「……お腹すかせているのか」
「じ、実は今朝から何も食べていなくて……」
少女は顔を赤面させながら恥ずかしそうに話す。なんでもこの世界で別の人間と待ち合わせをしていたようだが、探している間に疲れて一人でこの場所に座っていたらしい。
魔女の魔法でそこら辺にあるものを食べ物に変えることができれば楽だったが、あいにく姿形を変えることは出来ても味までは変えられない。便利に見える魔法でもいくつかの制約は存在していた。
「それなら俺と一緒に行くか?」
グリムの問いに対してマロリーは「よろしいのですか?」と聞き返してくる。「かまわない」と軽く返答すると彼女は嬉しそうな表情をしながらグリムの横に並んだ。
空を見上げると日は完全に昇り切り、丁度昼間になった、そんな時間帯だった。
「とりあえず、来た道を反対に引き返すか」
ここに来る時に通った草木の道を少女が傷つかない様にかき分けながら引き返す。
「……それにしてもオオカミが出たり、こんなに深い森があったり、この世界はずいぶんと大自然だな」
「あら、もしかしてワーストさんはこの世界が何の物語かご存じではないのですか?」
ワーストと呼ばれたことに一瞬反応が遅れてしまう。
自分が名乗った名前ということもあり、その部分は聞き流した。
「マロリーは知っているのか?」
グリムの問いに対して少女は「はい」と答える。続けざまに彼女はこの世界の物語を言葉にした。
「この世界は「赤ずきん」です」
◆◆◆
『赤ずきん』
とある小さな村に一人の少女がいました。
彼女はお気に入りの赤いフードをよく被っていたので、周りからは赤ずきんと呼ばれていました。
ある日、森の中に住んでいる祖母に食べ物を届けるため、赤ずきんは一人で森の中へと入ります。
それを見たオオカミは二人を食べてしまう計画を企みました。
赤ずきんの祖母の家に先回りをしたオオカミは家の中に入ると大きな口で赤ずきんの祖母を食べてしまいます。
オオカミが赤ずきんの祖母を丸呑みした直後に家のドアをノックする音が聞こえてきました。
赤ずきんが来たことを確認したオオカミは赤ずきんの祖母になりすまし、ベッドの中に隠れました。
いつもと祖母の様子が違うことに気が付いた赤ずきんは尋ねます。
「どうしておばあさんの耳は大きいの?」
「それはお前の声をよく聞こえるようにするためさ」
「どうしてそんなにおめめが大きいの?」
「それはお前をよく見るためさ」
「どうしてそんなに大きくお口をあけているの?」
「それはお前を食べるためさ!」
オオカミは赤ずきんの祖母を襲った時と同じように赤ずきんを一口で食べてしまいます。
二人を食べて満足したオオカミはそのままベッドの上で眠ってしまいました。
そこへ森の中を歩いていた狩人が通りかかります。
赤ずきんの祖母の家に違和感を覚えた狩人は家の中に入り、そこで寝ているオオカミを見つけました。
狩人はオオカミのお腹から赤ずきんと赤ずきんの祖母を救い出し、オオカミを懲らしめました。
無事だった赤ずきんと祖母は生きていた事を喜び、その後3人は森の中で幸せに過ごしました。
グリムの問いに少女は「はい」とだけ答える。その一言をグリムは理解出来なかった。
これまでいくつもの世界を旅してきた中で、役割の書かれていない「白紙の頁」を持った人間には出会ったことがある。それでも自分と同じ、「頁」を持っていない人間には一度も出会ったことがなかった。
「もしかして、疑っています?」
少女は納得のいっていないグリムの表情を見て首をかしげながら見つめてくる。
「それなら、私の中を探ってください」
少女はそう言うとグリムの手を自身の胸に当てる。そしてそのまま体の中にいれていった。
「…………!」
他者の「頁」には触れることが出来ない。それは世界の理《ことわり》である。
その例外はグリムだけ……正確には「頁」を持たない者だけのはずだった。
他者の体内を通して「頁」に干渉できる。それを知っているだけでも「頁」を持っている人間ではない証明にもなりえるほどだ。
「……どうですか?」
「……確かにないな」
他の生き物なら胸を貫いて体内を探れば「頁」をつかむことが出来る。しかし、彼女の中には何もなかった。
「信じてもらえたようですね」
少女はそう言うと掴んでいたグリムの手を離す。ゆっくりと彼女から手を引いたグリムはいまだに信じられないという気持ちと初めて自分と同じ境遇の存在に出会えたことへの期待が入り混じっていた。
「君は…………」
聞きたいことは山ほどあるはずなのに、いざ言葉にしようとすると何から話せばいいのかわからず言葉に詰まってしまう。
そんな困った様子を見て少女は再び笑うと口を開いた
「私の名前はマロリーと言います」
少女は自分の名前を名乗ると立ち上がりお辞儀をする。容姿は幼い少女だが彼女からは見た目以上に大人びた雰囲気が醸し出されていた。
「俺の名は……グリム。グリム・ワーストだ」
自己紹介をされたからにはこちら側も名乗らないわけにはいかず、彼女と同じように軽く頭を下げながら自身の名前を告げる。すると少女は目を輝かせてこちらに距離を詰めてきた。
「グリム!あなたはグリムという名前なのですね!」
「あ、あぁそうだ……」
今までの中で一番テンションの高い様子に困惑する。名前を名乗っただけでここまで興奮されることは過去に一度もなかった。
「もしかしてご兄弟とかいませんか?」
「い、いや……いない」
生まれ育った白雪姫の世界で物心がついた頃に小人たちに教えてもらったが、グリムは森の中に捨て子のように一人で乳母車に入っていたらしい。兄弟はおろか自分がどのようにしてあの世界に生まれてきたのかもわからなかった。
マロリーはグリムの回答を聞くと「そうですか」と急にテンションが下がってしまう。一体なぜ彼女がここまで一喜一憂するのか問いかけようとしたその時だった。
「ぐぎゅるるるるる」
目の前にいる少女のお腹から爆音が鳴り響いた。
「……お腹すかせているのか」
「じ、実は今朝から何も食べていなくて……」
少女は顔を赤面させながら恥ずかしそうに話す。なんでもこの世界で別の人間と待ち合わせをしていたようだが、探している間に疲れて一人でこの場所に座っていたらしい。
魔女の魔法でそこら辺にあるものを食べ物に変えることができれば楽だったが、あいにく姿形を変えることは出来ても味までは変えられない。便利に見える魔法でもいくつかの制約は存在していた。
「それなら俺と一緒に行くか?」
グリムの問いに対してマロリーは「よろしいのですか?」と聞き返してくる。「かまわない」と軽く返答すると彼女は嬉しそうな表情をしながらグリムの横に並んだ。
空を見上げると日は完全に昇り切り、丁度昼間になった、そんな時間帯だった。
「とりあえず、来た道を反対に引き返すか」
ここに来る時に通った草木の道を少女が傷つかない様にかき分けながら引き返す。
「……それにしてもオオカミが出たり、こんなに深い森があったり、この世界はずいぶんと大自然だな」
「あら、もしかしてワーストさんはこの世界が何の物語かご存じではないのですか?」
ワーストと呼ばれたことに一瞬反応が遅れてしまう。
自分が名乗った名前ということもあり、その部分は聞き流した。
「マロリーは知っているのか?」
グリムの問いに対して少女は「はい」と答える。続けざまに彼女はこの世界の物語を言葉にした。
「この世界は「赤ずきん」です」
◆◆◆
『赤ずきん』
とある小さな村に一人の少女がいました。
彼女はお気に入りの赤いフードをよく被っていたので、周りからは赤ずきんと呼ばれていました。
ある日、森の中に住んでいる祖母に食べ物を届けるため、赤ずきんは一人で森の中へと入ります。
それを見たオオカミは二人を食べてしまう計画を企みました。
赤ずきんの祖母の家に先回りをしたオオカミは家の中に入ると大きな口で赤ずきんの祖母を食べてしまいます。
オオカミが赤ずきんの祖母を丸呑みした直後に家のドアをノックする音が聞こえてきました。
赤ずきんが来たことを確認したオオカミは赤ずきんの祖母になりすまし、ベッドの中に隠れました。
いつもと祖母の様子が違うことに気が付いた赤ずきんは尋ねます。
「どうしておばあさんの耳は大きいの?」
「それはお前の声をよく聞こえるようにするためさ」
「どうしてそんなにおめめが大きいの?」
「それはお前をよく見るためさ」
「どうしてそんなに大きくお口をあけているの?」
「それはお前を食べるためさ!」
オオカミは赤ずきんの祖母を襲った時と同じように赤ずきんを一口で食べてしまいます。
二人を食べて満足したオオカミはそのままベッドの上で眠ってしまいました。
そこへ森の中を歩いていた狩人が通りかかります。
赤ずきんの祖母の家に違和感を覚えた狩人は家の中に入り、そこで寝ているオオカミを見つけました。
狩人はオオカミのお腹から赤ずきんと赤ずきんの祖母を救い出し、オオカミを懲らしめました。
無事だった赤ずきんと祖母は生きていた事を喜び、その後3人は森の中で幸せに過ごしました。
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