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36話 そして物語は動き出す
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町の住人達、明確な役割を持っていない人々もそわそわとしていた。
朝方にはまだ町の人々の動きも多くはなかった。日が沈み始め、夕方になると舞踏会に準備を始めた世界の活気は最高潮になりつつあった。
シンデレラの家でも既に物語は始まっていた。
◇
「汚らしいシンデレラ、あなたは留守番よ!」
「私たちが帰るまで掃除をしていなさい。チリ一つ残すんじゃないわよ!」
意地悪な義母と姉がシンデレラに雑用を押し付ける。
「わ、わたしは舞踏会に行けないのですか?」
「あなたみたいな醜い姿の女性が華々しい舞踏会に参加できるわけがないでしょ」
身の程をわきまえなさい、と二人は言葉を吐き捨てて舞踏会へ向かおうと家を出ようとする。
「あ、あの......お姉さまはどこへいったのですか?」
継母と姉が足を止める。
「何を言っているの、お前の姉なら今ここにいるじゃないの」
「い、いえもう一人のお姉さまを朝から見ていなくて……」
義母と姉が二人で顔を見合わせる。
「お母様は知らない?」
「見てないわね。あの子なら一人で舞踏会に行ってしまったんじゃない?」
二人共にもう一人の赤髪の姉が今どこにいるのか把握していないようだった。
「舞踏会をとても楽しみにしていたあの子なら私達を置いていったのかもね」
そう継母と姉は結論づけると家を出ていった。
「そんな危険な事を……?」
物語の中で「意地悪なシンデレラの姉」がひとり抜け出して舞踏会に向かう話などシンデレラは聞いたことがなかった。
物語が本格的に始まる前ならば姉の行動もある程度世界の理から見逃されていたが、今となってそのような行動をしていたとしたらそれは危険だとシンデレラは思う。
「お姉さま……無事だといいけど」
言葉をぽつりと言い終えたところで自分がシンデレラらしくない発言をしてしまったと気が付き、頬を軽くたたいて自身を咎めた。
「言われた通りに家の掃除をしなきゃ……」
◇
日は完全に落ち、舞踏会に参加する人々は城のほうへと向かっていった。町の中は猫や犬などの動物はおろか歩く人は誰もいない。町は静寂に包まれていた。
閑散とした夜にシンデレラは義母たちに言われた通りに家の掃除を続けていた。
ふと、彼女は明かりが集まっている城のほうを眺めた。
「綺麗……」
この世界の明り全てを集約したようなお城を見てシンデレラは言葉を漏らす。
「私もあの場所にいけたら……」
シンデレラは鏡に映った自分を見る。今の自分は一日中掃除をして、髪や肌は埃で黒ずみ、服装はぼろぼろの布切れのような格好という、とても舞踏会にいけるような姿ではなかった。
本当はこの後魔女の役割を与えられた人間が助けに来ることも内心では当然わかっていた。
それでもこの言葉は本心から出たものであった。
「その願い、叶えてあげようかい?」
窓の向こう側から声が聞こえると同時に突然大きな爆発音が家の外から鳴り響いた。
「な、何?」
慌ててシンデレラは家の外に出る。シンデレラの家の前で爆発は起きていたらしく、硝煙の臭いと爆発によって生じた煙が辺りを覆っていた。
「誰か……いる?」
はっきりと確認をすることはできないが、煙がかった中心に一人の人間が立っているように見えていた。
「げほっごほっごっほ!」
煙の中にいる人間は大きくせき込んでいた。
「あ、あの大丈夫ですか?」
「げほげほ……いやー、せっかくの出会いの場面だから派手に登場しようとしたら、火薬の量をまちがえたかねぇ」
煙の中からぬるりと人影がシンデレラ目掛けて動いてくる。
「危うく消し炭になるところだったよ」
人の姿はシンデレラに近づくにつれてはっきりとした形になる。そのシルエットは大きな帽子にロングスカートを履いた魔女のような姿をしていた。
「あなたは……誰ですか?」
「よくぞ聞いてくれた。私はいたいけな少女の願いを叶える老婆の魔法使いさ」
煙が完全に晴れる。シンデレラの問いを聞いた人間はにやりと笑うと何かを演じているかのように両手を大きく広げて笑った。
「老婆?」
「おや、どうしたんだい?」
「いえ、とても老婆にはみえなくて……」
「あらあら上手だね」
魔女と名乗った女性はシンデレラの言葉に対して照れるような仕草をする。
老婆というにはあまりにも肌や紙のツヤが良い。
顔にしわもなく年齢は義母ぐらいの年上の女性に見えた。
「私の事はどうだっていいさ。それよりもあなたの事だね」
バタバタと埃を払うと一つ咳払いをしてシンデレラの前に立つ。
「シンデレラ、あなたの願いを叶えましょう」
「それって……」
「舞踏会に行きたいんだろう?」
魔女の言葉にシンデレラは一瞬だけ目を輝かせるが、すぐに下を向いてしまう。
「でも今の私の姿ではとても舞踏会に行けません……」
魔女が魔法で解決してくれることも当然シンデレラを演じている彼女は知っていた。
ここにきてそれを知っていました、と口にするほどシンデレラはおろかではなかった。
魔女が魔女としての役割を果たしているようにシンデレラも役に入るべきと考えた。
そう考えてはいるものの魔法をかけられるのは未知の体験であり、どんな風になるのか心の中で興味を抱いていた。
「そうさね……まずは風呂に入ってきなさい」
「お、お風呂ですか?」
魔女の言葉にシンデレラはきょとんとしてしまう。
「流石にそこまで汚れた体で舞踏会にいくのはよくないだろう……おやどうしたんだい?」
「いえ、魔女なら魔法で体をきれいにしたりするのかと思って……」
シンデレラの言葉を聞いて魔女は申し訳なさそうに帽子をかくような仕草をする。
「魔法で見た目を変える事は出来る……でもそれは魔法でごまかしただけに過ぎないさね。せっかくの大舞台なんだ、まずは体を洗っておいで」
シンデレラの物語の大枠はほとんど変わらない。しかし、この世界のガラスの靴が母親から譲り受けたものであるように、魔女の魔法にも出来る事と出来ない事があるのかもしれないとシンデレラは納得する。
「でも……体を清めても着る服がないのです」
魔女はシンデレラの言葉を聞くとフフッと笑う。
「そこは魔女にまかせなさい」
言われた通りにするために二人は家の中に入り、シンデレラは風呂場に向かった。
朝方にはまだ町の人々の動きも多くはなかった。日が沈み始め、夕方になると舞踏会に準備を始めた世界の活気は最高潮になりつつあった。
シンデレラの家でも既に物語は始まっていた。
◇
「汚らしいシンデレラ、あなたは留守番よ!」
「私たちが帰るまで掃除をしていなさい。チリ一つ残すんじゃないわよ!」
意地悪な義母と姉がシンデレラに雑用を押し付ける。
「わ、わたしは舞踏会に行けないのですか?」
「あなたみたいな醜い姿の女性が華々しい舞踏会に参加できるわけがないでしょ」
身の程をわきまえなさい、と二人は言葉を吐き捨てて舞踏会へ向かおうと家を出ようとする。
「あ、あの......お姉さまはどこへいったのですか?」
継母と姉が足を止める。
「何を言っているの、お前の姉なら今ここにいるじゃないの」
「い、いえもう一人のお姉さまを朝から見ていなくて……」
義母と姉が二人で顔を見合わせる。
「お母様は知らない?」
「見てないわね。あの子なら一人で舞踏会に行ってしまったんじゃない?」
二人共にもう一人の赤髪の姉が今どこにいるのか把握していないようだった。
「舞踏会をとても楽しみにしていたあの子なら私達を置いていったのかもね」
そう継母と姉は結論づけると家を出ていった。
「そんな危険な事を……?」
物語の中で「意地悪なシンデレラの姉」がひとり抜け出して舞踏会に向かう話などシンデレラは聞いたことがなかった。
物語が本格的に始まる前ならば姉の行動もある程度世界の理から見逃されていたが、今となってそのような行動をしていたとしたらそれは危険だとシンデレラは思う。
「お姉さま……無事だといいけど」
言葉をぽつりと言い終えたところで自分がシンデレラらしくない発言をしてしまったと気が付き、頬を軽くたたいて自身を咎めた。
「言われた通りに家の掃除をしなきゃ……」
◇
日は完全に落ち、舞踏会に参加する人々は城のほうへと向かっていった。町の中は猫や犬などの動物はおろか歩く人は誰もいない。町は静寂に包まれていた。
閑散とした夜にシンデレラは義母たちに言われた通りに家の掃除を続けていた。
ふと、彼女は明かりが集まっている城のほうを眺めた。
「綺麗……」
この世界の明り全てを集約したようなお城を見てシンデレラは言葉を漏らす。
「私もあの場所にいけたら……」
シンデレラは鏡に映った自分を見る。今の自分は一日中掃除をして、髪や肌は埃で黒ずみ、服装はぼろぼろの布切れのような格好という、とても舞踏会にいけるような姿ではなかった。
本当はこの後魔女の役割を与えられた人間が助けに来ることも内心では当然わかっていた。
それでもこの言葉は本心から出たものであった。
「その願い、叶えてあげようかい?」
窓の向こう側から声が聞こえると同時に突然大きな爆発音が家の外から鳴り響いた。
「な、何?」
慌ててシンデレラは家の外に出る。シンデレラの家の前で爆発は起きていたらしく、硝煙の臭いと爆発によって生じた煙が辺りを覆っていた。
「誰か……いる?」
はっきりと確認をすることはできないが、煙がかった中心に一人の人間が立っているように見えていた。
「げほっごほっごっほ!」
煙の中にいる人間は大きくせき込んでいた。
「あ、あの大丈夫ですか?」
「げほげほ……いやー、せっかくの出会いの場面だから派手に登場しようとしたら、火薬の量をまちがえたかねぇ」
煙の中からぬるりと人影がシンデレラ目掛けて動いてくる。
「危うく消し炭になるところだったよ」
人の姿はシンデレラに近づくにつれてはっきりとした形になる。そのシルエットは大きな帽子にロングスカートを履いた魔女のような姿をしていた。
「あなたは……誰ですか?」
「よくぞ聞いてくれた。私はいたいけな少女の願いを叶える老婆の魔法使いさ」
煙が完全に晴れる。シンデレラの問いを聞いた人間はにやりと笑うと何かを演じているかのように両手を大きく広げて笑った。
「老婆?」
「おや、どうしたんだい?」
「いえ、とても老婆にはみえなくて……」
「あらあら上手だね」
魔女と名乗った女性はシンデレラの言葉に対して照れるような仕草をする。
老婆というにはあまりにも肌や紙のツヤが良い。
顔にしわもなく年齢は義母ぐらいの年上の女性に見えた。
「私の事はどうだっていいさ。それよりもあなたの事だね」
バタバタと埃を払うと一つ咳払いをしてシンデレラの前に立つ。
「シンデレラ、あなたの願いを叶えましょう」
「それって……」
「舞踏会に行きたいんだろう?」
魔女の言葉にシンデレラは一瞬だけ目を輝かせるが、すぐに下を向いてしまう。
「でも今の私の姿ではとても舞踏会に行けません……」
魔女が魔法で解決してくれることも当然シンデレラを演じている彼女は知っていた。
ここにきてそれを知っていました、と口にするほどシンデレラはおろかではなかった。
魔女が魔女としての役割を果たしているようにシンデレラも役に入るべきと考えた。
そう考えてはいるものの魔法をかけられるのは未知の体験であり、どんな風になるのか心の中で興味を抱いていた。
「そうさね……まずは風呂に入ってきなさい」
「お、お風呂ですか?」
魔女の言葉にシンデレラはきょとんとしてしまう。
「流石にそこまで汚れた体で舞踏会にいくのはよくないだろう……おやどうしたんだい?」
「いえ、魔女なら魔法で体をきれいにしたりするのかと思って……」
シンデレラの言葉を聞いて魔女は申し訳なさそうに帽子をかくような仕草をする。
「魔法で見た目を変える事は出来る……でもそれは魔法でごまかしただけに過ぎないさね。せっかくの大舞台なんだ、まずは体を洗っておいで」
シンデレラの物語の大枠はほとんど変わらない。しかし、この世界のガラスの靴が母親から譲り受けたものであるように、魔女の魔法にも出来る事と出来ない事があるのかもしれないとシンデレラは納得する。
「でも……体を清めても着る服がないのです」
魔女はシンデレラの言葉を聞くとフフッと笑う。
「そこは魔女にまかせなさい」
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