上 下
25 / 161

25話 「頁」を持たぬ者

しおりを挟む
「なんだ、お前か」

 扉をノックした後、出てきたドワーフの男から開口一番に言われた台詞だった。

「リオンが怪我をしてな……代わりにお金を持ってきた」

「そういう事か」

 ドワーフは差し出された袋を受け取ると中身を適当に確認してポケットにしまいこんだ。

「それじゃあな」

 約束を果たしたグリムは扉を閉じて帰ろうとする。

「待て、グリムといったか。お前のその服の中に隠している物はなんだ」

 ドワーフの男に閉めかけていた扉を止められる。

 彼の指先はグリムの着ている上着の左胸の部分を指していた。

「……別に大したものじゃない」

「その気配は「頁」が放つものだ。お前が今隠しているのは「頁」だろ?」

「……なぜわかった?」

 本当であれば決して見せたくないはずのものだった。隠している物の正体を当てられたグリムはおとなしく内側の胸ポケットに隠していた一枚の「頁」を手に取って見せた。

「どういうことだ、なぜお前が他者の「頁」を持っている?」

 ドワーフの男は目を見開いて驚いた様子を見せる。そこでグリムは思い違いをしていた事に気が付き、後悔する。

 ドワーフの男はグリムについて、リオンから「白紙の頁」を持っていない人間としか伝えられていない。そして彼はそれを冗談だと流していた。

 彼はグリム自身が元から所持している「白紙の頁」を体内から取り出していたと思ったのである。

「お前は何者だ……どうやって他人の「頁」を持つことが出来ている?」

 ドワーフの男は近くに置いてあった銃を手に取るとこちらに向けて構えた。

「黙っていて悪かった。騙すつもりはなかったんだ」

 右手に「頁」を持ちながら両手を上げて敵意がない姿勢を見せるが、ドワーフの男は警戒を解こうとはしなかった。

「お前は「白紙の頁」の所有者なのか?」

「それは違う、俺は……」

「まだ俺の質問は終わっていない」

 ドワーフの男は会話の主導権を譲ろうとはしなかった。グリムは「白紙の頁」を持った人間ではない。説明することをおざなりにした結果、現状の危機を招いてしまっていた。

「俺はお前という存在を知らない……そもそも「白紙の頁」の所有者は他人の「頁」を持つことなど出来ないはずだ」


 全ての人間は世界に生を受けると同時に「頁」を与えられる。それは役割の与えられていない「白紙の頁」を持った人間も同様である。両者ともに「頁」はその所有者から離れることは決してありえない。

 その事実に対して矛盾しているこの状況にドワーフの男は驚いているのだとグリムは把握する。

「答えろ、グリムと名乗ったな。お前はいったい何者だ?」

「俺は……自分自身の「頁」を持っていないんだ」

「何?」

 ピクリと銃を構えていた手が少しだけ動く。まだ言葉を発しても問題はない事を確認しながらグリムは自身の存在について説明を続けた。

「俺は生まれた時から「頁」を持っていない。信じてもらえないかもしれないが......本当だ」

「頁」があれば胸の中から出すことで確認できる。しかし、生まれた時から「頁」を持っていないグリムはその事実を証明する方法がなかった。

「……お前の事はとりあえず分かった」

 予想に反してドワーフの男はすんなりと説明を受け入れた。

「……だが、他者の「頁」を持っている理由には応えてもらう」

 銃の照準は相変わらずグリムを定めていた。
 命と同様の価値を持つ「頁」を持っていれば警戒するのは当然だった。

「俺は……他人の「頁」に触れることが出来る。そして「頁」を所有者から取り出せるんだ」

 この世界では誰にも言っていなかったグリムの能力について開示した。

 他人の胸元に触れるとグリムの手は相手の体内に入り込み、その者が持っている「頁」に触れることも、抜き取ることも出来る。それが「頁」を持たないグリムの持つ能力だった。

 グリム自身何故このようなことができるのかはわからない。

 他者の「頁」は見ることが出来ても触れることは出来ない。

 それは変わらない世界の理ことわりとしてすべての人々が認識していた。

 しかしグリムだけはその理ことわりから外れていたのである。

 これまでいくつもの世界を旅してきた中で「白紙の頁」を持つ人間には何回か出会っている。しかし「頁」を持たない人間には一度も出会ったことがなかった。

 確証はないが、グリムは「頁」を持たないが故に他者の「頁」に触れることが出来ると無理やり解釈していた。

「俺が聞いているのは「頁」を手に入れる能力についてじゃない。他者の「頁」を手に入れた理由だ。なぜお前はこの世界にいる馬の「頁」を持っている?」

「頁」に描かれた荷物を運ぶ馬の絵を見てドワーフの男はグリムに問い詰めてきた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

孤独な腐女子が異世界転生したので家族と幸せに暮らしたいです。

水都(みなと)
ファンタジー
★完結しました! 死んだら私も異世界転生できるかな。 転生してもやっぱり腐女子でいたい。 それからできれば今度は、家族に囲まれて暮らしてみたい…… 天涯孤独で腐女子の桜野結理(20)は、元勇者の父親に溺愛されるアリシア(6)に異世界転生! 最期の願いが叶ったのか、転生してもやっぱり腐女子。 父の同僚サディアス×父アルバートで勝手に妄想していたら、実は本当に2人は両想いで…!? ※BL要素ありますが、全年齢対象です。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

シンデレラの継母に転生しました。

小針ゆき子
ファンタジー
再婚相手の連れ子を見た時、この世界が「シンデレラ」の物語であることに気づいた。 私はケイトリン。 これからシンデレラをいじめて、いつかは断罪される継母!? 幸いまだ再婚したばかりでシンデレラのことはいじめていない。 なら、シンデレラと仲良く暮らせばいいんじゃない? でも物語の強制力なのか、シンデレラとの関係は上手くいかなくて…。 ケイトリンは「シンデレラの継母」の運命から逃れることができるのか!? 別の小説投稿サイトに投稿していたものです。 R指定に関する不可解な理由で削除されてしまったため、こちらに移転しました。 上記の理由から「R15」タグを入れていますが、さほど過激な表現はありません。

異世界日帰りごはん【料理で王国の胃袋を掴みます!】

ちっき
ファンタジー
異世界に行った所で政治改革やら出来るわけでもなくチートも俺TUEEEE!も無く暇な時に異世界ぷらぷら遊びに行く日常にちょっとだけ楽しみが増える程度のスパイスを振りかけて。そんな気分でおでかけしてるのに王国でドタパタと、スパイスってそれ何万スコヴィルですか!

修学旅行に行くはずが異世界に着いた。〜三種のお買い物スキルで仲間と共に〜

長船凪
ファンタジー
修学旅行へ行く為に荷物を持って、バスの来る学校のグラウンドへ向かう途中、三人の高校生はコンビニに寄った。 コンビニから出た先は、見知らぬ場所、森の中だった。 ここから生き残る為、サバイバルと旅が始まる。 実際の所、そこは異世界だった。 勇者召喚の余波を受けて、異世界へ転移してしまった彼等は、お買い物スキルを得た。 奏が食品。コウタが金物。紗耶香が化粧品。という、三人種類の違うショップスキルを得た。 特殊なお買い物スキルを使い商品を仕入れ、料理を作り、現地の人達と交流し、商人や狩りなどをしながら、少しずつ、異世界に順応しつつ生きていく、三人の物語。 実は時間差クラス転移で、他のクラスメイトも勇者召喚により、異世界に転移していた。 主人公 高校2年     高遠 奏    呼び名 カナデっち。奏。 クラスメイトのギャル   水木 紗耶香  呼び名 サヤ。 紗耶香ちゃん。水木さん。  主人公の幼馴染      片桐 浩太   呼び名 コウタ コータ君 (なろうでも別名義で公開) タイトル微妙に変更しました。

前世は婚約者に浮気された挙げ句、殺された子爵令嬢です。ところでお父様、私の顔に見覚えはございませんか?

柚木崎 史乃
ファンタジー
子爵令嬢マージョリー・フローレスは、婚約者である公爵令息ギュスターヴ・クロフォードに婚約破棄を告げられた。 理由は、彼がマージョリーよりも愛する相手を見つけたからだという。 「ならば、仕方がない」と諦めて身を引こうとした矢先。マージョリーは突然、何者かの手によって階段から突き落とされ死んでしまう。 だが、マージョリーは今際の際に見てしまった。 ニヤリとほくそ笑むギュスターヴが、自分に『真実』を告げてその場から立ち去るところを。 マージョリーは、心に誓った。「必ず、生まれ変わってこの無念を晴らしてやる」と。 そして、気づけばマージョリーはクロフォード公爵家の長女アメリアとして転生していたのだった。 「今世は復讐のためだけに生きよう」と決心していたアメリアだったが、ひょんなことから居場所を見つけてしまう。 ──もう二度と、自分に幸せなんて訪れないと思っていたのに。 その一方で、アメリアは成長するにつれて自分の顔が段々と前世の自分に近づいてきていることに気づかされる。 けれど、それには思いも寄らない理由があって……? 信頼していた相手に裏切られ殺された令嬢は今世で人の温かさや愛情を知り、過去と決別するために奔走する──。 ※本作品は商業化され、小説配信アプリ「Read2N」にて連載配信されております。そのため、配信されているものとは内容が異なるのでご了承下さい。

趣味を極めて自由に生きろ! ただし、神々は愛し子に異世界改革をお望みです

紫南
ファンタジー
魔法が衰退し、魔導具の補助なしに扱うことが出来なくなった世界。 公爵家の第二子として生まれたフィルズは、幼い頃から断片的に前世の記憶を夢で見ていた。 そのため、精神的にも早熟で、正妻とフィルズの母である第二夫人との折り合いの悪さに辟易する毎日。 ストレス解消のため、趣味だったパズル、プラモなどなど、細かい工作がしたいと、密かな不満が募っていく。 そこで、変身セットで身分を隠して活動開始。 自立心が高く、早々に冒険者の身分を手に入れ、コソコソと独自の魔導具を開発して、日々の暮らしに便利さを追加していく。 そんな中、この世界の神々から使命を与えられてーーー? 口は悪いが、見た目は母親似の美少女!? ハイスペックな少年が世界を変えていく! 異世界改革ファンタジー! 息抜きに始めた作品です。 みなさんも息抜きにどうぞ◎ 肩肘張らずに気楽に楽しんでほしい作品です!

❲完結❳傷物の私は高貴な公爵子息の婚約者になりました

四つ葉菫
恋愛
 彼は私を愛していない。  ただ『責任』から私を婚約者にしただけ――。  しがない貧しい男爵令嬢の『エレン・レヴィンズ』と王都警備騎士団長にして突出した家柄の『フェリシアン・サンストレーム』。    幼い頃出会ったきっかけによって、ずっと淡い恋心をフェリシアンに抱き続けているエレン。    彼は人気者で、地位、家柄、容姿含め何もかも完璧なひと。  でも私は、誇れるものがなにもない人間。大勢いる貴族令嬢の中でも、きっと特に。  この恋は決して叶わない。  そう思っていたのに――。   ある日、王都を取り締まり中のフェリシアンを犯罪者から庇ったことで、背中に大きな傷を負ってしまうエレン。  その出来事によって、ふたりは婚約者となり――。  全てにおいて完璧だが恋には不器用なヒーローと、ずっとその彼を想って一途な恋心を胸に秘めているヒロイン。    ――ふたりの道が今、交差し始めた。 ✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢  前半ヒロイン目線、後半ヒーロー目線です。  中編から長編に変更します。  世界観は作者オリジナルです。  この世界の貴族の概念、規則、行動は実際の中世・近世の貴族に則っていません。あしからず。  緩めの設定です。細かいところはあまり気にしないでください。 ✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢

処理中です...