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9話 良い世界
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「頁」を持った人間が焼失する要因は大きく分けて3つ存在する。
1つめは世界に与えられた役割に背いた場合。
例えばシンデレラが舞踏会の当日にお城に行かなくなったり、目の前の王子が舞踏会に参加しないなどが分かりやすい例だろう。
2つめは境界線を越えようとした場合。
世界を分かつ境界線を越えようとすると「頁」に書かれた文字や絵が光を放ち始める。
すぐに境界線から元の世界へ戻れば焼失することはないが、そのまま境界線上に居座ったり、越えようとすると「頁」は燃え始める。
境界線に対する知識は生まれた時から皆知っている。それゆえに自分から燃えに行く人間はいない。
3つめは物語が完結しなかった場合。もしくは物語の進行が不可能であると世界に判断された場合である。
これもシンデレラの世界で例えるならシンデレラや王子様のような重要な役割を持った人間がいなくなり、物語を進めることが出来なくなるなどが挙げられる。
物語が完結しなかった場合、最終的に世界に生まれてきた人間たちは全員「頁」が燃えて焼失する。物語を存続することが不可能と世界が判断すると、空から灰色の雪が降り始め、生き物は一人、また一人と所持している「頁」が燃え始める。
最終的にその灰色の雪が世界を覆いつくす頃には、すべての人間は焼失してしまうのだった。
「私の命令で兵士たちにはこの世界を見張らせている。この物語の中から「死神」と呼ばれる存在が現れることはないはずだ」
世界から役割を記載された「頁」を与えられた人間はよほどの破滅主義でない限り自らの手で物語の完結を邪魔する事はない。
グリムはリオンと初めて出会った時に「頁」を見せてほしいと言われたのを思い出す。
「頁」に書かれた文字やイラストは書き換えることは出来ない。「頁」を見せ合うことで役割を確認する行為をしている世界はそこまで多くない。
この世界の人々に互いに他者を警戒する行為として「頁」を見せ合うのを徹底させているのであれば王子は大した手腕である。
「だが......外から来た人間だけは対処することが出来ん」
他の世界と比べると小さな世界であるシンデレラの世界だが、それでもこの世界を囲うように存在している境界線全域を警備することはこの世界の人間総がかりでも不可能だ。
「……それなら俺をこの世界からすぐにでも追い出すか?」
グリムの発言を聞いた周りの兵士たちが武器を向けてくるが、それを王子は手で制した。
「そなたから見てこの世界はどうだ?」
王子は玉座に座ったままグリムに問いかけてくる。返答次第で俺の処遇を決める、そんな意思を言葉と態度から感じ取ることが出来た。
「まだ来て日は浅いが……良い世界だと思う」
「そうか……」
王子はそう言うともう一度手を挙げる。兵士たちに捕らわれるのかと一瞬身構えるグリムだったが、王子は挙げた手をゆっくりと頭の後ろにまわし、小さく息を吐いた
「この世界は決して私だけのものではないが、外から来た者にそう言われると嬉しいものだな」
王子は嬉しそうに頭をかきながら目線をそらす。期待する回答を答えられなかったわけではなく、むしろグリムの返答に王子は喜んでいた。
「私は基本的に城の外には出られない、町の様子は衛兵たちから聞いている」
与えられた役割によって王子はお城の外には出られないようだった。
舞踏会当日にシンデレラに出会うより前に王子様がシンデレラの顔を覚えてしまうと物語に支障が生じるかもしれない。王子の判断は慎重だが正しいものだとグリムは納得する。
「どうやら役割を持たない住民たちも町を大きく盛り上げてくれているらしいな」
グリムはまだこの世界に着いてから2日目であり、ほとんど町の様子を把握していない。
ただ最初に出会った一人の女性に自分の命を救われたから……そんな理由で回答をしていただけに王子に対して少しだけ申し訳なく思ってしまう。
「舞踏会に向けて町の人々がダンスの講習会へ通っているというのも聞いている」
ダンスの講習会という言葉を聞いてグリムは頭の中に思い浮かんでいたリオンと話が繋がる。どうやら彼女の日ごろの行いについても王子は把握しているようだった。
「この世界の物語、最後の結末は決まっているが、舞踏会で一緒に踊るのはシンデレラだけではない。私も本番が楽しみで仕方がないのだ」
王子はにこやかに笑う。その笑顔を見て彼は王子という与えられた役割を抜きにしても善人なのだろうとグリムは思った。
「町の中は自由に探索するといい。この世界の主要人物に話しかけてもよい」
王子様の言葉を聞いて兵士の一人が本当によろしいのでしょうか、と声を挙げた。
同じように王子の発言に対して周りの兵士たちはざわついていた。
「無論、何か問題を起こせば町の見張りをしている兵士たちに対処させる」
兵士たちは納得が出来ないのか、どよめきの声が絶えなかった。
見かねた王子はため息を吐くと続けて口を開く。
「そもそも目の前にいる旅人が仮に「死神」だったとして、主人公のシンデレラよりも先に一番警備の整っている王子の所へ挨拶に来ると思うか?」
周りの兵士たちのざわめく声が小さくなる。今の王子の言葉に納得した者たちが出てきたようだった。
「……なぜ俺がシンデレラに会っていないと知っている?」
「すまない、実を言うとそなたがこの世界に……町に来た時から警戒はしていたのだよ」
王子はゆっくりと理由を語り始めた。
「この町に入ったのは昨日の夕方頃だったと町の端を警備している者から話を受けていた。それも一人ではなく、「意地悪なシンデレラの姉」に連れられな」
「そこまで知っていたのか」
王子の情報網の広さと速さにグリムは驚きの声を上げる。
「こちらの世界の住人が……それもシンデレラほどではないにせよ主要人物である「意地悪なシンデレラの姉」と既にこの者は関わっているのだ。もし仮に私が「死神」かつ彼であるならば、その時点ですでに何らかの行動に移っていると思わないか?」
彼の淡々とした説明に対して兵士たちは状況を飲み込んだのか全員黙り込んでしまう。
「もしも私の所ではなく、他の場所へ向かっていたのなら流石に兵士に命じて対応していたかもしれないがな」
付け足すように話した言葉を聞いてなぜリオンが朝早くからこの場所へグリムを誘導していたのか理解する。もし彼女の助言を聞かずに行動していたらおそらくこの後のグリムの行動は相当制限されていただろう。
「お言葉に甘えて俺はしばらく町に滞在させてもらう」
「うむ、何かあれば私に言ってくれ」
最後に一言軽く挨拶をかわすとグリムは城の外へと出た。
◇
城を出て町に着いた頃には日が沈み、空模様は夕暮れに染まっていた。
「……あいつはまだレッスン中なのか?」
他に行くところもなく、ふと気になってリオンが入っていった家の裏側へと回り込む。表からは中を確認することはできなかったが、講習場の裏側には窓が付いており、そこから中を覗き見ることが出来た。
家の中はちょっとした広間になっており、中にはリオンと男性、それと女性が二人いた。
耳を澄ませてみると家の中からは音楽が流れている。音に合わせて男性とリオンが踊っていた。
「……凄いな」
踊りにあまり詳しくないグリムでも彼女のダンスの動きが並大抵のものではない事は伝わってきた。華麗でいて優雅、見ている人間をくぎ付けにする。そんな魅力が彼女のひとつひとつの細かな動きや仕草から感じ取れた。
「…………」
窓から覗いていたグリムと家の中にいたリオンの視線が合う。直後リオンは部屋にいた男性に何か話すとすぐに扉を開けて飛び出してきた。
1つめは世界に与えられた役割に背いた場合。
例えばシンデレラが舞踏会の当日にお城に行かなくなったり、目の前の王子が舞踏会に参加しないなどが分かりやすい例だろう。
2つめは境界線を越えようとした場合。
世界を分かつ境界線を越えようとすると「頁」に書かれた文字や絵が光を放ち始める。
すぐに境界線から元の世界へ戻れば焼失することはないが、そのまま境界線上に居座ったり、越えようとすると「頁」は燃え始める。
境界線に対する知識は生まれた時から皆知っている。それゆえに自分から燃えに行く人間はいない。
3つめは物語が完結しなかった場合。もしくは物語の進行が不可能であると世界に判断された場合である。
これもシンデレラの世界で例えるならシンデレラや王子様のような重要な役割を持った人間がいなくなり、物語を進めることが出来なくなるなどが挙げられる。
物語が完結しなかった場合、最終的に世界に生まれてきた人間たちは全員「頁」が燃えて焼失する。物語を存続することが不可能と世界が判断すると、空から灰色の雪が降り始め、生き物は一人、また一人と所持している「頁」が燃え始める。
最終的にその灰色の雪が世界を覆いつくす頃には、すべての人間は焼失してしまうのだった。
「私の命令で兵士たちにはこの世界を見張らせている。この物語の中から「死神」と呼ばれる存在が現れることはないはずだ」
世界から役割を記載された「頁」を与えられた人間はよほどの破滅主義でない限り自らの手で物語の完結を邪魔する事はない。
グリムはリオンと初めて出会った時に「頁」を見せてほしいと言われたのを思い出す。
「頁」に書かれた文字やイラストは書き換えることは出来ない。「頁」を見せ合うことで役割を確認する行為をしている世界はそこまで多くない。
この世界の人々に互いに他者を警戒する行為として「頁」を見せ合うのを徹底させているのであれば王子は大した手腕である。
「だが......外から来た人間だけは対処することが出来ん」
他の世界と比べると小さな世界であるシンデレラの世界だが、それでもこの世界を囲うように存在している境界線全域を警備することはこの世界の人間総がかりでも不可能だ。
「……それなら俺をこの世界からすぐにでも追い出すか?」
グリムの発言を聞いた周りの兵士たちが武器を向けてくるが、それを王子は手で制した。
「そなたから見てこの世界はどうだ?」
王子は玉座に座ったままグリムに問いかけてくる。返答次第で俺の処遇を決める、そんな意思を言葉と態度から感じ取ることが出来た。
「まだ来て日は浅いが……良い世界だと思う」
「そうか……」
王子はそう言うともう一度手を挙げる。兵士たちに捕らわれるのかと一瞬身構えるグリムだったが、王子は挙げた手をゆっくりと頭の後ろにまわし、小さく息を吐いた
「この世界は決して私だけのものではないが、外から来た者にそう言われると嬉しいものだな」
王子は嬉しそうに頭をかきながら目線をそらす。期待する回答を答えられなかったわけではなく、むしろグリムの返答に王子は喜んでいた。
「私は基本的に城の外には出られない、町の様子は衛兵たちから聞いている」
与えられた役割によって王子はお城の外には出られないようだった。
舞踏会当日にシンデレラに出会うより前に王子様がシンデレラの顔を覚えてしまうと物語に支障が生じるかもしれない。王子の判断は慎重だが正しいものだとグリムは納得する。
「どうやら役割を持たない住民たちも町を大きく盛り上げてくれているらしいな」
グリムはまだこの世界に着いてから2日目であり、ほとんど町の様子を把握していない。
ただ最初に出会った一人の女性に自分の命を救われたから……そんな理由で回答をしていただけに王子に対して少しだけ申し訳なく思ってしまう。
「舞踏会に向けて町の人々がダンスの講習会へ通っているというのも聞いている」
ダンスの講習会という言葉を聞いてグリムは頭の中に思い浮かんでいたリオンと話が繋がる。どうやら彼女の日ごろの行いについても王子は把握しているようだった。
「この世界の物語、最後の結末は決まっているが、舞踏会で一緒に踊るのはシンデレラだけではない。私も本番が楽しみで仕方がないのだ」
王子はにこやかに笑う。その笑顔を見て彼は王子という与えられた役割を抜きにしても善人なのだろうとグリムは思った。
「町の中は自由に探索するといい。この世界の主要人物に話しかけてもよい」
王子様の言葉を聞いて兵士の一人が本当によろしいのでしょうか、と声を挙げた。
同じように王子の発言に対して周りの兵士たちはざわついていた。
「無論、何か問題を起こせば町の見張りをしている兵士たちに対処させる」
兵士たちは納得が出来ないのか、どよめきの声が絶えなかった。
見かねた王子はため息を吐くと続けて口を開く。
「そもそも目の前にいる旅人が仮に「死神」だったとして、主人公のシンデレラよりも先に一番警備の整っている王子の所へ挨拶に来ると思うか?」
周りの兵士たちのざわめく声が小さくなる。今の王子の言葉に納得した者たちが出てきたようだった。
「……なぜ俺がシンデレラに会っていないと知っている?」
「すまない、実を言うとそなたがこの世界に……町に来た時から警戒はしていたのだよ」
王子はゆっくりと理由を語り始めた。
「この町に入ったのは昨日の夕方頃だったと町の端を警備している者から話を受けていた。それも一人ではなく、「意地悪なシンデレラの姉」に連れられな」
「そこまで知っていたのか」
王子の情報網の広さと速さにグリムは驚きの声を上げる。
「こちらの世界の住人が……それもシンデレラほどではないにせよ主要人物である「意地悪なシンデレラの姉」と既にこの者は関わっているのだ。もし仮に私が「死神」かつ彼であるならば、その時点ですでに何らかの行動に移っていると思わないか?」
彼の淡々とした説明に対して兵士たちは状況を飲み込んだのか全員黙り込んでしまう。
「もしも私の所ではなく、他の場所へ向かっていたのなら流石に兵士に命じて対応していたかもしれないがな」
付け足すように話した言葉を聞いてなぜリオンが朝早くからこの場所へグリムを誘導していたのか理解する。もし彼女の助言を聞かずに行動していたらおそらくこの後のグリムの行動は相当制限されていただろう。
「お言葉に甘えて俺はしばらく町に滞在させてもらう」
「うむ、何かあれば私に言ってくれ」
最後に一言軽く挨拶をかわすとグリムは城の外へと出た。
◇
城を出て町に着いた頃には日が沈み、空模様は夕暮れに染まっていた。
「……あいつはまだレッスン中なのか?」
他に行くところもなく、ふと気になってリオンが入っていった家の裏側へと回り込む。表からは中を確認することはできなかったが、講習場の裏側には窓が付いており、そこから中を覗き見ることが出来た。
家の中はちょっとした広間になっており、中にはリオンと男性、それと女性が二人いた。
耳を澄ませてみると家の中からは音楽が流れている。音に合わせて男性とリオンが踊っていた。
「……凄いな」
踊りにあまり詳しくないグリムでも彼女のダンスの動きが並大抵のものではない事は伝わってきた。華麗でいて優雅、見ている人間をくぎ付けにする。そんな魅力が彼女のひとつひとつの細かな動きや仕草から感じ取れた。
「…………」
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