異世界ガンスミス!

書記係K君

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プロローグ

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 二〇××年、ある秋の肌寒い夜、東京にて――


「へっくし!! うぅ~えらく今夜は冷えるッスねぇ……」

「そうだなぁー、ここ数日でずいぶんと冷え込んだよなぁー」

「これだけ外気温が下がったら、今年の『ガスガン』は撃ち納めかな?」


 あーそうかもしれないな……。
 俺は、いつも一緒に遊んでいる【サバゲー仲間】の男三人に笑いかける。

 【サバゲー】とは、ガス圧や電動モーターを利用してBB弾を撃ち出す『エアソフトガン』を使って楽しむ、日本発祥のシューティング・スポーツ【サバイバルゲーム】の略称だ。ぶっちゃけて言えば、銃撃戦を模した”戦争ごっこ”ってヤツだな。

 最近の【サバゲー】では、充電式の電動モーターを利用してBB弾を撃ち出す『電動ガン』タイプが主流だ。ガス圧を利用する『ガスガン』タイプは、気温が下がる冬場になるとガス圧不足で使えなくなるし、消耗品のガス缶はコスパが悪いからだ。

 でも、トリガーを引いた時に「パシュ!」とホンモノさながらに射撃反動が味わえる『ガスガン』タイプは、ハンドガン愛好家の俺にはタマらないんだよなぁ~。


「でも最近は、屋内でサバゲーできる施設が増えてありがたいッスねぇ~」

「そうだなぁー、屋内ならまだ『ガスガン』イケるかもしれないぞぉー?」

「それなら来月、横浜で屋内イベント戦があるぞ。オマエら参加するか?」


 ああ、残念だけど、俺はパスかな……。
 この時期は、仕事が忙しいから【サバゲー】やってる余裕ないんだよぉ……。
 まったり部屋でモデルガンを作ったり、動画編集でもしてノンビリ過ごすよ。


「あっ、先輩が動画投稿してる『小学生でも作れるモデルガン講座』ッスね!」

「あの動画は俺も見てるぞぉー。発砲スチロールで作る【レミントン・ダブル・デリンジャー】はカッコ良かったなぁー」

「ふじこちゃんが口紅を装填して撃つオープニングは最高ッス!」

「段ボールで作る【コルト・ローマンMk-Ⅲ2inchモデル】も良かったな」

「あぶ刑事デカッスね、あぶ刑事デカのユウジ!」

「動画の再生回数も、結構伸びてるみたいじゃないか?」


 いやーおかげ様で順調なんだよね。
 広告収入が入るようになったら、念願の【3Dプリンター】を購入したい!


「それで作ったら『小学生』ムリだろ……」

「ちなみに次は、何を作るつもりなんスか?」


 ふふっ、よくぞ聞いてくれた。
 俺が次に作るのは――【マテバ・モデロ2006M】だぜぇ!!


「うわっ、ド変態リボルバーじゃないッスか!?」

「いやぁー某SFアニメの見過ぎだろぉー」

「用意できてる?」


 マテバで良ければ!!

 いやぁ~今も時間を見つけては、少しずつ設計図を書いてるんだけどさ。
 もうホントに、設計図を書いてるだけでメッチャ楽しいんだよね!


「俺は、先輩が作る【オートマチック銃】も見てみたいッスけどね」

「おっ、ここはやっぱり【グロック17】だよなぁー!?」

「なに言ってるんスか、【デザートイーグル】に決まってるッスよ!」

「いやいや、ここは”尺取虫”の異名を持つ【ルガーP08】を――」


 え~っと、今後の製作予定は……。
 まずは【マテバ・モデロ6ウニカ】と【キアッパ・ライノ】を作りたいかな。
 その後は【S&Wスミスアンドウェッソンセンティニアル】や【コルトM1851ネイヴィー】や【コルト・シングルアクション・アーミー】も作って、それから、え~と…――。


「それ全部【リボルバー銃】ッスよねぇ!?」

「しかも見事に、クセモノ銃ばっかじゃねえか!?」

「この【リボルバー銃】オタクめ……」


 な、なんだよ、そんなジト目で俺のこと見るなよ!
 よしわかった、俺が【リボルバー銃】の魅力について説明しようじゃないか!


「いやいや。先輩のリボルバー話を聞いてたら、終電なくなるッスよ」

「そうだなぁー、寒いからさっさと帰るかぁー」

「この【リボルバー銃】オタクめ……」

「まだ言ってるッス」


 俺は【サバゲー仲間】とワイワイ喋りながら、ぼんやり街灯が照らす歩道を歩いていく。
 ふと空を見上げれば、綺麗な月夜だった。

 今年も、あっという間だったなぁ……。

 俺も今年で三十六歳か。趣味の【サバゲー】と【モデルガン作り】が嵩じて、
 年齢=彼女いない歴を更新中。どこに出しても立派な【ミリオタ】独身男だ。

 これだけ聞くと、残念な【ミリオタ】独身男の悲哀に思えるかもしれないが。
 趣味も心ゆくまで楽しめているし。友達とワイワイ騒ぐ日々も悪くない。
 まあ「足るを知る」ってヤツだな。


 何だかんだで……俺って幸せだよなぁ……。
 あぁ早く部屋に戻って【マテバ】を作りたいなぁ…――


 その時だった――。
 俺の視界が急に暗転し、意識が遠のいていく――。
 そして、次に目が覚めると……俺は【異世界】に転生していた。

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