上 下
19 / 20
(19)

虹を渡る犬

しおりを挟む

 シロがユルミを乗せてしばらく走っていると霧のような雨がサラサラと降って来た。ずっと黙ったままのユルミにシロが少しおどけた調子で話しかけてみる。
ワオオ、ワオオン?(また少し重くなったんじゃないか?)
ユルミが言い返してこないのでシロは黙ってスピードを上げた。市街区に入ったが目的地が有る訳でもなく、学校の前もスピードを落とさず駆け抜けた。
ワオォーンッ
やみくもに走りながら街の辻々で大きく吠える。黙ったままのユルミの代わりに叫んでいるみたいだった。
ワオォーンッ
シロの中で育った知性と、ユルミの中で育った感性とが、互いに引き合い共鳴した。どちらも元はユルミのものであるだけに、シロの知性よりユルミの感性の方が優勢だったかも知れない。
ワオォーンッ
シロとユルミは一心同体となって町の外れを駆け抜けた。
どこか遠くへ。知らない町へ。
雨はサラサラと降り続いていたが、強い風が吹いたせいか雲がちぎれて隙間ができた。その隙間からカーテンのように陽の光が差し込んだ。
「あ、虹だ!」
行く手に大きな虹が現れたのを見て、ユルミが思わず声を上げた。旧湖底地区から続くこの町と、遠い見知らぬ町とをつなぐ虹の橋。くっきりと鮮やかに輝く虹は、近付けばさわれそうに見えた。一つになったシロとユルミの中で、感性が知性を圧倒した。
「行こう!」ワオォン!
高層ビルの建設現場まで走るとフェンスを飛び越え中に入った。建設中の鉄骨の上を右へ左へシュタッ、シュタッと跳び移りながら、上へ上へと駆け登る。最上部に出ると虹はいっそうくっきりと見えた。そのまま虹に向かって走るシロ。その背中でユルミがキュッと身構える。
虹の橋へジャンプ!
~~~~~~~~~~
 次の日、冷たい小雨の降る建設現場で倒れている子供が発見された。すでに息絶えていた。状況から見て、鉄骨に登って遊んでいるうちに足を滑らせて転落したものと思われた。
「昨日からのにわか雨で滑りやすかったんだろう、可愛そうに。」
大人たちはそう言って冥福を祈った。亡きがらは知らせを受けたリンコ先生に引き取られ、ひっそりと荼毘に付された。
「ユルミさんを生命技術研究所の研究材料にされたくないとおっしゃっていたシメゾウさんとの約束ですもの。ユルミさん、許してね。」
ユルミの灰はビワ湖にまかれた。
~~~~~~~~~~
 近くの保育園のお絵描きの時間。保育士のお姉さんが園児に呼びかける。
「それでは皆さーん、何でも好きなものを描いてくださーい。」
やんちゃっぽい男の子が立ち上がった。
「俺きのうでっけえ虹見たぜ!」
「あ、わたしも見た!」
「僕も!」
一斉に声が上がり、それぞれお絵かき帳に大きな虹を描き始めた。
「それ、先生も見たわ。大きくてきれいな虹だったわねぇ。」
「そんで上に犬が歩いててよお。」
男の子はそう言って虹の上に犬を描いた。
「まあ、楽しい思い付きね。大きくなったら絵本作家になれるかも!」
笑いかけるお姉さんに男の子が言い返す。
「思い付きじゃねーよ、ほんとに犬が歩いてたんだって!」
「うん、ワンちゃんいた!白いワンちゃん!」
「見た見た、白い犬が走ってった!」
口々にそう言っては虹の絵に白い犬を描き足すのだった。
「うーん、不思議な事があるものねぇ。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~

友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。 全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。

世にも奇妙な日本昔話

佐野絹恵(サノキヌエ)
児童書・童話
昔々ある所に お爺さんと お婆さんが住んでいました お婆さんは川に洗濯物へ お爺さんは山へ竹取りへ 竹取り? お婆さんが川で 洗濯物をしていると 巨大な亀が泳いで来ました ??? ━━━━━━━━━━━━━━━ 貴方の知っている日本昔話とは 異なる話 ミステリーコメディ小説

秘密

阿波野治
児童書・童話
住友みのりは憂うつそうな顔をしている。心配した友人が事情を訊き出そうとすると、みのりはなぜか声を荒らげた。後ろの席からそれを見ていた香坂遥斗は、みのりが抱えている謎を知りたいと思い、彼女に近づこうとする。

釣りガールレッドブルマ(一般作)

ヒロイン小説研究所
児童書・童話
高校2年生の美咲は釣りが好きで、磯釣りでは、大会ユニホームのレーシングブルマをはいていく。ブルーブルマとホワイトブルマーと出会い、釣りを楽しんでいたある日、海の魔を狩る戦士になったのだ。海魔を人知れず退治していくが、弱点は自分の履いているブルマだった。レッドブルマを履いている時だけ、力を発揮出きるのだ!

シンクの卵

名前も知らない兵士
児童書・童話
小学五年生で文房具好きの桜井春は、小学生ながら秘密組織を結成している。  メンバーは四人。秘密のアダ名を使うことを義務とする。六年生の閣下、同級生のアンテナ、下級生のキキ、そして桜井春ことパルコだ。  ある日、パルコは死んだ父親から手紙をもらう。  手紙の中には、銀貨一枚と黒いカードが入れられており、カードには暗号が書かれていた。  その暗号は市境にある廃工場の場所を示していた。  とある夜、忍び込むことを計画した四人は、集合場所で出くわしたファーブルもメンバーに入れて、五人で廃工場に侵入する。  廃工場の一番奥の一室に、誰もいないはずなのにランプが灯る「世界を変えるための不必要の部屋」を発見する五人。  そこには古い机と椅子、それに大きな本とインクが入った卵型の瓶があった。  エポックメイキング。  その本に万年筆で署名して、正式な秘密組織を発足させることを思いつくパルコ。  その本は「シンクの卵」と呼ばれ、書いたことが現実になる本だった。

GREATEST BOONS+

丹斗大巴
児童書・童話
 幼なじみの2人がグレイテストブーンズ(偉大なる恩恵)を生み出しつつ、異世界の7つの秘密を解き明かしながらほのぼの旅をする物語。  異世界に飛ばされて、小学生の年齢まで退行してしまった幼なじみの銀河と美怜。とつじょ不思議な力に目覚め、Greatest Boons(グレイテストブーンズ:偉大なる恩恵)をもたらす新しい生き物たちBoons(ブーンズ)を生みだし、規格外のインベントリ&ものづくりスキルを使いこなす! ユニークスキルのおかげでサバイバルもトラブルもなんのその! クリエイト系の2人が旅する、ほのぼの異世界珍道中。  便利な「しおり」機能、「お気に入り登録」して頂くと、最新更新のお知らせが届いて便利です!

亀さんののんびりお散歩旅

しんしん
児童書・童話
これは亀のようにゆっくりでも着々と進んでいく。そんな姿をみて、自分も頑張ろう!ゆっくりでも時間をかけていこう。 そんな気持ちになってほしいです。 あとはほのぼの見てあげてください笑笑 目的 カミール海岸へ行くこと 出発地 サミール海岸

少年王と時空の扉

みっち~6画
児童書・童話
エジプト展を訪れた帰り道。エレベーターを抜けると、そこは砂の海。不思議なメダルをめぐる隼斗の冒険は、小学5年のかけがえのない夏の日に。

処理中です...