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虹を渡る犬
しおりを挟むシロがユルミを乗せてしばらく走っていると霧のような雨がサラサラと降って来た。ずっと黙ったままのユルミにシロが少しおどけた調子で話しかけてみる。
ワオオ、ワオオン?(また少し重くなったんじゃないか?)
ユルミが言い返してこないのでシロは黙ってスピードを上げた。市街区に入ったが目的地が有る訳でもなく、学校の前もスピードを落とさず駆け抜けた。
ワオォーンッ
やみくもに走りながら街の辻々で大きく吠える。黙ったままのユルミの代わりに叫んでいるみたいだった。
ワオォーンッ
シロの中で育った知性と、ユルミの中で育った感性とが、互いに引き合い共鳴した。どちらも元はユルミのものであるだけに、シロの知性よりユルミの感性の方が優勢だったかも知れない。
ワオォーンッ
シロとユルミは一心同体となって町の外れを駆け抜けた。
どこか遠くへ。知らない町へ。
雨はサラサラと降り続いていたが、強い風が吹いたせいか雲がちぎれて隙間ができた。その隙間からカーテンのように陽の光が差し込んだ。
「あ、虹だ!」
行く手に大きな虹が現れたのを見て、ユルミが思わず声を上げた。旧湖底地区から続くこの町と、遠い見知らぬ町とをつなぐ虹の橋。くっきりと鮮やかに輝く虹は、近付けばさわれそうに見えた。一つになったシロとユルミの中で、感性が知性を圧倒した。
「行こう!」ワオォン!
高層ビルの建設現場まで走るとフェンスを飛び越え中に入った。建設中の鉄骨の上を右へ左へシュタッ、シュタッと跳び移りながら、上へ上へと駆け登る。最上部に出ると虹はいっそうくっきりと見えた。そのまま虹に向かって走るシロ。その背中でユルミがキュッと身構える。
虹の橋へジャンプ!
~~~~~~~~~~
次の日、冷たい小雨の降る建設現場で倒れている子供が発見された。すでに息絶えていた。状況から見て、鉄骨に登って遊んでいるうちに足を滑らせて転落したものと思われた。
「昨日からのにわか雨で滑りやすかったんだろう、可愛そうに。」
大人たちはそう言って冥福を祈った。亡きがらは知らせを受けたリンコ先生に引き取られ、ひっそりと荼毘に付された。
「ユルミさんを生命技術研究所の研究材料にされたくないとおっしゃっていたシメゾウさんとの約束ですもの。ユルミさん、許してね。」
ユルミの灰はビワ湖にまかれた。
~~~~~~~~~~
近くの保育園のお絵描きの時間。保育士のお姉さんが園児に呼びかける。
「それでは皆さーん、何でも好きなものを描いてくださーい。」
やんちゃっぽい男の子が立ち上がった。
「俺きのうでっけえ虹見たぜ!」
「あ、わたしも見た!」
「僕も!」
一斉に声が上がり、それぞれお絵かき帳に大きな虹を描き始めた。
「それ、先生も見たわ。大きくてきれいな虹だったわねぇ。」
「そんで上に犬が歩いててよお。」
男の子はそう言って虹の上に犬を描いた。
「まあ、楽しい思い付きね。大きくなったら絵本作家になれるかも!」
笑いかけるお姉さんに男の子が言い返す。
「思い付きじゃねーよ、ほんとに犬が歩いてたんだって!」
「うん、ワンちゃんいた!白いワンちゃん!」
「見た見た、白い犬が走ってった!」
口々にそう言っては虹の絵に白い犬を描き足すのだった。
「うーん、不思議な事があるものねぇ。」
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