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鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー
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鈴が生まれた事で、不思議な事はいくつか起きた。最初に言葉を覚えて発したのは、母親にではなく薰に手を伸ばして「かあちゃ」と云ったり、里桜に「にいに」と云ったりと、誰もが驚愕した。きちんと物心が付く頃になるとよく犬の絵を描いていた。
「これは犬かい? よく描けているね」
ある日隼人が小さな鈴を膝に乗せて画用紙を手に眺める。すると、
「いぬさんじゃないよ、これはおおかみさんなの」
「……狼?」
「うんとね、ジンはすごくつよくてやさしいの。おおきくなったらあえるんだよ? ぼくをずっとまっていてくれているの」
ーーージン? 何処かで聞いた名前だ。
「かみさまはね? ぼくにいったの。つぎにあえて、きもちをつたえられたら、ゆるしてあげるって」
「何を?」
「うーん、わかんない。でもね? ジンはおおかみにならないで、にんげんになるの」
鈴は脚をぶらぶらさせながら、大事そうに画用紙に描いた絵を見詰めている。
隼人は苦笑した。
ーーーなんだ。夢物語か。
隼人はホッとしていた。
「伯父さん?」
鈴の声に隼人がハッとする。見れば鈴が扉の所でこちらを見ていた。
「この部屋懐かしいな。十歳ぐらいの頃かな、こっそり入ったら、里桜伯父さんにすっげー怒られて。後にも先にもあの時だけかな里桜伯父さんに怒られたの。……入っても大丈夫かな?」
隼人は困ったように微笑んで「おいで」と手招きをした。後で里桜に自分から謝れば良いだろう。もうやんちゃな小さい子供ではない。大切な物を壊されたりはしないだろうから。
「この部屋は君の伯父さんが生きていた時に使っていたんだ。ほんの数ヶ月だけだったけどね」
「うん。おばあちゃんが昔教えてくれた。里桜伯父さんに怒られて、泣いてた僕を、おばあちゃんが困り顔で教えてくれたんだ。その後で怖かったけど、里桜伯父さんに謝ったんだ」
『勝手に入ったりしてごめんなさい』と。
里桜は自分でも叱った事にショックを受けたらしい。そこまで怒ることはなかったのに。小さな子供を怯えさせてしまったことに。
『俺こそごめんな。あの部屋は大事なあいつの記憶が沢山詰まっているから……』
まだ小さかった鈴には理解できなかったが、今なら理解できる。
「そういえば、明日墓参りだよね。病院は休みにするの?」
「ん? そうだな。休みのお知らせは先月から紙で張り出してるし。そうだ、お前将来どうするんだ? 陸が医者になってくれれば嬉しいんだけどって、云ってたぞ?」
「あ~それね」
鈴はいかにも困りますの態度で、床にドサッと胡座をかいた。
「僕、あっちで考古学の勉強してるんだけど、エジプトの古代に興味あってさ」
「へえ、凄いじゃないか」
「母さんには相談したんだけど。父さんにはまだ」
「お母さんなんだって?」
「応援してくれてる」
鈴は嬉しそうに話す。今年二十歳になる鈴はまだ幼さが残る表情でエジプトについて熱く語った。夢に何度も出てくるエジプトはまだ行ったことのない国。テレビで観て心奪われ、気付いたらエジプトの事を調べていた。
「あ、ねぇこれ見ても大丈夫かな」
「これは犬かい? よく描けているね」
ある日隼人が小さな鈴を膝に乗せて画用紙を手に眺める。すると、
「いぬさんじゃないよ、これはおおかみさんなの」
「……狼?」
「うんとね、ジンはすごくつよくてやさしいの。おおきくなったらあえるんだよ? ぼくをずっとまっていてくれているの」
ーーージン? 何処かで聞いた名前だ。
「かみさまはね? ぼくにいったの。つぎにあえて、きもちをつたえられたら、ゆるしてあげるって」
「何を?」
「うーん、わかんない。でもね? ジンはおおかみにならないで、にんげんになるの」
鈴は脚をぶらぶらさせながら、大事そうに画用紙に描いた絵を見詰めている。
隼人は苦笑した。
ーーーなんだ。夢物語か。
隼人はホッとしていた。
「伯父さん?」
鈴の声に隼人がハッとする。見れば鈴が扉の所でこちらを見ていた。
「この部屋懐かしいな。十歳ぐらいの頃かな、こっそり入ったら、里桜伯父さんにすっげー怒られて。後にも先にもあの時だけかな里桜伯父さんに怒られたの。……入っても大丈夫かな?」
隼人は困ったように微笑んで「おいで」と手招きをした。後で里桜に自分から謝れば良いだろう。もうやんちゃな小さい子供ではない。大切な物を壊されたりはしないだろうから。
「この部屋は君の伯父さんが生きていた時に使っていたんだ。ほんの数ヶ月だけだったけどね」
「うん。おばあちゃんが昔教えてくれた。里桜伯父さんに怒られて、泣いてた僕を、おばあちゃんが困り顔で教えてくれたんだ。その後で怖かったけど、里桜伯父さんに謝ったんだ」
『勝手に入ったりしてごめんなさい』と。
里桜は自分でも叱った事にショックを受けたらしい。そこまで怒ることはなかったのに。小さな子供を怯えさせてしまったことに。
『俺こそごめんな。あの部屋は大事なあいつの記憶が沢山詰まっているから……』
まだ小さかった鈴には理解できなかったが、今なら理解できる。
「そういえば、明日墓参りだよね。病院は休みにするの?」
「ん? そうだな。休みのお知らせは先月から紙で張り出してるし。そうだ、お前将来どうするんだ? 陸が医者になってくれれば嬉しいんだけどって、云ってたぞ?」
「あ~それね」
鈴はいかにも困りますの態度で、床にドサッと胡座をかいた。
「僕、あっちで考古学の勉強してるんだけど、エジプトの古代に興味あってさ」
「へえ、凄いじゃないか」
「母さんには相談したんだけど。父さんにはまだ」
「お母さんなんだって?」
「応援してくれてる」
鈴は嬉しそうに話す。今年二十歳になる鈴はまだ幼さが残る表情でエジプトについて熱く語った。夢に何度も出てくるエジプトはまだ行ったことのない国。テレビで観て心奪われ、気付いたらエジプトの事を調べていた。
「あ、ねぇこれ見ても大丈夫かな」
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