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鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー
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「鈴がお願い事なんて、珍しいわ」
薫が微笑む。が、鈴が真剣な顔なので、表情を引き締めた。
「鈴?」
「僕……は」
ジッと二人の眼が鈴を見詰める。鈴は立ったままだ。
「昨日、隼人さんにさよならを云いに行って来た」
「…どういう事? さよならだなんて」
「鈴君?」
晴臣は鈴が何を云うか気付いたようだ。
「僕は隼人さんが好きだ。憧れ以上に。だから、傍に居られないと思ったんだ」
「待って、え? どういう?」
「僕はゲイなんだ」
「!?」
薫が手で唇を覆った。
「傍に居たら、僕は辛くてどうにかなりそうなんだ。だから、僕はアメリカに行きます」
薫が首を横に振った。
「何を云うの? 姉さんの所へ行くと云うの? 鈴」
「ごめんなさい」
鈴は頭を下げた。
「ごめんなさい母ちゃん」
「鈴! 許しませんよ、アメリカだなんてっ」
泣きながら薫が叱る。晴臣が薫を抱き締めて、鈴を見た。
「取り敢えず、今は学校だ。鈴君この話は今夜またしよう」
鈴は答えずに頭を下げた。
「よう鈴、今日は里桜と一緒じゃなかったのか?」
学校の昇降口で、剛が鈴の背後から声を掛ける。文化祭の下準備はほぼ終わり、後はHRを済ませて、本番の文化祭を行う。生徒以外の人達は、九時から校内に入れるのだ。
「今日は朝から用事があったから」
すれ違う生徒が挨拶をして行く。挨拶を返して、鈴は携帯を見た。
「あ、そうだ今日美代ちゃん来るみたいだよ?」
「は? 誰だそれ」
鈴は肩を竦めた。
「夏の合宿で逢った春ちゃんの妹」
「んげっ!? マジかよ? 俺会いたくない、怖いよあいつマジでっ」
ブルッと震えて剛が云う。鈴は笑って携帯のメールを見る。
『鈴ちゃん、後でね!』
宮根美代からのメールだ。鈴は『後で』と返信する。
「鈴」
里桜が教室に入って来た鈴へ近付く。昨夜の件で心配した里桜は、一晩一緒に過ごしたのだ。今朝家を出る時先に行ってと云われて先に来ていたが。やはり心配になって、生徒会の仕事に手が付かなかった。
「大丈夫か?」
「うん。もう大丈夫」
後は、昨夜隼人が云っていた文化祭に行くという言葉に、鈴は嘆息する。会わない様にしなくては。不安が胸いっぱいに広がった。
「おはよう」
「お、おはようございます」
薫はぼうっとしていたらしい。晴臣に付き添われて薫は保護者の出し物が在る会場に来ていた。鍋は美味しそうな匂いを放ち、段ボールに値段をマジックで書いている者も居た。
「良いわね、夫婦で来れるなんて。うちはめんどくさいって、家でテレビ観てるわよ」
薫に愚痴を云って、同じクラスの母親が唸る。
「大丈夫?」
小声で晴臣が訊く。薫はどうにか微笑んで、エプロンを掛けた。
「「「可愛い」」」
鈴と里桜のメイド姿に男子が携帯を構えた。もちろん疾風も漏れなくにんまり。
「ほら男子、呆けてないでメニュー確認!」
「高橋はこっちね。出口に居たら皆怖がるから」
「なんだよそれ!」
剛はミニスカに脚をもじもじさせる。
「兄ちゃん大丈夫?」
「…早く着替えたい」
真っ赤になって俯いている。そこへシャッター音が鳴って、全員がそちらへ振り向く。ジンがカメラを向けていた。
薫が微笑む。が、鈴が真剣な顔なので、表情を引き締めた。
「鈴?」
「僕……は」
ジッと二人の眼が鈴を見詰める。鈴は立ったままだ。
「昨日、隼人さんにさよならを云いに行って来た」
「…どういう事? さよならだなんて」
「鈴君?」
晴臣は鈴が何を云うか気付いたようだ。
「僕は隼人さんが好きだ。憧れ以上に。だから、傍に居られないと思ったんだ」
「待って、え? どういう?」
「僕はゲイなんだ」
「!?」
薫が手で唇を覆った。
「傍に居たら、僕は辛くてどうにかなりそうなんだ。だから、僕はアメリカに行きます」
薫が首を横に振った。
「何を云うの? 姉さんの所へ行くと云うの? 鈴」
「ごめんなさい」
鈴は頭を下げた。
「ごめんなさい母ちゃん」
「鈴! 許しませんよ、アメリカだなんてっ」
泣きながら薫が叱る。晴臣が薫を抱き締めて、鈴を見た。
「取り敢えず、今は学校だ。鈴君この話は今夜またしよう」
鈴は答えずに頭を下げた。
「よう鈴、今日は里桜と一緒じゃなかったのか?」
学校の昇降口で、剛が鈴の背後から声を掛ける。文化祭の下準備はほぼ終わり、後はHRを済ませて、本番の文化祭を行う。生徒以外の人達は、九時から校内に入れるのだ。
「今日は朝から用事があったから」
すれ違う生徒が挨拶をして行く。挨拶を返して、鈴は携帯を見た。
「あ、そうだ今日美代ちゃん来るみたいだよ?」
「は? 誰だそれ」
鈴は肩を竦めた。
「夏の合宿で逢った春ちゃんの妹」
「んげっ!? マジかよ? 俺会いたくない、怖いよあいつマジでっ」
ブルッと震えて剛が云う。鈴は笑って携帯のメールを見る。
『鈴ちゃん、後でね!』
宮根美代からのメールだ。鈴は『後で』と返信する。
「鈴」
里桜が教室に入って来た鈴へ近付く。昨夜の件で心配した里桜は、一晩一緒に過ごしたのだ。今朝家を出る時先に行ってと云われて先に来ていたが。やはり心配になって、生徒会の仕事に手が付かなかった。
「大丈夫か?」
「うん。もう大丈夫」
後は、昨夜隼人が云っていた文化祭に行くという言葉に、鈴は嘆息する。会わない様にしなくては。不安が胸いっぱいに広がった。
「おはよう」
「お、おはようございます」
薫はぼうっとしていたらしい。晴臣に付き添われて薫は保護者の出し物が在る会場に来ていた。鍋は美味しそうな匂いを放ち、段ボールに値段をマジックで書いている者も居た。
「良いわね、夫婦で来れるなんて。うちはめんどくさいって、家でテレビ観てるわよ」
薫に愚痴を云って、同じクラスの母親が唸る。
「大丈夫?」
小声で晴臣が訊く。薫はどうにか微笑んで、エプロンを掛けた。
「「「可愛い」」」
鈴と里桜のメイド姿に男子が携帯を構えた。もちろん疾風も漏れなくにんまり。
「ほら男子、呆けてないでメニュー確認!」
「高橋はこっちね。出口に居たら皆怖がるから」
「なんだよそれ!」
剛はミニスカに脚をもじもじさせる。
「兄ちゃん大丈夫?」
「…早く着替えたい」
真っ赤になって俯いている。そこへシャッター音が鳴って、全員がそちらへ振り向く。ジンがカメラを向けていた。
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