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鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー

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「まあ、怖い夢でも見たの?」
 薫が驚いて涙を指で拭うと、鈴は苦笑した。
「昔を少し思い出しただけだ」
「そう? 何か心配とかあれば直ぐに云いなさいね?」
 薫が鈴の頭を撫でて部屋を出て行く。鈴は天井を見上げてまた涙を零していた。

「…兄ちゃん今平気?」
 里桜の部屋のドアをノックした鈴は、里桜のいらえを聞いてドアを開ける。風呂から上がった里桜は濡れた頭をタオルで拭っていた。
「どうした?」
「うん、あのちょっと」
「…なんだよ」
 勉強道具が机に出され、ベッドに腰を下ろした里桜がこちらを見ている。椅子に座る様に進められて、鈴は素直に座った。
「ジン…の事なんだけど」
 里桜が手を止めてタオルを膝に乗せる。
「……どうした?」
「この間、兄ちゃん変な夢見るって云っただろ?」
「え? あぁ。そういえば後で話すって云って、それきりだったな」
「うん。で、その話なんだけど…人狼って信じる?」
「……お前頭打ったのか?」
「そう云うよね普通」
 鈴は溜息を吐いて、ふと、裏庭の方で何かを感じて振り返る。『声』が聞こえた気がして、鈴は立ち上がってベランダへ出た。
「鈴?」
 見れば駐車場から大型犬の姿で、ジンがこちらを見上げている。これで道路に居たら直ぐ通報されてしまうだろう。
「兄ちゃん、見て欲しい物があるんだ。今日病院の方、木曜日で誰も居ないよね?」
「…居ないけど」
「病院の方に来て、直ぐ行くから」
「は? おいっ」
 鈴は急いで隼人の部屋から、置いたままの服をいくつか選んで大きな袋に入れ、外へ飛び出した。

「ジン、お願いがあるんだけど」
「…お前の頼みなら」
 鈴は裏口からジンを連れて、病院内へ招き入れた。それに驚いたのは里桜だ。
「鈴っ! 見付かったら叱られるだろう!? 犬なんて連れて入って!」
「犬とは失礼な」
 里桜にジンが唸る。里桜は固まって隣に立つ鈴を見た。
「お前いつから腹話術できたんだ?」
「違うよ。今話したのは僕じゃなくて彼、ジン・イムホテップだよ」
「……」
 里桜は大型犬を見て、鈴を見る。
「馬鹿にしているのか?」
 怒って里桜が大型犬へ指を指す。
「これの何処がっ!」
「うるさいな。昔は大人しい子だったが、分裂して性格変わったのか?」
「……なっ!?」
 里桜は振り返り、双眸を見開いた。大型犬が見る間に人型へメタモルフォーゼしたからだ。
「り、りんっ鈴っ」
 パニックを起こした里桜が、鈴を背に庇う。兄として守らねばと、鈴ごと後ずさる。 
「大丈夫だよ、噛み付かないし彼、ジンだよ?」
「おまっ、だ、誰が素っ裸の男を安全と云えるんだ!?」
 そっちですかと鈴がジンの許へ行き神袋を手渡す。
「鈴っ」
「兄ちゃん、人狼ってこれで信じる?」
 とてもごりっぱな物を見せ付けられ、ドキドキしながら頷くと、恐々と鈴とジンへ近寄った。隼人の服に着替えると、待合室のソファーに腰を下ろした。
「夢じゃないよな」
「今その眼で見たでしょう?」
 里桜が鈴に訊き鈴が答えると、里桜が鈴の頬を抓った。
「にいふぁん、ひふんのほふねっへよ」
「あ、ごめんつい」
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