上 下
94 / 144

鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー

しおりを挟む
葉に出してハッと笑う。そんな馬鹿なと歩き出した鈴の背後で。
「やっとわかったかちびすけ」
 脚を止める。鈴は振り返った。犬以外誰も居ない。
「何処を見ている?」
「……え?」
 視線を下へ向けると、犬は不敵に笑った(ように見えた)。
「早く着替えたい。お前の済む家に連れて行け」
 上から目線。しかも俺様。声もあの夢の中のジンだ。しかも写真家だと云っていたジン・イムホテップの声。
「まさか、え? ジン?」
「早くしないと襲うぞこら」
 飛び掛かる体制になって鈴は後退した。
「え? えええええええっ!?」
 鈴は素っ頓狂な声を上げた。

 小さな子供がきょろきょろと周りを泣きながら歩く。隼人はどうしたのかと声を掛けようとするが、何故か声が出ない。やがて子供は大きな狼を見付けると、安心したのか泣き止んで狼の首に抱き着いた。
 狼は愛しげに子供の顔を舐めると、自分の背に乗せて歩き出した。
『待ってくれ、行かないでくれ!』
 漸く出た声に、狼も子供も振り返らない。
『行くな、行かないでくれっ』 
 隼人は伸ばした自分の掌を見た。そして、隼人自身があの夢で見たアンリになっていた。

 浅い眠りから目覚めた隼人は、傍らに立っていた女に気付いた。
「起きたの? びっくりしたわ、記憶喪失だなんて。私の事も忘れたの?」
「…すまない。あなたは?」
 女は少し考える素振りを見せ、フッと微笑した。
「あなたの婚約者よ。お腹にはあなたの子供が居るの」
「…え?」
 隼人は呆然として女を見詰めた。
「私はあずさ。あなたの妻になる女よ?」
「あず…さ…?」
「んふふ。そうね、明日にでもあなたのマンションに、私の荷物を運ぶわ。子供の部屋も必要よね?」
「…」
 何故だか不安が頭に過ぎる。
 忘れてはいけない何かが在る筈なのに。
 夢に出て来たあの少年は、いったい…。

 ペットOKのマンションで良かった。コンセルジュの人に一応友人から預かったと、説明したらすんなり信じてくれたけど…。結局大型犬? のジン(だと思う)と一緒にマンションまで帰宅していた。
「小早川の家に連れて行く訳にはいかないしな。疾風先生、犬苦手みたいだし」
 鈴は犬…もとい狼を中へ入れると、取り敢えず隼人の服を持って来た。
「…寝てるし」
 リビングの絨毯の上で丸くなって寝ている。
「まだ信じらんない、疲れてんのかな僕」
 服をソファーに置いて、鈴はシャワーを浴びにバスルームへ向かう。そして、鈴は念の為内鍵を掛けた。

「勝手にキッチン使ってるぞ?」
 髪の滴をタオルで拭きながら、パジャマ姿でリビングへ向かうと、美味しそうな匂いにお腹が鳴った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

年上の恋人は優しい上司

木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。 仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。 基本は受け視点(一人称)です。 一日一花BL企画 参加作品も含まれています。 表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!! 完結済みにいたしました。 6月13日、同人誌を発売しました。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

「優秀で美青年な友人の精液を飲むと頭が良くなってイケメンになれるらしい」ので、友人にお願いしてみた。

和泉奏
BL
頭も良くて美青年な完璧男な友人から液を搾取する話。

処理中です...