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鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー
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葉に出してハッと笑う。そんな馬鹿なと歩き出した鈴の背後で。
「やっとわかったかちびすけ」
脚を止める。鈴は振り返った。犬以外誰も居ない。
「何処を見ている?」
「……え?」
視線を下へ向けると、犬は不敵に笑った(ように見えた)。
「早く着替えたい。お前の済む家に連れて行け」
上から目線。しかも俺様。声もあの夢の中のジンだ。しかも写真家だと云っていたジン・イムホテップの声。
「まさか、え? ジン?」
「早くしないと襲うぞこら」
飛び掛かる体制になって鈴は後退した。
「え? えええええええっ!?」
鈴は素っ頓狂な声を上げた。
小さな子供がきょろきょろと周りを泣きながら歩く。隼人はどうしたのかと声を掛けようとするが、何故か声が出ない。やがて子供は大きな狼を見付けると、安心したのか泣き止んで狼の首に抱き着いた。
狼は愛しげに子供の顔を舐めると、自分の背に乗せて歩き出した。
『待ってくれ、行かないでくれ!』
漸く出た声に、狼も子供も振り返らない。
『行くな、行かないでくれっ』
隼人は伸ばした自分の掌を見た。そして、隼人自身があの夢で見たアンリになっていた。
浅い眠りから目覚めた隼人は、傍らに立っていた女に気付いた。
「起きたの? びっくりしたわ、記憶喪失だなんて。私の事も忘れたの?」
「…すまない。あなたは?」
女は少し考える素振りを見せ、フッと微笑した。
「あなたの婚約者よ。お腹にはあなたの子供が居るの」
「…え?」
隼人は呆然として女を見詰めた。
「私はあずさ。あなたの妻になる女よ?」
「あず…さ…?」
「んふふ。そうね、明日にでもあなたのマンションに、私の荷物を運ぶわ。子供の部屋も必要よね?」
「…」
何故だか不安が頭に過ぎる。
忘れてはいけない何かが在る筈なのに。
夢に出て来たあの少年は、いったい…。
ペットOKのマンションで良かった。コンセルジュの人に一応友人から預かったと、説明したらすんなり信じてくれたけど…。結局大型犬? のジン(だと思う)と一緒にマンションまで帰宅していた。
「小早川の家に連れて行く訳にはいかないしな。疾風先生、犬苦手みたいだし」
鈴は犬…もとい狼を中へ入れると、取り敢えず隼人の服を持って来た。
「…寝てるし」
リビングの絨毯の上で丸くなって寝ている。
「まだ信じらんない、疲れてんのかな僕」
服をソファーに置いて、鈴はシャワーを浴びにバスルームへ向かう。そして、鈴は念の為内鍵を掛けた。
「勝手にキッチン使ってるぞ?」
髪の滴をタオルで拭きながら、パジャマ姿でリビングへ向かうと、美味しそうな匂いにお腹が鳴った。
「やっとわかったかちびすけ」
脚を止める。鈴は振り返った。犬以外誰も居ない。
「何処を見ている?」
「……え?」
視線を下へ向けると、犬は不敵に笑った(ように見えた)。
「早く着替えたい。お前の済む家に連れて行け」
上から目線。しかも俺様。声もあの夢の中のジンだ。しかも写真家だと云っていたジン・イムホテップの声。
「まさか、え? ジン?」
「早くしないと襲うぞこら」
飛び掛かる体制になって鈴は後退した。
「え? えええええええっ!?」
鈴は素っ頓狂な声を上げた。
小さな子供がきょろきょろと周りを泣きながら歩く。隼人はどうしたのかと声を掛けようとするが、何故か声が出ない。やがて子供は大きな狼を見付けると、安心したのか泣き止んで狼の首に抱き着いた。
狼は愛しげに子供の顔を舐めると、自分の背に乗せて歩き出した。
『待ってくれ、行かないでくれ!』
漸く出た声に、狼も子供も振り返らない。
『行くな、行かないでくれっ』
隼人は伸ばした自分の掌を見た。そして、隼人自身があの夢で見たアンリになっていた。
浅い眠りから目覚めた隼人は、傍らに立っていた女に気付いた。
「起きたの? びっくりしたわ、記憶喪失だなんて。私の事も忘れたの?」
「…すまない。あなたは?」
女は少し考える素振りを見せ、フッと微笑した。
「あなたの婚約者よ。お腹にはあなたの子供が居るの」
「…え?」
隼人は呆然として女を見詰めた。
「私はあずさ。あなたの妻になる女よ?」
「あず…さ…?」
「んふふ。そうね、明日にでもあなたのマンションに、私の荷物を運ぶわ。子供の部屋も必要よね?」
「…」
何故だか不安が頭に過ぎる。
忘れてはいけない何かが在る筈なのに。
夢に出て来たあの少年は、いったい…。
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「小早川の家に連れて行く訳にはいかないしな。疾風先生、犬苦手みたいだし」
鈴は犬…もとい狼を中へ入れると、取り敢えず隼人の服を持って来た。
「…寝てるし」
リビングの絨毯の上で丸くなって寝ている。
「まだ信じらんない、疲れてんのかな僕」
服をソファーに置いて、鈴はシャワーを浴びにバスルームへ向かう。そして、鈴は念の為内鍵を掛けた。
「勝手にキッチン使ってるぞ?」
髪の滴をタオルで拭きながら、パジャマ姿でリビングへ向かうと、美味しそうな匂いにお腹が鳴った。
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