上 下
80 / 144

鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー

しおりを挟む
 後から来た秋元が鈴を促す。
「じゃ、よろしくお願いします」
「はい。任せて下さい」
 隼人の声に、秋元が爽やかな笑顔で答えた。

「若先生、お客様です」
 患者が一旦引いたのを確認したのか、受付の女性が診察室に顔を出した。
「?」
 カルテを閉じて、午前中の最後の患者にお大事にと告げる。入れ替わりに山野井あずさが入って来た。
「…先輩」
「こんにちは」
 淡い青紫色のワンピースを着たあずさが、はにかんだ様子で椅子に座る。
「若先生、私たちお昼行ってきますね!」
 気を利かせたつもりなのか、スタッフが三人、きゃいきゃい騒ぎながら行ってしまった。
「すみません騒がしくて」
「いえ。とても素敵な病院スタッフさん達ですね」
「処で、今日は?」
「…お話は…婚約の事です。形だけでもいいんです。父を少しの間安心させたいの」
「それは」
「解っています。鈴君、でしょう?」
「…」
「あなたの鈴君を見る眼は、他の方を見る眼と違うわ。まさかと思うけれど、私の勘違いなら良いの。薫さんの大事な息子さんなんですわよね?」
「…何を云いたいんです」
 刹那、底冷えのする視線があずさを捉えた。
「…変わっていないのね。大学の頃のあなた、今の様な眼をしていたわ。でも不思議とあなたに惹かれて…」
「終わったんです。昔の『俺』じゃない」
「あの子が原因?」
「お帰り頂けますか」
 底冷えのする冷めた声に、あずさはピクっと肩を震わせた。
「一度…」
「?」
「一度でいいの。外で会って。それを最後にするから」
 泣きそうな顔で俯くあずさに、隼人は深い溜息を零した。
「……一度だけですよ?」
 あずさは双眸を見開き、微笑んだ。
「ありがとう」

「こちらカメラマンのジン・イムホテップ」
 鈴音に紹介された男を見上げて、鈴は首を傾げた。何処かの記憶に引っ掛かりを覚えた。
 ーーー誰?
「初めまして…えぇと、前のカメラマンさんは?」
 素朴な疑問に問うと、ジンが無愛想に鈴を見た。
「俺では不服か?」
 鈴は慌てて首を横に振る。
 ーーーうっ怖い。
「そういう訳じゃ」
「なら良い」
 なんだろう。ちょっと苦手かも。彼は背が凄く高くて、碧い瞳が綺麗。
 初めて会った気がしないのは何故だろう。と鈴は記憶に引っ掛かる何かを手繰り寄せる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

壁穴奴隷No.19 麻袋の男

猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。 麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は? シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。 前編・後編+後日談の全3話 SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。 ※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。 ※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。

次男は愛される

那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男 佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。 素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡ 無断転載は厳禁です。 【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】

僕のために、忘れていて

ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

身の程なら死ぬ程弁えてますのでどうぞご心配なく

かかし
BL
イジメが原因で卑屈になり過ぎて逆に失礼な平凡顔男子が、そんな平凡顔男子を好き過ぎて溺愛している美形とイチャイチャしたり、幼馴染の執着美形にストーカー(見守り)されたりしながら前向きになっていく話 ※イジメや暴力の描写があります ※主人公の性格が、人によっては不快に思われるかもしれません ※少しでも嫌だなと思われましたら直ぐに画面をもどり見なかったことにしてください pixivにて連載し完結した作品です 2022/08/20よりBOOTHにて加筆修正したものをDL販売行います。 お気に入りや感想、本当にありがとうございます! 感謝してもし尽くせません………!

ゆい
BL
涙が落ちる。 涙は彼に届くことはない。 彼を想うことは、これでやめよう。 何をどうしても、彼の気持ちは僕に向くことはない。 僕は、その場から音を立てずに立ち去った。 僕はアシェル=オルスト。 侯爵家の嫡男として生まれ、10歳の時にエドガー=ハルミトンと婚約した。 彼には、他に愛する人がいた。 世界観は、【夜空と暁と】と同じです。 アルサス達がでます。 【夜空と暁と】を知らなくても、これだけで読めます。 随時更新です。

処理中です...