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鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー
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「レインボーブリッジが見える」
鈴はガラス越しに呟く。
「夜景は素晴らしいわよ?」
「…失礼ですが、鈴音さんは今…」
隼人が鈴音に訊ねる。
「私?」
鈴音はちらりと鈴を見る。
「一応今はひとりよ。淋しいものね、鈴を手放して初めて自分の愚かさを知るなんて。……薫は優しい?」
ーーーでも、あの時はそうしなければならなかったのよ。新聞社に爆破予告が来たり、従業員の家族が、テロのターゲットにされたり。あなたを守るのに、手放さないといけなかった。
今更云っても仕方が無いと、鈴音は眼を伏せる。
そんな事とは知らずに、鈴は鈴音を見た。
「『母ちゃん』はいつだって優しいです」
「鈴」
隼人が瞠目した。
「ふふ。嫌味が云えるぐらいなら大丈夫だわね? ほら、着いたわよ」
鈴音は開いた扉から、先に出た。
今日、天音鈴に逢えるという事で、上条貴博は昨夜から落ち着かない。
「上条、少しは落ち着け。お前を見ていると檻の中の熊を見ている気分だ」
マネージャーの秋元が、部屋を彷徨う上条を一瞥する。彼は上条がデビューした時からのマネージャーだ。彼はソファーに座り、上条のスケジュールを確認している。
「ソワソワしなくても、逢えるだろ」
「逢えるさ。……初めて逢うんだ」
赤ん坊の写真から今の姿までの写真を、何度も繰り返し見ていた。天音鈴。鈴音に似ているが、不思議と上条の死んだ弟にも何処か似ている。
ーーー家族…。
上条貴博にとって家族は絶対的な存在。上条があの日、弟が可哀想で三人で行って来てと云わなければ。次回一緒に旅行に行こうと、引き止めていれば、今も三人は上条の傍に居ただろう。物思いに耽っていた時、ドアのノックが聞こえた。
「入るわよ?」
「どうぞ」
鈴音の声だ。秋元が云ってソファーから立ち上がる。鈴音は鈴と先日会った小早川家の青年医師を中に促した。上条は鈴を凝視した。恥ずかしそうに上条を見て、背後の青年医師を見上げる。上条は磁石が引き寄せられるかのように、鈴に歩み寄った。
「君が鈴だね? 初めまして」
上条は右手を差し出した。
テレビやポスターで見た上条貴博が、目の前に居る。
上条の声が鈴を呼ぶ。鈴は鼻の奥がツンとして、涙を零した。上条は戸惑った様子で、鈴の涙を右手の人差し指で拭ってやった。
「初めまして…」
鈴が云うと、上条は微笑する。
「抱き締めても良い?」
鈴は頷くと、鈴からギュッと上条に抱き着いた。大きな手が鈴を抱き締め、背を撫でる。背が高くて包まれる暖かさにホッとした。まるで隼人に抱き締められてるみたいで、安心する。
鈴はガラス越しに呟く。
「夜景は素晴らしいわよ?」
「…失礼ですが、鈴音さんは今…」
隼人が鈴音に訊ねる。
「私?」
鈴音はちらりと鈴を見る。
「一応今はひとりよ。淋しいものね、鈴を手放して初めて自分の愚かさを知るなんて。……薫は優しい?」
ーーーでも、あの時はそうしなければならなかったのよ。新聞社に爆破予告が来たり、従業員の家族が、テロのターゲットにされたり。あなたを守るのに、手放さないといけなかった。
今更云っても仕方が無いと、鈴音は眼を伏せる。
そんな事とは知らずに、鈴は鈴音を見た。
「『母ちゃん』はいつだって優しいです」
「鈴」
隼人が瞠目した。
「ふふ。嫌味が云えるぐらいなら大丈夫だわね? ほら、着いたわよ」
鈴音は開いた扉から、先に出た。
今日、天音鈴に逢えるという事で、上条貴博は昨夜から落ち着かない。
「上条、少しは落ち着け。お前を見ていると檻の中の熊を見ている気分だ」
マネージャーの秋元が、部屋を彷徨う上条を一瞥する。彼は上条がデビューした時からのマネージャーだ。彼はソファーに座り、上条のスケジュールを確認している。
「ソワソワしなくても、逢えるだろ」
「逢えるさ。……初めて逢うんだ」
赤ん坊の写真から今の姿までの写真を、何度も繰り返し見ていた。天音鈴。鈴音に似ているが、不思議と上条の死んだ弟にも何処か似ている。
ーーー家族…。
上条貴博にとって家族は絶対的な存在。上条があの日、弟が可哀想で三人で行って来てと云わなければ。次回一緒に旅行に行こうと、引き止めていれば、今も三人は上条の傍に居ただろう。物思いに耽っていた時、ドアのノックが聞こえた。
「入るわよ?」
「どうぞ」
鈴音の声だ。秋元が云ってソファーから立ち上がる。鈴音は鈴と先日会った小早川家の青年医師を中に促した。上条は鈴を凝視した。恥ずかしそうに上条を見て、背後の青年医師を見上げる。上条は磁石が引き寄せられるかのように、鈴に歩み寄った。
「君が鈴だね? 初めまして」
上条は右手を差し出した。
テレビやポスターで見た上条貴博が、目の前に居る。
上条の声が鈴を呼ぶ。鈴は鼻の奥がツンとして、涙を零した。上条は戸惑った様子で、鈴の涙を右手の人差し指で拭ってやった。
「初めまして…」
鈴が云うと、上条は微笑する。
「抱き締めても良い?」
鈴は頷くと、鈴からギュッと上条に抱き着いた。大きな手が鈴を抱き締め、背を撫でる。背が高くて包まれる暖かさにホッとした。まるで隼人に抱き締められてるみたいで、安心する。
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