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鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー
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一週間後。
合宿が終わり、迎えに来たバスに乗り込んだ陸上部のメンバーと春彦を乗せて、お寺を後にした。美代からアドレスの交換を頼まれて、鈴の携帯には友達の名前がひとつ増えた。
ーーーなんだか擽ったい。
里桜は…生徒会メンバーは昨日、先に帰っている。
「んじゃ、またな鈴」
自宅まで送ってくれた剛が自転車で帰って行く。鈴は小早川家の自宅を見上げた。玄関脇には夏の花々が出迎えてくれる。
「ただいま~」
合宿から帰宅した鈴は、荷物を玄関に放り投げて再び出掛けようとした処へ、襟首を薫に捕まれた。
「帰宅早々何処行くつもり?」
「う、母ちゃんただい…ま」
振り返った鈴は、見知らぬ客が薫の背後に居たのを見る。ぺこりとお辞儀をして、その綺麗な女性を見詰めた。ショートヘアの綺麗な人だ。
「こんにちは。あなたが鈴君?」
「は…い。え…と?」
鈴は薫を見て首を傾げる。その鈴の背後から、疾風が帰宅した。
「鈴、おかえり。そこで高橋に会ったぞ…って……こんにちは」
疾風も女性に気が付いて挨拶をする。
「こんにちは」
疾風が両手に荷物を抱えて、鈴の背中をぐいぐいと押す。
「おじゃましています」
「おかえりなさい二人共。こちら山野井あずささん」
「あずさですはじめまして。私はこれで帰りますので。薫さん今日はありがとうございます」
「こちらこそ。またいらしてね?」
嬉しそうに微笑むあずさに、鈴は眼を奪われる。初めて逢った筈のその人に、鈴は何か引っ掛かりを覚えた。
「薫さん、今の人は?」
疾風が駐車場へ向かうあずさの後ろ姿を見送りながら、薫に訊く。
「それがね? あずささん隼人さんに婚約を申し込んだのよ」
これには鈴と疾風が驚いた。
「でも、隼人さん大切な子が居るみたいで、お断りしちゃったのよ? 勿体無いわね」
鈴は真っ青になるものの、断ったという事にホッとした。
「私、ぜひあの二人にはくっついて欲しいの。今日は煮物の作り方を勉強って事にして、家へ呼んだんだけど。あなたたちも協力してね?」
「協力って…」
「総合病院の娘さんですって。大学時代お付き合いしていたらしいわ。良い縁談でしょう?」
薫が楽しそうに話すのを、頭の何処かで聞いている。
「隼人さん跡継ぎだし、あちらはお兄さんが継ぐらしいから、素敵なお話しなのよ」
鈴は居た堪れなくなってその場を離れた。
「鈴」
「…」
鈴は疾風の声を背に聞きながら、靴を脱ぎ捨てて隼人の部屋へ向かう。午前中が休診なので、部屋に居ると思ったからだ。
「…隼人さん?」
ノックをしてドアを開けたが、隼人の姿は無かった。鈴は今度は玄関へ向かった。
「母ちゃん」
「まあ、鈴どうしたの?」
玄関からキッチンへ向かう薫を捕まえた。
「母ちゃん、隼人さんは病院の方に居るの?」
「隼人さんなら出掛けてさっき帰ってきたんじゃないの? 駐車場で車の音がしたから」
「鈴?」
駆け出した鈴に、階段を上がりかけた疾風が心配そうに声を掛けたが、その声は届かなかった。病院の裏手へ回る、丁度隼人が病院のドアを閉める処だった。
「隼人さん!」
「…鈴?」
振り返る隼人の胸に抱き着くと、隼人は驚きつつも鈴を抱き締めて背中を擦ってくれた。
「お帰り鈴。どうしたんだい?」
優しく訊ねる隼人の顔を見上げて、鈴は泣きそうになる。
「何処にも行かないよね?」
「ん? 何処かに出掛けたいのかな?」
そうじゃなくてと云いかけて、鈴は首を横に振った。隼人が昔誰と付き合ってたかなんて、今更知っても仕方が無い。大事なのはこれからだ。
「そうだ、鈴。マンションをこれから一緒に見に行こうか」
「マンション??」
鈴は驚き双眸をぱちぱちとさせる。
「ついさっき、不動産屋から電話が来て、良い物件が在るからって連絡が来たんだ」
隼人は鈴の身体を離すと、手を握って駐車場へ向かった。
「此処からなら近いから、学校に行くのに問題は無いからね?」
「隼人さん?」
「…なんの話し?」
里桜が背後から訊いてきた。鈴達は驚いて振り返る。いつの間に帰宅したのか、制服姿の里桜が立っていた。
「里桜お帰り」
「…兄ちゃん」
「…良い物件って?」
「近くでマンションの良い物件が見付かったんだよ。これから二人で見て来るから」
隼人の言葉に里桜が双眸を見開いた。
「隼人さん…? まさか、此処を出て行くの? 鈴を連れて行くの?」
里桜が呟く。
「ああ。そのつもりだよ。今鈴と住める場所を探してるんだが、早い内に決めるからね? まだ薫さん達には話して無いから、これは秘密だよ?」
悪戯っぽくウインクした隼人は幸せそうに云う。だが里桜は驚愕で黙り込んでしまった。
合宿が終わり、迎えに来たバスに乗り込んだ陸上部のメンバーと春彦を乗せて、お寺を後にした。美代からアドレスの交換を頼まれて、鈴の携帯には友達の名前がひとつ増えた。
ーーーなんだか擽ったい。
里桜は…生徒会メンバーは昨日、先に帰っている。
「んじゃ、またな鈴」
自宅まで送ってくれた剛が自転車で帰って行く。鈴は小早川家の自宅を見上げた。玄関脇には夏の花々が出迎えてくれる。
「ただいま~」
合宿から帰宅した鈴は、荷物を玄関に放り投げて再び出掛けようとした処へ、襟首を薫に捕まれた。
「帰宅早々何処行くつもり?」
「う、母ちゃんただい…ま」
振り返った鈴は、見知らぬ客が薫の背後に居たのを見る。ぺこりとお辞儀をして、その綺麗な女性を見詰めた。ショートヘアの綺麗な人だ。
「こんにちは。あなたが鈴君?」
「は…い。え…と?」
鈴は薫を見て首を傾げる。その鈴の背後から、疾風が帰宅した。
「鈴、おかえり。そこで高橋に会ったぞ…って……こんにちは」
疾風も女性に気が付いて挨拶をする。
「こんにちは」
疾風が両手に荷物を抱えて、鈴の背中をぐいぐいと押す。
「おじゃましています」
「おかえりなさい二人共。こちら山野井あずささん」
「あずさですはじめまして。私はこれで帰りますので。薫さん今日はありがとうございます」
「こちらこそ。またいらしてね?」
嬉しそうに微笑むあずさに、鈴は眼を奪われる。初めて逢った筈のその人に、鈴は何か引っ掛かりを覚えた。
「薫さん、今の人は?」
疾風が駐車場へ向かうあずさの後ろ姿を見送りながら、薫に訊く。
「それがね? あずささん隼人さんに婚約を申し込んだのよ」
これには鈴と疾風が驚いた。
「でも、隼人さん大切な子が居るみたいで、お断りしちゃったのよ? 勿体無いわね」
鈴は真っ青になるものの、断ったという事にホッとした。
「私、ぜひあの二人にはくっついて欲しいの。今日は煮物の作り方を勉強って事にして、家へ呼んだんだけど。あなたたちも協力してね?」
「協力って…」
「総合病院の娘さんですって。大学時代お付き合いしていたらしいわ。良い縁談でしょう?」
薫が楽しそうに話すのを、頭の何処かで聞いている。
「隼人さん跡継ぎだし、あちらはお兄さんが継ぐらしいから、素敵なお話しなのよ」
鈴は居た堪れなくなってその場を離れた。
「鈴」
「…」
鈴は疾風の声を背に聞きながら、靴を脱ぎ捨てて隼人の部屋へ向かう。午前中が休診なので、部屋に居ると思ったからだ。
「…隼人さん?」
ノックをしてドアを開けたが、隼人の姿は無かった。鈴は今度は玄関へ向かった。
「母ちゃん」
「まあ、鈴どうしたの?」
玄関からキッチンへ向かう薫を捕まえた。
「母ちゃん、隼人さんは病院の方に居るの?」
「隼人さんなら出掛けてさっき帰ってきたんじゃないの? 駐車場で車の音がしたから」
「鈴?」
駆け出した鈴に、階段を上がりかけた疾風が心配そうに声を掛けたが、その声は届かなかった。病院の裏手へ回る、丁度隼人が病院のドアを閉める処だった。
「隼人さん!」
「…鈴?」
振り返る隼人の胸に抱き着くと、隼人は驚きつつも鈴を抱き締めて背中を擦ってくれた。
「お帰り鈴。どうしたんだい?」
優しく訊ねる隼人の顔を見上げて、鈴は泣きそうになる。
「何処にも行かないよね?」
「ん? 何処かに出掛けたいのかな?」
そうじゃなくてと云いかけて、鈴は首を横に振った。隼人が昔誰と付き合ってたかなんて、今更知っても仕方が無い。大事なのはこれからだ。
「そうだ、鈴。マンションをこれから一緒に見に行こうか」
「マンション??」
鈴は驚き双眸をぱちぱちとさせる。
「ついさっき、不動産屋から電話が来て、良い物件が在るからって連絡が来たんだ」
隼人は鈴の身体を離すと、手を握って駐車場へ向かった。
「此処からなら近いから、学校に行くのに問題は無いからね?」
「隼人さん?」
「…なんの話し?」
里桜が背後から訊いてきた。鈴達は驚いて振り返る。いつの間に帰宅したのか、制服姿の里桜が立っていた。
「里桜お帰り」
「…兄ちゃん」
「…良い物件って?」
「近くでマンションの良い物件が見付かったんだよ。これから二人で見て来るから」
隼人の言葉に里桜が双眸を見開いた。
「隼人さん…? まさか、此処を出て行くの? 鈴を連れて行くの?」
里桜が呟く。
「ああ。そのつもりだよ。今鈴と住める場所を探してるんだが、早い内に決めるからね? まだ薫さん達には話して無いから、これは秘密だよ?」
悪戯っぽくウインクした隼人は幸せそうに云う。だが里桜は驚愕で黙り込んでしまった。
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