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鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー

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「春ちゃん!!」
 鈴は慌てて水に入り、剛のもう片方の腕を掴んだ。剛は瞬きすらせず、まっすぐに滝を見詰めている。滝に近いせいか、細かい水しぶきが全身に当たる。
「どうしたの!? 危ないから! 剛っ」
「急に此処へ歩き出したから、呼んだけど返事しないし、いきなり水に入って行くし…そしたら」
 鈴はハッとして、剛の見詰める方向へ視線を向けた。
「ひっ!」
 滝の横に立つ、紅いワンピースの女性が手招きをしていた。
「美代!?」
 春彦もまた、滝を振り返り驚愕して叫んだ。
「剛! 駄目だよ行っちゃ駄目っ!」
 鈴が叫ぶなり、後方から別の腕が伸びて剛を突然、殴った。これには鈴も春彦もギョッとなる。
「隼人さん!?」
「あ~すっきりした」
 にっと笑う隼人。殴られて正気に戻った剛を見て、春彦は剛に抱き着いた。
「いって~、なんだよったく…なんであんたがいんだ? うわ、な、なんで水!?」
 剛は慌てて周りを見、抱き着く春彦に戸惑った。鈴は滝を見るが、もうワンピースの女性は居なかった。 
「なんで、隼人さんが?」
 鈴は戸惑って隼人を見上げる。
「それは…」
「あ~っ! こらてめぇ隼人いきなり飛び出して何やってんだよ!? ってか、お前達なんでずぶ濡れ…!?」
 疾風が駆け寄り怒鳴っていた。
「…先生?」
 隼人はびっくりしていた鈴の腰を抱き寄せる。それを見て、疾風が溜め息を零した。
「質問、なんでこんな所で騒いでた?」
「解んない。僕は声を聞いて此処に来たの」
「俺は剛君が急に…、此処へ来たから」
 鈴と春彦が云うと、隼人と疾風が剛を見る。
「え? 俺?」
 剛が自分の人差し指で、自分を指差した。
「お前しか居ないだろうが? 高橋」
「先生~俺だってわかんねぇよ」
 首を傾げる剛に、疾風が溜め息を吐く。
「兎に角皆水から上がれ」
 おいでと、隼人が鈴の手を握る。
「あれ? 鈴、何を持ってるんだい?」
 鈴の握られた手の中から、錆びた鈴を見詰める。
「鈴が(すず)を持ってる」
「高橋、オヤジギャグ寒っ」
「先生酷い…。てか、可笑しいなぁ、確か女の子が居て」
「滝に居た子?」
 鈴が訊くと、皆が滝を見る。
「居ねぇじゃん」
 疾風が呟くが、鈴は「居たもん」と云い返した。
「私なら此処に居るわよ?」
 背後からの女性の声に、剛がピキンと固まった。彼女もまたびしょ濡れで、迫力ある光景に鈴も隼人にしがみついた。
「…美代…」
 春彦が抱き付く剛をしょったまま、彼女を睨んだ。
「だって、せっかく帰って来たのに私に挨拶ないし? それにそこのでかい『熊』に構ってるし?」
 今時の女性らしく、垢抜けた雰囲気の美代が、じろりと剛を睨んだ。
「早い話がヤキモチか?」
 疾風が呆れて云う。
「え? 俺『熊』?」
 剛が自分に指を差して美代に訊く。確かに剛は身体が大きく、シャツを三番目まで開け、銀の細い鎖のネックレスをしている。女性から見れば、その辺にたむろする不良に見えるのだろう。
 ーーーでも、熊って。
「美代、良い加減にしろ」
「だってお兄ちゃん!」
「「「「お兄ちゃんっ!?」」」」
「え~と、紹介します。俺の双子の妹の美代です」
「「「「双子…」」」」
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