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鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー

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 剛が絶叫した。
「行ってらっしゃ~い」
 鈴は笑顔で手を振り、ポケットから携帯を取り出す。もう何度目かの動作に、隣に居た一年生に「あの…」と声を掛けられ、鈴は顔を上げた。
「誰かからの電話待ちですか?」
「え? あぁごめんね! 対した用事じゃないから…でも、春ちゃんじゃないけど、皆盛り上がってるね」
 悲鳴が近くで聞える。あれはきっと剛だろう。
「仕掛けに手が込んでるんじゃないですか? あ、次俺らですよ!」
 平泉が興奮して、鈴に手を伸ばす。
「手、握りますか!?」
「手は…大丈夫。それより行こう?」
 スタスタと歩く鈴に、平泉はがっくりと肩を落とす。
 さわさわと、生温かな風が頬を撫でる。先に出発した生徒達は、終わればそのまま道場に集合する事になっていた。

「おい、押すなよ」
 男子生徒が仲間と草叢の陰から、鈴と平泉を追う。
「平泉、天音鈴に手ぇ出したらぶん殴る」
「高橋が居ない今、天音はか弱い子羊ちゃん」
「あの里桜さえ居ない今がチャンス!」
「告白するぞ」
「ラブレターはあの二人によって破り捨てられ、天音の手にはいまだ届かず仕舞い」
 男子生徒達は眼を合わせ、頷く。
「恨みっこなしな?」
「よし、行くぞ」 
 全員立上がった。
「先輩っ!」
 背後から鈴に抱き付こうとした平泉を、鈴が驚いてとっさに背負い投げをし、平泉は地面に叩き着けてしまった。
「「「「はい?」」」」
 立ち上がった男子生徒たちと、投げ飛ばされた平泉が唖然とする。
「あ、考え事してて、ごめんっびっくりしてつい…大丈夫?」
 鈴はしゃがんで、平泉に謝る。
「だ…大丈夫…です。先輩、もしかして柔道やってたんすか?」
「柔道? 柔道ってより空手を少し。う~ん。護身用にちょっとね。ある人から身を守る為だって云われて」
「ある人…って??」
 問われて、鈴は紅くなる。
「僕の大好きな人」
「「「「なんですと!?」」」」
「って、やっぱり何処か痛いの!? 平泉君!」
「……大丈夫です」
「泣いてるのに!?」
 そして草叢に潜む男子生徒達も、男泣きしておりました。
「「「「天音鈴、謎が多過ぎます!」」」」
「平泉君、もしもし?」
 鈴は平泉を気遣い、肝試しを棄権した。

「…剛は?」
 道場に戻った鈴は、姿の見せない剛を探して、先に戻っていた一年と二年生に訊く。
「さあ? 見ていません」
「そう…」
 鈴は再び外に出て、辺りを見渡した。外灯の無い百メートル先は、真っ暗闇で見えない。月が雲に隠れたのだ。
「剛?」
 ーーーなんか…胸がゾワゾワする。
 こういう時は、あまり良い事が無いと知っている。鈴は部屋に戻り、懐中電灯を手に、もう一度外へ出て行った。
 水の音が聞こえる。
「そういえば、滝が在ったよね…」
 階段を降りて行くと、チリンと小さな音がした。 
「す、ず??」
 ボロとなった紅いリボンの付いた、錆びた鈴が落ちていた。それを拾い上げた刹那、遠くで何か声がした。鈴は滑り落ちない様に、足元を懐中電灯で照らしながら滝へ向かった。
「剛君!」
 滝の中へ入ろうとする、剛の腕を春彦は引っ張る。二人は膝まで水に浸かっている。
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