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鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー

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「待って下さい」
 車に乗り込んだ上条を、晴臣が追い掛けた。
「これを…」
 渡されたのは、鈴が使う櫛だった。髪の毛が数本着いている。
「これは…」
「あなたが鈴君を引き取るかどうかは、私が口を挟む事ではありませんが、真実を知るのは間違った行為ではありません。そしてその資格はあなたにはある。ただ、これだけは云って置きます。天音鈴は私達の『家族』で『宝』なんです」
 上条は渡された櫛を大事そうに掌に包んだ。全ては『此処』に。真実は『此処』に。
「有り難う御座います」
 上条は車を出した。その光景を離れた場所で隼人は見詰めていた。
 ーーー鈴を、上條貴博が引き取る?
 隼人は蒼白になって、拳を握り締めた。

「…母さん大丈夫?」
 里桜が夫婦の寝室で休む薫さんに訊く。
 サイドテーブルに、今し方持って来た水が在る。
「里桜、支度は済んだの?」
 薫は里桜の手を握る。
「済んだよ? これから出掛けるけど、母さん大丈夫? 無理しないでね?」
「大丈夫。産まれたら、里桜はもうひとり弟が出来るのよね」
 もうひとり、と、薫が云う。
「そうだね…あの…さ、母さん」
 里桜は云い辛そうに、薫を見る。
「鈴は…あの人の…」
「里桜」
 寝室の入り口で疾風と隼人が声を掛ける。
「駅集合だろ? そろそろ出ないと」
「あ、うん」
「里桜」
 立ち上がる里桜に、薫が手を伸ばす。
「鈴にとって、あなたは大事なお兄ちゃんだから…ね?」
「……うん」
 里桜は俯いて、疾風へ歩み寄った。
「行って来ます」
 里桜は廊下へ出ると、ドアを閉めた。

 生徒達は座敷に出された夕飯を眼にして、やっぱりかと肩を落とした。旅館に出るような、黒い台の上に寺ならではの薬膳料理。向かい合わせに横一例に並んだ席に、鈴はひとりだけ「わあ~」と眼を輝かせた。
「テレビで観たのと、同じだぁっ」
 早速適当に座った鈴が、おこわの入った蓋を開ける。
「初日だからまあ…まさかと思うが、一週間これじゃないよな」
 剛は鈴の隣にあぐらをかいた。
「そのまさか…と云いたいけど、今夜だけだよ」
 盆にグラスと飲み物を載せて持って来た春彦と女性を見る。
「育ち盛りの君達に薬膳料理だけ食わせないさ」
「はる君、後頼むわね?」
 エプロン姿の中年女性が、にこやかに春彦へ盆を手渡す。
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