上 下
51 / 144

鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー

しおりを挟む
 同時刻。
 スポーツカーが小早川医院の駐車場に停まり、運転席からサングラスを掛けた男が、玄関のチャイムを鳴らした。
「は~い」
 上条貴博は、懐かしい薫の声に一瞬戸惑いを覚えた。玄関ドアを開けた薫もまた、双眸を見開き固まる。マタニードレスを着た薫に、上条はサングラスを外し会釈をする。
「いら……しゃ、え?」
「久しぶりだな…結婚、おめでとう」
「…有り難う…貴博が此処に来たって事は…」
 薫は上条の手に在る、大きな茶封筒を見た。
「あぁ…これは鈴音が」
「姉さんが!?  帰国しているの!?」
「ああ。呼び出されてな。話し…少し良いか?」
「ママ? 誰かお客様かな?」
 背後から男性が声を掛けて来た。
 ーーーこの男が新しい…もとい、小早川晴臣か。
 上条が会釈すると、晴臣は双眸を見開き、どうぞ中へと促す。
「此処では失礼だろう?」
 晴臣の言葉に、薫は渋々ながら頷いた。上条はリビングへ通され、促されるままにソファに腰を下ろし、向かい側に薫と晴臣が座った。広々としたリビングからは裏庭が見渡せ、薫が世話をしているのだろう花々が美しく咲いている。暖炉の上の棚には、家族の写真がいくつか置かれていた。鈴の写真も在る。出されたグラスには、庭からの日差しに反射した氷が涼しげに光っていた。上条はまず、茶封筒の中から鈴音に渡された写真を取り出した。
「…私が鈴を撮った写真? 姉さん、貴博に渡したの?」
 薫は顔を強ばらせて、向かい側に座る上条を見る。
「鈴の、天音鈴のなら何でも良い! DNAが調べられる物をくれないか」
「ちょっと! それ」
「事務所の社長は、確実に俺の子供だと解れば、正式に公表しても…」
「ふざけないで! DNA? 貴博、姉さんに何云われたか知らないけど、あの子はあんたの子供だって言葉信じない訳? それに姉さんはあの子を捨てたのよ!? 物みたいに生きた人間ひとりを、あの子ショックで言語傷害になって、やっとまともな人生送れると思ったら今度は『認知』? 馬鹿にしないで! 私がどんな想いであの子を育てたか!!」
「…母さん?」
「「「!?」」」
 リビングの入り口で、少年と男二人が立ち尽くしていた。
「里桜」
 ーーー里桜とは薫の子供か。昔の直人に似ている。
「薫、お腹の子にさわるから」
「オヤジ、何で…」
 疾風が里桜の肩を抱き寄せる。芸能人の上条がリビングに居るのが信じられないらしい。晴臣は薫の肩を抱き寄せながら、白衣姿の男に飲み物を持って来させた。
「長男の疾風と、三男の里桜。白衣を着ている此方は次男の隼人で、私の病院で医師をしています。それと…鈴君は今合宿で留守にしています」
 複雑な顔で三人が会釈をした。上条もまた挨拶をする。
 ーーーあの子は居ないのか。

 隼人は、この場に鈴が居なくて良かったと心底思った。逢いたがっていた鈴には悪いが、今の薫の言葉には、『上条貴博は鈴を引き取りたい』発言が見受けられたからだ。
 里桜は蒼白になって、静かに見守っている。里桜はこれから他校と生徒会促進について、栃木に在る姉妹校の生徒会と会う為、鈴の居る合宿先へ(偶然場所の提供先が一緒)向かう支度をしていた処だった。薫の声が聞こえ、里桜の支度を手伝っていた疾風と隼人は、里桜とリビングへ下りて来てしまったのだが。
「鈴音から聞かされるまで、鈴を知らなかったんだ! 鈴音は嘘を云わない事は俺も解る。だが、この子を引き取るには」
「嫌よ!!」
 全員が薫を見た。
「鈴は私が育てた私の子供なの…里桜の弟なのよ…これ以上あの子を振り回さないで! 私は鈴を幸せにしなきゃいけないの!」
「母さん!」
 里桜は薫さんに走り寄り、貧血を起こした身体を支えた。
「俺は…あの子を息子として『認知』したい。薫には申し訳ないが、今度こそ責任を持って…鈴音を、鈴を家族として受け止めたいんだ」
 薫が、里桜が、晴臣が息を呑んだ。上条は立ち上がり、リビングを後にしたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

壁穴奴隷No.19 麻袋の男

猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。 麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は? シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。 前編・後編+後日談の全3話 SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。 ※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。 ※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。

次男は愛される

那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男 佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。 素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡ 無断転載は厳禁です。 【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】

僕のために、忘れていて

ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

諦めようとした話。

みつば
BL
もう限界だった。僕がどうしても君に与えられない幸せに目を背けているのは。 どうか幸せになって 溺愛攻め(微執着)×ネガティブ受け(めんどくさい)

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

身の程なら死ぬ程弁えてますのでどうぞご心配なく

かかし
BL
イジメが原因で卑屈になり過ぎて逆に失礼な平凡顔男子が、そんな平凡顔男子を好き過ぎて溺愛している美形とイチャイチャしたり、幼馴染の執着美形にストーカー(見守り)されたりしながら前向きになっていく話 ※イジメや暴力の描写があります ※主人公の性格が、人によっては不快に思われるかもしれません ※少しでも嫌だなと思われましたら直ぐに画面をもどり見なかったことにしてください pixivにて連載し完結した作品です 2022/08/20よりBOOTHにて加筆修正したものをDL販売行います。 お気に入りや感想、本当にありがとうございます! 感謝してもし尽くせません………!

僕が玩具になった理由

Me-ya
BL
🈲R指定🈯 「俺のペットにしてやるよ」 眞司は僕を見下ろしながらそう言った。 🈲R指定🔞 ※この作品はフィクションです。 実在の人物、団体等とは一切関係ありません。 ※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨 ので、ここで新しく書き直します…。 (他の場所でも、1カ所書いていますが…)

処理中です...