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鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー
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同時刻。
スポーツカーが小早川医院の駐車場に停まり、運転席からサングラスを掛けた男が、玄関のチャイムを鳴らした。
「は~い」
上条貴博は、懐かしい薫の声に一瞬戸惑いを覚えた。玄関ドアを開けた薫もまた、双眸を見開き固まる。マタニードレスを着た薫に、上条はサングラスを外し会釈をする。
「いら……しゃ、え?」
「久しぶりだな…結婚、おめでとう」
「…有り難う…貴博が此処に来たって事は…」
薫は上条の手に在る、大きな茶封筒を見た。
「あぁ…これは鈴音が」
「姉さんが!? 帰国しているの!?」
「ああ。呼び出されてな。話し…少し良いか?」
「ママ? 誰かお客様かな?」
背後から男性が声を掛けて来た。
ーーーこの男が新しい…もとい、小早川晴臣か。
上条が会釈すると、晴臣は双眸を見開き、どうぞ中へと促す。
「此処では失礼だろう?」
晴臣の言葉に、薫は渋々ながら頷いた。上条はリビングへ通され、促されるままにソファに腰を下ろし、向かい側に薫と晴臣が座った。広々としたリビングからは裏庭が見渡せ、薫が世話をしているのだろう花々が美しく咲いている。暖炉の上の棚には、家族の写真がいくつか置かれていた。鈴の写真も在る。出されたグラスには、庭からの日差しに反射した氷が涼しげに光っていた。上条はまず、茶封筒の中から鈴音に渡された写真を取り出した。
「…私が鈴を撮った写真? 姉さん、貴博に渡したの?」
薫は顔を強ばらせて、向かい側に座る上条を見る。
「鈴の、天音鈴のなら何でも良い! DNAが調べられる物をくれないか」
「ちょっと! それ」
「事務所の社長は、確実に俺の子供だと解れば、正式に公表しても…」
「ふざけないで! DNA? 貴博、姉さんに何云われたか知らないけど、あの子はあんたの子供だって言葉信じない訳? それに姉さんはあの子を捨てたのよ!? 物みたいに生きた人間ひとりを、あの子ショックで言語傷害になって、やっとまともな人生送れると思ったら今度は『認知』? 馬鹿にしないで! 私がどんな想いであの子を育てたか!!」
「…母さん?」
「「「!?」」」
リビングの入り口で、少年と男二人が立ち尽くしていた。
「里桜」
ーーー里桜とは薫の子供か。昔の直人に似ている。
「薫、お腹の子にさわるから」
「オヤジ、何で…」
疾風が里桜の肩を抱き寄せる。芸能人の上条がリビングに居るのが信じられないらしい。晴臣は薫の肩を抱き寄せながら、白衣姿の男に飲み物を持って来させた。
「長男の疾風と、三男の里桜。白衣を着ている此方は次男の隼人で、私の病院で医師をしています。それと…鈴君は今合宿で留守にしています」
複雑な顔で三人が会釈をした。上条もまた挨拶をする。
ーーーあの子は居ないのか。
隼人は、この場に鈴が居なくて良かったと心底思った。逢いたがっていた鈴には悪いが、今の薫の言葉には、『上条貴博は鈴を引き取りたい』発言が見受けられたからだ。
里桜は蒼白になって、静かに見守っている。里桜はこれから他校と生徒会促進について、栃木に在る姉妹校の生徒会と会う為、鈴の居る合宿先へ(偶然場所の提供先が一緒)向かう支度をしていた処だった。薫の声が聞こえ、里桜の支度を手伝っていた疾風と隼人は、里桜とリビングへ下りて来てしまったのだが。
「鈴音から聞かされるまで、鈴を知らなかったんだ! 鈴音は嘘を云わない事は俺も解る。だが、この子を引き取るには」
「嫌よ!!」
全員が薫を見た。
「鈴は私が育てた私の子供なの…里桜の弟なのよ…これ以上あの子を振り回さないで! 私は鈴を幸せにしなきゃいけないの!」
「母さん!」
里桜は薫さんに走り寄り、貧血を起こした身体を支えた。
「俺は…あの子を息子として『認知』したい。薫には申し訳ないが、今度こそ責任を持って…鈴音を、鈴を家族として受け止めたいんだ」
薫が、里桜が、晴臣が息を呑んだ。上条は立ち上がり、リビングを後にしたのだった。
スポーツカーが小早川医院の駐車場に停まり、運転席からサングラスを掛けた男が、玄関のチャイムを鳴らした。
「は~い」
上条貴博は、懐かしい薫の声に一瞬戸惑いを覚えた。玄関ドアを開けた薫もまた、双眸を見開き固まる。マタニードレスを着た薫に、上条はサングラスを外し会釈をする。
「いら……しゃ、え?」
「久しぶりだな…結婚、おめでとう」
「…有り難う…貴博が此処に来たって事は…」
薫は上条の手に在る、大きな茶封筒を見た。
「あぁ…これは鈴音が」
「姉さんが!? 帰国しているの!?」
「ああ。呼び出されてな。話し…少し良いか?」
「ママ? 誰かお客様かな?」
背後から男性が声を掛けて来た。
ーーーこの男が新しい…もとい、小早川晴臣か。
上条が会釈すると、晴臣は双眸を見開き、どうぞ中へと促す。
「此処では失礼だろう?」
晴臣の言葉に、薫は渋々ながら頷いた。上条はリビングへ通され、促されるままにソファに腰を下ろし、向かい側に薫と晴臣が座った。広々としたリビングからは裏庭が見渡せ、薫が世話をしているのだろう花々が美しく咲いている。暖炉の上の棚には、家族の写真がいくつか置かれていた。鈴の写真も在る。出されたグラスには、庭からの日差しに反射した氷が涼しげに光っていた。上条はまず、茶封筒の中から鈴音に渡された写真を取り出した。
「…私が鈴を撮った写真? 姉さん、貴博に渡したの?」
薫は顔を強ばらせて、向かい側に座る上条を見る。
「鈴の、天音鈴のなら何でも良い! DNAが調べられる物をくれないか」
「ちょっと! それ」
「事務所の社長は、確実に俺の子供だと解れば、正式に公表しても…」
「ふざけないで! DNA? 貴博、姉さんに何云われたか知らないけど、あの子はあんたの子供だって言葉信じない訳? それに姉さんはあの子を捨てたのよ!? 物みたいに生きた人間ひとりを、あの子ショックで言語傷害になって、やっとまともな人生送れると思ったら今度は『認知』? 馬鹿にしないで! 私がどんな想いであの子を育てたか!!」
「…母さん?」
「「「!?」」」
リビングの入り口で、少年と男二人が立ち尽くしていた。
「里桜」
ーーー里桜とは薫の子供か。昔の直人に似ている。
「薫、お腹の子にさわるから」
「オヤジ、何で…」
疾風が里桜の肩を抱き寄せる。芸能人の上条がリビングに居るのが信じられないらしい。晴臣は薫の肩を抱き寄せながら、白衣姿の男に飲み物を持って来させた。
「長男の疾風と、三男の里桜。白衣を着ている此方は次男の隼人で、私の病院で医師をしています。それと…鈴君は今合宿で留守にしています」
複雑な顔で三人が会釈をした。上条もまた挨拶をする。
ーーーあの子は居ないのか。
隼人は、この場に鈴が居なくて良かったと心底思った。逢いたがっていた鈴には悪いが、今の薫の言葉には、『上条貴博は鈴を引き取りたい』発言が見受けられたからだ。
里桜は蒼白になって、静かに見守っている。里桜はこれから他校と生徒会促進について、栃木に在る姉妹校の生徒会と会う為、鈴の居る合宿先へ(偶然場所の提供先が一緒)向かう支度をしていた処だった。薫の声が聞こえ、里桜の支度を手伝っていた疾風と隼人は、里桜とリビングへ下りて来てしまったのだが。
「鈴音から聞かされるまで、鈴を知らなかったんだ! 鈴音は嘘を云わない事は俺も解る。だが、この子を引き取るには」
「嫌よ!!」
全員が薫を見た。
「鈴は私が育てた私の子供なの…里桜の弟なのよ…これ以上あの子を振り回さないで! 私は鈴を幸せにしなきゃいけないの!」
「母さん!」
里桜は薫さんに走り寄り、貧血を起こした身体を支えた。
「俺は…あの子を息子として『認知』したい。薫には申し訳ないが、今度こそ責任を持って…鈴音を、鈴を家族として受け止めたいんだ」
薫が、里桜が、晴臣が息を呑んだ。上条は立ち上がり、リビングを後にしたのだった。
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