闇に咲く華

吉良龍美

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闇に咲く華

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 部屋の中はもぬけの空で机の上のメモを見付ける。
『先生、おばさん、ごめんなさい。もうこれ以上迷惑を掛けられないので、出て行きます。ありがとうございました』
「あいつっ!」
「翔、大変よ、律君の靴が無いわっ!」
 階下から夏紀の声が聞こえる。竹塚は玄関へ走った。
「母さんは警察に連絡してくれっ俺は外を探してくるから!」
「気を付けてっ」
 竹塚はコートを手に玄関を飛び出した。後からレオンも追い駆ける。レオンがアスファルトの上で鼻をひくつかせると、大通りへ走った。竹塚も後を追う。
 大通りではクリスマスソングが流れ、親子連れが楽しそうに歩く。竹塚はレオンが律の匂いに辿り着けなかったと知ったのは、それから直ぐのことだった。
「…タクシーでも拾ったのか?」
「クウン」
「レオン。お前のせいじゃない」
 頭を撫でてやると、取り敢えず自宅に戻った。見れば警察が二人到着していた。近所の住民がなんだなんだと、数名外に出て来ていた。
「クソっ野次馬め」
 竹塚は小さく悪態を吐いた。
「竹塚さんとこの。何かあったの?」
「大丈夫です。防犯装置が誤作動を起こしたんです」
「そう? でも一応気を付けてね?」
「ありがとうございます」
 竹塚は逸る気持ちを抑えて笑顔で挨拶をすると、家に入って行った。
「…翔」
「母さん、ダメだ、律の奴タクシーを拾ったみたいだ」
「息子さんですか?」
 警察官のひとりが声を掛ける。
「はい。すみませんお世話になります」
 竹塚が頭を下げた。
「これを」
 律が残したメモを警察に渡す。
「う~ん、家出ですかね?」
「家出というか…」
「…律君を家で預かっていたんですが…ネットで」
「え、ネット、ですか?」
 竹塚は律の携帯から、SNSを開くと先程の誹謗中傷が書き込まれた物を警察官に見せた。
「これは…」
「その子のって、今ニュースに出てる医者のやつですよね」
 竹塚親子が黙り込む。警察官の連れの警察官の脇を肘で突いた。
「すみません」
「いえ」
「それで、捜索願いを出しますよね? 直ぐ署にも連絡を入れますから」
「宜しくお願いします」
 と、夏紀が云った。


 冬休みに入ったせいもあるのか、電車内はサラリーマンやOLに混ざって若い男女の姿も目立つ。律は車両の隅で目立たないように立っていた。吊革の広告には、週刊誌の宣伝で、大きく『堀井家の闇』と記載されている。律は眼を伏せた。誰も此処に堀井律だと気付かないだろう。
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