40 / 54
闇に咲く華
しおりを挟む
和也はその後、次男への殺人未遂で懲役五年。直子は育児放棄が使用人の証言により表沙汰になり、和也の愛人を長男と共謀しての殺人犯。長男は殺人共謀、赤子の殺害遺棄、赤子のすり替え等の、罪の意識から自殺未遂で数年の間、植物状態だったのを鑑みて、裁判員裁判は同情の余地有りとし、執行猶予三年で留めた。
竹塚の母形の親族は、直子とは絶縁し律を直子の母親が引き取る話しになったが、夏紀は頑として反対し、自分が引き取ると云い張った。これには直子の母親はホッとしていたのを、竹塚は愚痴として聞かされたのだが。
「なぁ。律、お前はこのまま戻らないのかな……」
平川が鳴き声で問う。
「俺、律がずっと家族の事で苦しんでたの、知らなかったんだ。俺悔しくて、眼ぇ覚めたら一言文句云ってやるんだ」
ボロボロと涙を流す平川の頭を、滝本が優しく叩く。
「信じようじゃないか。堀井律は必ず戻って来るって」
病院の外で滝本と平川の二人と別れると、竹塚は再び律の居る病室へ向かった。正面玄関には未だマスコミが張り付いて、看護師達は泣きながら、何も知らなかった律が浩一へのリハビリの経緯をマスコミに伝え、世間から『悲劇の少年』と伝えられた。病室にはいくつもの段ボールに、沢山の手紙が入れられ(念の為竹塚の母親が中身を確認して)ている。
竹塚は律の手を握りしめて、指先にキスをした。
「いつになったら、眼を開けてくれるんだ? お前は男で『眠り姫』じゃないだろう?」
何も答えない律の手は、暖かかった。
竹塚は教室の後方からHRを眺めている。律の意識不明から三ヶ月が経った。世界中がクリスマスシーズンで、律の席は今も空いたままだ。
「先生さよなら」
生徒達が竹塚に声を掛けて廊下へ向かう。竹塚はハッとして振り返った。
「あぁ、気を付けて帰れよ」
声を掛け返したが、もう生徒の殆どは教室を後にしていた。
「大丈夫ですか? 竹塚先生」
滝本が心配そうに声を掛けた。
「すみません、ボウッとしていました」
「構いませんよ偶には。但し運転中でなければの話しですけれどね」
竹塚が滝本に苦笑する。
「気を付けます」
滝本は頷いて、竹塚と職員室へ脚を向けた。
「早い物で、もう少しでクリスマスですね。竹塚先生は実家で過ごすんですか?」
「え」
「クリスマスですよ。家は子供がプレゼントにゲームを強請られまして。成績も上がった褒美ということで」
「大変ですね」
「それはもう。あ、私は外で電話をしてから行きます」
「はい」
滝本が携帯を見て慌てて職員昇降口へ向かう。竹塚は溜め息を零して、窓から空を見上げた。
竹塚が律の見舞いに行く前に一度帰宅して着替えていると、夏紀が階下から呼ぶ声がした。慌てた様子で「今から向かいます!」と、大きな声がする。竹塚はコートを手に部屋を出た。
「…母さん?」
丁度受話器を戻している処で、眼には涙と安堵の表情が浮かんでいた。
竹塚の母形の親族は、直子とは絶縁し律を直子の母親が引き取る話しになったが、夏紀は頑として反対し、自分が引き取ると云い張った。これには直子の母親はホッとしていたのを、竹塚は愚痴として聞かされたのだが。
「なぁ。律、お前はこのまま戻らないのかな……」
平川が鳴き声で問う。
「俺、律がずっと家族の事で苦しんでたの、知らなかったんだ。俺悔しくて、眼ぇ覚めたら一言文句云ってやるんだ」
ボロボロと涙を流す平川の頭を、滝本が優しく叩く。
「信じようじゃないか。堀井律は必ず戻って来るって」
病院の外で滝本と平川の二人と別れると、竹塚は再び律の居る病室へ向かった。正面玄関には未だマスコミが張り付いて、看護師達は泣きながら、何も知らなかった律が浩一へのリハビリの経緯をマスコミに伝え、世間から『悲劇の少年』と伝えられた。病室にはいくつもの段ボールに、沢山の手紙が入れられ(念の為竹塚の母親が中身を確認して)ている。
竹塚は律の手を握りしめて、指先にキスをした。
「いつになったら、眼を開けてくれるんだ? お前は男で『眠り姫』じゃないだろう?」
何も答えない律の手は、暖かかった。
竹塚は教室の後方からHRを眺めている。律の意識不明から三ヶ月が経った。世界中がクリスマスシーズンで、律の席は今も空いたままだ。
「先生さよなら」
生徒達が竹塚に声を掛けて廊下へ向かう。竹塚はハッとして振り返った。
「あぁ、気を付けて帰れよ」
声を掛け返したが、もう生徒の殆どは教室を後にしていた。
「大丈夫ですか? 竹塚先生」
滝本が心配そうに声を掛けた。
「すみません、ボウッとしていました」
「構いませんよ偶には。但し運転中でなければの話しですけれどね」
竹塚が滝本に苦笑する。
「気を付けます」
滝本は頷いて、竹塚と職員室へ脚を向けた。
「早い物で、もう少しでクリスマスですね。竹塚先生は実家で過ごすんですか?」
「え」
「クリスマスですよ。家は子供がプレゼントにゲームを強請られまして。成績も上がった褒美ということで」
「大変ですね」
「それはもう。あ、私は外で電話をしてから行きます」
「はい」
滝本が携帯を見て慌てて職員昇降口へ向かう。竹塚は溜め息を零して、窓から空を見上げた。
竹塚が律の見舞いに行く前に一度帰宅して着替えていると、夏紀が階下から呼ぶ声がした。慌てた様子で「今から向かいます!」と、大きな声がする。竹塚はコートを手に部屋を出た。
「…母さん?」
丁度受話器を戻している処で、眼には涙と安堵の表情が浮かんでいた。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
壊れた番の直し方
おはぎのあんこ
BL
Ωである栗栖灯(くりす あかり)は訳もわからず、山の中の邸宅の檻に入れられ、複数のαと性行為をする。
顔に火傷をしたΩの男の指示のままに……
やがて、灯は真実を知る。
火傷のΩの男の正体は、2年前に死んだはずの元番だったのだ。
番が解消されたのは響一郎が死んだからではなく、Ωの体に変わっていたからだった。
ある理由でαからΩになった元番の男、上天神響一郎(かみてんじん きょういちろう)と灯は暮らし始める。
しかし、2年前とは色々なことが違っている。
そのため、灯と険悪な雰囲気になることも…
それでも、2人はαとΩとは違う、2人の関係を深めていく。
発情期のときには、お互いに慰め合う。
灯は響一郎を抱くことで、見たことのない一面を知る。
日本にいれば、2人は敵対者に追われる運命…
2人は安住の地を探す。
☆前半はホラー風味、中盤〜後半は壊れた番である2人の関係修復メインの地味な話になります。
注意点
①序盤、主人公が元番ではないαたちとセックスします。元番の男も、別の女とセックスします
②レイプ、近親相姦の描写があります
③リバ描写があります
④独自解釈ありのオメガバースです。薬でα→Ωの性転換ができる世界観です。
表紙のイラストは、なと様(@tatatatawawawaw)に描いていただきました。
club-xuanwu
一園木蓮
BL
ナンバーワンホスト同士のエロティック・ラブ。
男性客を相手に枕営業を重ねる彼に恋をした……!
同系列ホストクラブの本店と支店でNo.1同士の波濤と龍。
『波濤』は色香漂う美麗のイケメンだが、人懐こくて誰にでも好かれる明るい性質。相反して『龍』は客に煙草の火を点けさせるような頭領気質。
ひょんなことから同じ店舗で勤めることになった二人は、あまりに異なる互いの接客方法に興味を持ち始める。
俺様丸出しの上に強引ではあるが自分の気持ちを素直に表す龍と、明るい笑みの裏で苦悩を抱える波濤の紆余曲折の恋愛模様。
※エピソード一覧
1. Daydream Candy
2. Nightmare Drop
3. Halloween Night
4. Allure
5. Night Emperor
6. Red Zone
7. Double Blizzard
8. Flame
※表紙イラスト:芳乃カオル様
※ホスト×ホスト / 俺様攻め×強気美形受け
※カップリング / 龍(氷川 白夜)×波濤(雪吹 冰)
【本編完結済】ヤリチンノンケをメス堕ちさせてみた
さかい 濱
BL
ヤリチンの友人は最近セックスに飽きたらしい。じゃあ僕が新しい扉(穴)を開いてあげようかな。
――と、軽い気持ちで手を出したものの……というお話。
受けはヤリチンノンケですが、女性との絡み描写は出てきません。
BLに挑戦するのが初めてなので、タグ等の不足がありましたら教えて頂けると助かります。
次男は愛される
那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男
佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。
素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡
無断転載は厳禁です。
【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】
とろけてなくなる
瀬楽英津子
BL
ヤクザの車を傷を付けた櫻井雅(さくらいみやび)十八歳は、多額の借金を背負わされ、ゲイ風俗で働かされることになってしまった。
連れて行かれたのは教育係の逢坂英二(おうさかえいじ)の自宅マンション。
雅はそこで、逢坂英二(おうさかえいじ)に性技を教わることになるが、逢坂英二(おうさかえいじ)は、ガサツで乱暴な男だった。
無骨なヤクザ×ドライな少年。
歳の差。
僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした
なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。
「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」
高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。
そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに…
その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。
ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。
かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで…
ハッピーエンドです。
R18の場面には※をつけます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる