君の居た夏

君の居た夏

　美久の髪を撫でていたから、起きてしまったらしい。
「おはよう」
「…おはよう」 
　真っ赤になった美久の額に口付けて、正人は身仕度を済ませると、ぎこちない美久の動作に正人は身仕度を手伝った。


　神社近くまで来た二人は、心配する正人に大丈夫だからと断って、美久は神社に向かう石段を登った。
　石段を登り、神木の脇にひとりの女性が佇んで居たのに気付いた美久は、其れが理沙だと解った。
「正人さんは何処」
　狂気を孕んだような眼に、美久は身動きが取れなかった。
「正人さんに何を吹き込んだの？」
　美久の腕を掴む手に力が込められた。痛みに美久は理沙の手を払う。
「あなたは、正人さんのお父様の愛人が産ませた娘なんでしょう!?　兄妹で可笑しいわよ!!　汚らわしい！　あの人を私から盗らないで!!」
　泣き叫ぶ理沙に、自宅から出て来た真が美久に気付いた。
「理沙さん？」
　ーーー兄妹って？　愛人が産ませたって何？
　美久は驚愕した刹那、理沙に頬を叩かれた。
「美久!!」
　真が駆け寄り、理沙から美久を引き離しす。
「盗らないでよ!!　お腹の父親を盗らないで！」
　美久は双眸を見開いた。


　後の事等覚えていなかった。
　美久は自宅の部屋で目覚め、あれは夢かと思った刹那、頬の痛みに、あれは現実だと突き付けられた。
　理沙の泣き叫ぶ顔が脳裏に焼き付いて離れない。
　正人は美久の事を知っていて抱いたのだろうか。
　背筋に悪寒が走った。
「……知っていて？」
　手の甲に涙がこぼれ落ちる。