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天使は甘いキスが好き
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誰かが呼んでいる。
『けい』
ーーー誰?
恵はふと双眸を開いて、ベッドの上で肩を抱き寄せた。ふと、拘束されていた手首に紐が解けてぶら下がっている。
『けい』
また声がした。恵はだるい腰を宥めながら、ベッドから降りた。服が無いのでシーツに身体を包み、部屋の中を見渡す。制服が無いので諦め、ドアの向こうを伺った。ほんの少しだけ開いたままのドアをそっと開けて、吹き抜けの策から下を覗いて咄嗟に隠れた。俊彦がガソリンを辺りにばら蒔いているのだ。
ーーー何!? この臭いガソリン!? このままでは殺されてしまう。
恵は耳の傍でドクドクと心音を聞きながら、そっと奥へ歩いた。奥へ向かうと階段が在り、恵は眩暈で足許をふら付かせた。
ーーー此処知ってる? 俺、前にも来た事がある?
『けい』
また、声がした。不思議と怖くはなかった。何故ならその声はかおるだったからだ。
ーーーお母さんが呼んでる。
怖くは無い。それでもし自分が死んでも。お母さんが居る。会いたかったお母さんに会える。
『けい』
優しい声。
懐かしい声。
ポロリと涙が零れた。
「お母さん」
手を伸ばす。その先にきっと恵の望む何かが在ると信じて。
ゴウッと炎が生まれ、俊彦を高揚とさせた。絨毯が燃え、壁に掛かっていたタペストリーが燃える。
「燃えろ燃えろっ!」
俊彦は狂ったように笑う。そうだ恵の傍に居なくては。俊彦が階段を見上げる。するとそこには恵が立ち尽くしていた。
「恵君。起きたのかい? 今そっちへ行くよ」
俊彦が階段を上がって行く。恵は全裸で俊彦を見詰めていた。俊彦が手を差し出す。恵は微笑んで俊彦の脇を駆け下りた。
「待っ!」
俊彦は確かに恵を見た。たった今脇をすり抜けるように降りて来た。が、振り返っても恵は居なかった。
「う、わっわーーーーーっ!!」
脚を何者かの手が掴み、俊彦を階段から引きづり落とす。階段を転げ落ちた俊彦が、最後に見たのは、長い髪を三つ編みにした、恵に似た白い洋装の女性だった。
彼女は無表情で俊彦を見下ろし直ぐにその姿は消えた。
「っ!?」
恵は階段を上がる脚を止めて振り返る。黒い煙と焼ける臭いが、恵の背後から迫っていた。
「……悲鳴?」
俊彦の悲鳴が聞こえたが、怖くて戻れない。上に上がるしかないのだ。階段を上りきり、開いていた部屋の扉から中へ入る。壁一面には本棚が在り、沢山の本が並んでいた。恵は以前にも此処へ来たのを思い出した。
「此処、知ってる」
この部屋で、龍之介の帰りを待つ間に参考書でも無いかと探していたのだ。そこへ俊彦が現れて…。無理やり犯され、窓から身を乗り出して。
恵はポロリと涙を零した。
「思い出した……」
龍之介への恨みから、恵は俊彦に嬲られた。窓の外の雪を見て、その白さに身の穢れを無かった事にしたくて。
刹那、背後の煙は書斎にも届き、恵はぞわりと震える。
「…俺、死んじゃうのかな」
大切な家族や鈴、平方。
「龍之介さん」
今会いたい。凄く。記憶を無くしても傍に居ると決めてくれた愛しい人に。
恵は胸許に手を伸ばして、在る筈の鎖と指輪が無い事に思い出す。盗られたのだ俊彦に。
「龍之介さん…」
脚の力が抜け、恵は床に座り込んで呆然としていた。
サイレンが鳴り響いて、二台の消防車が龍之介の車を追い越して行く。
「なんだ? 火事か?」
『けい』
ーーー誰?
恵はふと双眸を開いて、ベッドの上で肩を抱き寄せた。ふと、拘束されていた手首に紐が解けてぶら下がっている。
『けい』
また声がした。恵はだるい腰を宥めながら、ベッドから降りた。服が無いのでシーツに身体を包み、部屋の中を見渡す。制服が無いので諦め、ドアの向こうを伺った。ほんの少しだけ開いたままのドアをそっと開けて、吹き抜けの策から下を覗いて咄嗟に隠れた。俊彦がガソリンを辺りにばら蒔いているのだ。
ーーー何!? この臭いガソリン!? このままでは殺されてしまう。
恵は耳の傍でドクドクと心音を聞きながら、そっと奥へ歩いた。奥へ向かうと階段が在り、恵は眩暈で足許をふら付かせた。
ーーー此処知ってる? 俺、前にも来た事がある?
『けい』
また、声がした。不思議と怖くはなかった。何故ならその声はかおるだったからだ。
ーーーお母さんが呼んでる。
怖くは無い。それでもし自分が死んでも。お母さんが居る。会いたかったお母さんに会える。
『けい』
優しい声。
懐かしい声。
ポロリと涙が零れた。
「お母さん」
手を伸ばす。その先にきっと恵の望む何かが在ると信じて。
ゴウッと炎が生まれ、俊彦を高揚とさせた。絨毯が燃え、壁に掛かっていたタペストリーが燃える。
「燃えろ燃えろっ!」
俊彦は狂ったように笑う。そうだ恵の傍に居なくては。俊彦が階段を見上げる。するとそこには恵が立ち尽くしていた。
「恵君。起きたのかい? 今そっちへ行くよ」
俊彦が階段を上がって行く。恵は全裸で俊彦を見詰めていた。俊彦が手を差し出す。恵は微笑んで俊彦の脇を駆け下りた。
「待っ!」
俊彦は確かに恵を見た。たった今脇をすり抜けるように降りて来た。が、振り返っても恵は居なかった。
「う、わっわーーーーーっ!!」
脚を何者かの手が掴み、俊彦を階段から引きづり落とす。階段を転げ落ちた俊彦が、最後に見たのは、長い髪を三つ編みにした、恵に似た白い洋装の女性だった。
彼女は無表情で俊彦を見下ろし直ぐにその姿は消えた。
「っ!?」
恵は階段を上がる脚を止めて振り返る。黒い煙と焼ける臭いが、恵の背後から迫っていた。
「……悲鳴?」
俊彦の悲鳴が聞こえたが、怖くて戻れない。上に上がるしかないのだ。階段を上りきり、開いていた部屋の扉から中へ入る。壁一面には本棚が在り、沢山の本が並んでいた。恵は以前にも此処へ来たのを思い出した。
「此処、知ってる」
この部屋で、龍之介の帰りを待つ間に参考書でも無いかと探していたのだ。そこへ俊彦が現れて…。無理やり犯され、窓から身を乗り出して。
恵はポロリと涙を零した。
「思い出した……」
龍之介への恨みから、恵は俊彦に嬲られた。窓の外の雪を見て、その白さに身の穢れを無かった事にしたくて。
刹那、背後の煙は書斎にも届き、恵はぞわりと震える。
「…俺、死んじゃうのかな」
大切な家族や鈴、平方。
「龍之介さん」
今会いたい。凄く。記憶を無くしても傍に居ると決めてくれた愛しい人に。
恵は胸許に手を伸ばして、在る筈の鎖と指輪が無い事に思い出す。盗られたのだ俊彦に。
「龍之介さん…」
脚の力が抜け、恵は床に座り込んで呆然としていた。
サイレンが鳴り響いて、二台の消防車が龍之介の車を追い越して行く。
「なんだ? 火事か?」
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