79 / 98
天使は甘いキスが好き
しおりを挟む
鈴は双眸を見開く。
「愛してくれるの?」
鈴は涙声で訊く。
「当たり前だろう」
鈴は唇を噛み締めながら、平片の胸に顔を押し付けた。
「嫌う訳無いだろう? 俺が認めた男だ。鈴は」
「うん」
「素直な鈴が好きだ。意地っ張りな鈴も、泣き虫な鈴も」
「もう、良いから…」
鈴は涙眼で見上げる。平片は鈴を横抱きに抱き上げて、自室へ向かった。
「恵、薬飲んだ?」
十和子が風呂上りの恵に訊く。
「あ、忘れてた」
「駄目でしょう? 痛み止めなんだから」
ギブスが濡れない様に、伊吹が背中を流してくれた。伊吹もホカホカになって、バスタオル姿でバスルームから飛び出して来る。床が伊吹の足跡で濡れて行った。
「あ、こら伊吹っ待てっ」
太一が追い掛けて、伊吹は駆けっこのつもりで大騒ぎ。
「恵? 元気無いな」
太一が伊吹を捕まえて抱き上げると、恵が塞ぎ込んでいるのに気が付いた。
「疲れたのかな。薬飲んだらもう寝る」
恵は頭をタオルで拭いて、薬を飲むと直ぐ自室へ上がった。恵はベッドに腰を下ろして、携帯のフラップを開く。
「鈴、怒ってたよね。どうしよう。電話し辛い」
ドヨンと落ち込む恵の手の中で、携帯が鳴る。
「うわっ!?」
思わず恵は手の中に在った携帯を、ポンと布団の上に放り投げてしまった。が、龍之介の着信だけ、音を変えていたので、直ぐ龍之介だと解った。
「わあ~~ごめんなさい!! 龍之介さんっ!」
恵は急いで携帯に出る。
【恵? 寝てた?】
「ううん。ごめんなさい、大丈夫」
【なら良いけど…勉強進んでる?】
「進んでるけど…」
恵は鈴を思い出し、うるうると泣き出した。
ベッドの中で平片が起き上がる。横で鈴は涙を零しながら眠っていた。平片は鈴の額に、汗で濡れた前髪を掻き上げてやり、目尻にキスをする。鈴の携帯が、数回目の着信暦を知らせた。恵からのメールだ。ベッドの下。平片は鈴が起きない様に、鈴の携帯に手を伸ばし、履歴を見る。
全て『鈴、ごめんね? 許して鈴』と打たれている。恵はどんな思いでメールを打ったのか。
「泣いてんだろうな。二人共素直なのかそうじゃないのか、まったく」
「う…ん」
鈴が寝返りを打つ。ゆっくりと開かれた眼は青い海の色だ。
「裕太?」
掠れた声が色っぽい。
「落ち着いたか?」
「…うん」
平片が何を云いたいか解っている。携帯が何度も鳴っていたから。
「恵が心配してる」
「…携帯…」
平片は起き上がって、キョロキョロと周りを見ている。携帯を探しているのだ。
「ほら。今さっきも鳴ってた」
「…ありがとう」
鈴は恵からの着信暦を見て、溜息を吐く。十数件のメールが、数分後毎に届いている。鈴は携帯のナンバーを出して鳴らせた。
「…話中だ」
「また掛ければ良いさ」
「うん。裕太、シャワー借りるね?」
全裸の鈴が惜しみなく、その姿を平片の眼の前に晒す。
「あぁ。後から行くから」
平片が眩しそうに見詰めた。鈴は立ち止まり、振り返る。
「ひとりで入る」
「ケチ」
「裕太はしつこいから、のぼせるのっ」
鈴が頬を染めてドアノブを掴もうとしたが、誰かが先にドアを開けた。
「裕太~晩飯…」
「愛してくれるの?」
鈴は涙声で訊く。
「当たり前だろう」
鈴は唇を噛み締めながら、平片の胸に顔を押し付けた。
「嫌う訳無いだろう? 俺が認めた男だ。鈴は」
「うん」
「素直な鈴が好きだ。意地っ張りな鈴も、泣き虫な鈴も」
「もう、良いから…」
鈴は涙眼で見上げる。平片は鈴を横抱きに抱き上げて、自室へ向かった。
「恵、薬飲んだ?」
十和子が風呂上りの恵に訊く。
「あ、忘れてた」
「駄目でしょう? 痛み止めなんだから」
ギブスが濡れない様に、伊吹が背中を流してくれた。伊吹もホカホカになって、バスタオル姿でバスルームから飛び出して来る。床が伊吹の足跡で濡れて行った。
「あ、こら伊吹っ待てっ」
太一が追い掛けて、伊吹は駆けっこのつもりで大騒ぎ。
「恵? 元気無いな」
太一が伊吹を捕まえて抱き上げると、恵が塞ぎ込んでいるのに気が付いた。
「疲れたのかな。薬飲んだらもう寝る」
恵は頭をタオルで拭いて、薬を飲むと直ぐ自室へ上がった。恵はベッドに腰を下ろして、携帯のフラップを開く。
「鈴、怒ってたよね。どうしよう。電話し辛い」
ドヨンと落ち込む恵の手の中で、携帯が鳴る。
「うわっ!?」
思わず恵は手の中に在った携帯を、ポンと布団の上に放り投げてしまった。が、龍之介の着信だけ、音を変えていたので、直ぐ龍之介だと解った。
「わあ~~ごめんなさい!! 龍之介さんっ!」
恵は急いで携帯に出る。
【恵? 寝てた?】
「ううん。ごめんなさい、大丈夫」
【なら良いけど…勉強進んでる?】
「進んでるけど…」
恵は鈴を思い出し、うるうると泣き出した。
ベッドの中で平片が起き上がる。横で鈴は涙を零しながら眠っていた。平片は鈴の額に、汗で濡れた前髪を掻き上げてやり、目尻にキスをする。鈴の携帯が、数回目の着信暦を知らせた。恵からのメールだ。ベッドの下。平片は鈴が起きない様に、鈴の携帯に手を伸ばし、履歴を見る。
全て『鈴、ごめんね? 許して鈴』と打たれている。恵はどんな思いでメールを打ったのか。
「泣いてんだろうな。二人共素直なのかそうじゃないのか、まったく」
「う…ん」
鈴が寝返りを打つ。ゆっくりと開かれた眼は青い海の色だ。
「裕太?」
掠れた声が色っぽい。
「落ち着いたか?」
「…うん」
平片が何を云いたいか解っている。携帯が何度も鳴っていたから。
「恵が心配してる」
「…携帯…」
平片は起き上がって、キョロキョロと周りを見ている。携帯を探しているのだ。
「ほら。今さっきも鳴ってた」
「…ありがとう」
鈴は恵からの着信暦を見て、溜息を吐く。十数件のメールが、数分後毎に届いている。鈴は携帯のナンバーを出して鳴らせた。
「…話中だ」
「また掛ければ良いさ」
「うん。裕太、シャワー借りるね?」
全裸の鈴が惜しみなく、その姿を平片の眼の前に晒す。
「あぁ。後から行くから」
平片が眩しそうに見詰めた。鈴は立ち止まり、振り返る。
「ひとりで入る」
「ケチ」
「裕太はしつこいから、のぼせるのっ」
鈴が頬を染めてドアノブを掴もうとしたが、誰かが先にドアを開けた。
「裕太~晩飯…」
0
お気に入りに追加
46
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
キミと2回目の恋をしよう
なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。
彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。
彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。
「どこかに旅行だったの?」
傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。
彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。
彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが…
彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?
食事届いたけど配達員のほうを食べました
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか?
そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。
【完結】遍く、歪んだ花たちに。
古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。
和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。
「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」
No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。
壁穴奴隷No.19 麻袋の男
猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。
麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は?
シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。
前編・後編+後日談の全3話
SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。
※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。
※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。
愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
九年セフレ
三雲久遠
BL
在宅でウェブデザインの仕事をしているゲイの緒方は、大学のサークル仲間だった新堂と、もう九年セフレの関係を続けていた。
元々ノンケの新堂。男同士で、いつかは必ず終わりがくる。
分かっているから、別れの言葉は言わないでほしい。
また来ると、その一言を最後にしてくれたらいい。
そしてついに、新堂が結婚すると言い出す。
(ムーンライトノベルズにて完結済み。
こちらで再掲載に当たり改稿しております。
13話から途中の展開を変えています。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる