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天使は甘いキスが好き
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「看護師さん、そこの薔薇の花を捨てて貰えませんか? 見たくもないのでっ」
「…お祖母ちゃん、駄目だよ。花は生きているんだから。せめて他のナースステーションにでも飾って貰ったら? ね? 薔薇が可哀想だよ?」
「……恵が、そうしたいの? そうね…看護師さんすみません取り乱して。この薔薇をナースステーションに飾って下さい」
「え、えぇ。細川さんがそうおっしゃるなら。恵君、お花ありがとうね? 皆喜ぶわ」
看護師が花束を抱えて、恵を気にしながら病室を出て行く。
「…お祖母ちゃん、さっきの人誰? 俺の事知っていたみたいだったよ?」
「忘れなさい。恵はもう少し眠って、身体を休ませないと。良いわね?」
「…うん…」
その後軽めの昼食を摂って、恵は再び導眠剤を呑んで眠った。
眠っていた恵は横になりながら、フワフワと空中に漂っていた。
『恵』
『…だあれ?』
眼を開けると暖炉の赤々とした炎が揺れている。いつの間にか恵は立って、暖炉に向かった男の背に声を掛けた。
『呼んだのはあなたなの?』
『そうだよ恵』
『…っ』
男は立ち上がり振り返る。恵は恐怖で踵を返した。男の顔が骸骨だったのだ。恐怖で玄関のドアを叩く。
『助けてっ!』
骸骨の男が恵に掴み掛かる。
『放して、嫌だ! ………さんっ!!』
魘された恵を、十和子が揺り起こす。
「恵? 恵っ」
「……」
全身汗だくになって、恵は目覚めた。
「凄い汗。怖い夢を見たのね。今身体を拭くから、新しいパジャマは…」
恵が運ばれた時、恵の荷物も一緒に龍之介は持って来ていた。十和子が恵のパジャマを出し、恵のパジャマのボタンを外す。
「っ!」
十和子は恵の胸に残るキスマークを見て、顔を逸らした。
「どうし…」
恵は自分の胸を見る。
「何…これ? 俺病気っ!?」
「違うのよ! これはそう、蕁麻疹。お湯を持ってくるから待っていてね?」
十和子は慌ててパジャマの前を合わせると、ナースステーションに向かった。
「……あの」
先程の看護師が、十和子に顔を向ける。
「すみませんが、恵の…孫の身体を拭いて貰えませんか? 私少し出掛けたいので」
「構いませんよ? 先輩、私行って来ますね?」
看護師が云う。
「えぇ。お願いね」
返事を貰って、看護師が恵の許へ行く。十和子はナースステーションから離れようとした時、看護師の会話が聞こえた。
「あの病室の子でしょう? 昨夜緊急で運ばれたって云う」
「凄いわよね、強姦だって。ショックで記憶を無くしたらしいわよ?」
「あれだけ可愛かったら、狙われ易いかもね」
「しー、聞こえるわよ」
十和子は身体を壁に預けて嗚咽した。
「恵君身体拭こうね?」
看護師がワゴンにタオルと、洗面器に湯をはって運んで来た。
「あれ? お祖母ちゃんは?」
「お祖母ちゃんなら、急な用事で出掛けたの。変わりに私が来たのよ?」
看護師は、タオルを洗面器の中の湯に付けて絞る。看護師が恵のパジャマの前を開いた。身体を拭いて貰ってありがとうを云うと、看護師は微笑んで引き返して行く。
恵は窓の外を見詰めた。壁に掛かったカレンダーは十二月の物だ。
「今が十二月なんて、変な気分。お母さん、どうして来てくれないんだろう…」
不意に鞄の中から携帯が鳴る。右側の椅子の上に鞄が置かれていたので、恵は右手でどうにか携帯を取り出した。フラップを開き、恵は驚いた『龍之介』と表示されていたのだ。
「…なんで? もしかしてさっきの薔薇をくれた人?」
メールで『恵、身体は大丈夫?』と打たれている。返事を返して良いのだろうか? 携帯に名前を登録するぐらいだ。親しかったのだろうか。違和感を覚えながらも恵は思い切って、返事を打った。
『さっきの人?』
「…お祖母ちゃん、駄目だよ。花は生きているんだから。せめて他のナースステーションにでも飾って貰ったら? ね? 薔薇が可哀想だよ?」
「……恵が、そうしたいの? そうね…看護師さんすみません取り乱して。この薔薇をナースステーションに飾って下さい」
「え、えぇ。細川さんがそうおっしゃるなら。恵君、お花ありがとうね? 皆喜ぶわ」
看護師が花束を抱えて、恵を気にしながら病室を出て行く。
「…お祖母ちゃん、さっきの人誰? 俺の事知っていたみたいだったよ?」
「忘れなさい。恵はもう少し眠って、身体を休ませないと。良いわね?」
「…うん…」
その後軽めの昼食を摂って、恵は再び導眠剤を呑んで眠った。
眠っていた恵は横になりながら、フワフワと空中に漂っていた。
『恵』
『…だあれ?』
眼を開けると暖炉の赤々とした炎が揺れている。いつの間にか恵は立って、暖炉に向かった男の背に声を掛けた。
『呼んだのはあなたなの?』
『そうだよ恵』
『…っ』
男は立ち上がり振り返る。恵は恐怖で踵を返した。男の顔が骸骨だったのだ。恐怖で玄関のドアを叩く。
『助けてっ!』
骸骨の男が恵に掴み掛かる。
『放して、嫌だ! ………さんっ!!』
魘された恵を、十和子が揺り起こす。
「恵? 恵っ」
「……」
全身汗だくになって、恵は目覚めた。
「凄い汗。怖い夢を見たのね。今身体を拭くから、新しいパジャマは…」
恵が運ばれた時、恵の荷物も一緒に龍之介は持って来ていた。十和子が恵のパジャマを出し、恵のパジャマのボタンを外す。
「っ!」
十和子は恵の胸に残るキスマークを見て、顔を逸らした。
「どうし…」
恵は自分の胸を見る。
「何…これ? 俺病気っ!?」
「違うのよ! これはそう、蕁麻疹。お湯を持ってくるから待っていてね?」
十和子は慌ててパジャマの前を合わせると、ナースステーションに向かった。
「……あの」
先程の看護師が、十和子に顔を向ける。
「すみませんが、恵の…孫の身体を拭いて貰えませんか? 私少し出掛けたいので」
「構いませんよ? 先輩、私行って来ますね?」
看護師が云う。
「えぇ。お願いね」
返事を貰って、看護師が恵の許へ行く。十和子はナースステーションから離れようとした時、看護師の会話が聞こえた。
「あの病室の子でしょう? 昨夜緊急で運ばれたって云う」
「凄いわよね、強姦だって。ショックで記憶を無くしたらしいわよ?」
「あれだけ可愛かったら、狙われ易いかもね」
「しー、聞こえるわよ」
十和子は身体を壁に預けて嗚咽した。
「恵君身体拭こうね?」
看護師がワゴンにタオルと、洗面器に湯をはって運んで来た。
「あれ? お祖母ちゃんは?」
「お祖母ちゃんなら、急な用事で出掛けたの。変わりに私が来たのよ?」
看護師は、タオルを洗面器の中の湯に付けて絞る。看護師が恵のパジャマの前を開いた。身体を拭いて貰ってありがとうを云うと、看護師は微笑んで引き返して行く。
恵は窓の外を見詰めた。壁に掛かったカレンダーは十二月の物だ。
「今が十二月なんて、変な気分。お母さん、どうして来てくれないんだろう…」
不意に鞄の中から携帯が鳴る。右側の椅子の上に鞄が置かれていたので、恵は右手でどうにか携帯を取り出した。フラップを開き、恵は驚いた『龍之介』と表示されていたのだ。
「…なんで? もしかしてさっきの薔薇をくれた人?」
メールで『恵、身体は大丈夫?』と打たれている。返事を返して良いのだろうか? 携帯に名前を登録するぐらいだ。親しかったのだろうか。違和感を覚えながらも恵は思い切って、返事を打った。
『さっきの人?』
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