天使は甘いキスが好き

吉良龍美

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天使は甘いキスが好き

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「恵、悪いが俺は買い物をしてくるから、ひとりで勉強しててくれないか?」
「解った。気を付けてね? 腹ペコ熊が出るかもよ?」
 龍之介は恵の涙の跡が残った頬にキスをする。
「俊彦も出掛けてるし…大丈夫だろう」
「? 俊彦さんなら多分平気だよ。心配し過ぎ。だって、まだ…美加さんの事好きなんだろうし…寄りが戻ると良いね? あの二人」
 何も知らない恵は微笑んで、行ってらっしゃいと手を振った。龍之介は車のエンジンキーを回して買い物に出掛ける。恵は椅子に座ってテキストを開くと、そういえばと吹き抜けの二階を見上げた。
「二階の客間の他に、書斎が在ったよな? 龍之介さんの勉強に使った辞典とかあるかも」
 恵は立ち上がって、階段を上がり、書斎へ向かった。
「良かった。鍵が開いてる。…凄い」
 壁一面に作られた書棚には、本がぎっしりと入っている。
 恵はその中の一冊を手に取った。赤ペンで勉強した跡がある。
「龍之介さんの字だ」
「恵君」
「っ!」
 これを借りようと、恵は踵を返し、びくりとした。俊彦が壁に凭れて、腕を組んでいる。恵は思わず後退った。恐怖を感じたのだ。
「忘れ物をしてね」
「…忘れ物?」
「恵君だよ」
 この人は何を云ってるのだろうと、恵は緊張した。警告音が頭の中で響く。
「食料足りなくて出掛けたろ? あれ、俺が残飯処理機で処分したんだ」
 恵は双眸を見開いた。そんな事をする理由が解らない。
「俺はあいつの持ってる者が欲しいんでね。昔からさぁ、周りから比べられていけ好かなかったんだよ。龍之介には」
 恵は逃げようとしたが、直ぐに腕を掴まれて床に引き倒された。
「痛っ!」
「あぁ。ごめんよ? 大人しくしてたら、痛い事しないからさ」
 恵は床に頭を打ったらしい。クラクラとしながらも、俊彦の腕から逃げようと暴れる。
「大人しくしろっ!」
 パンと頬を叩かれ、恵は双眸を見開いた。
 シャツのボタンを引きちぎられ、コロコロと部屋の隅に転がって行くのを、恵は信じられない思いで、呆然とした。
「そうそう。大人しくしてなよね? 龍之介がこんな所を見たら、なんて思うかな?」
 恵は肩をびくりと震わせた。
「あの時もそうだったよ? 美加がベッドの中で俺に抱かれてたのを見て、翌日には別れたんだ。恵君はそんなの嫌だろ?」
 ーーー俺、龍之介さんに嫌われる?
 こんな所を見られたら。きっと恵が違うと云っても信じて貰えるか解らない。恵は涙を零して、米神を濡らした。
「へぇ、腫れてんじゃん。それに身体中キスマークだらけかよ? 龍之介は激しいんだね」
 俊彦の手が恵の身体を撫で回す。
 ーーー気持ちが悪い。嫌だ。助けて。たすけて。 タスケテ……。
  身体の中に突然異物を感じて、恵は背を捩らせた。乾いた秘孔に、無理やり俊彦が陰茎を押し込んだのだ。身を引き裂かれる痛みに恵は悲鳴をあげた。
「痛いっいやだっ嫌っ! 誰かっ! 助けて! 龍之介さん!! いやーっ」
 恵の腰骨を、俊彦が穿つ度にパンパンと音が鳴る。血で滑りが良くなった行為に、俊彦は官能にのめり込んだ。
「すげぇ、なんて身体だお前、女よか好いじゃないか」
「は、いやぁっ!」
 恵は感じたくないと泣いた。そして、熱い飛沫が恵の身体の奥深くに放たれて、恵は自分が汚れたのだと知った。

 ひんやりとした書斎の床の上。シャツ一枚になっていた恵は、激痛に耐え切れず気を失っていた。
「男は初めてだが、良い思いさせて貰ったよ」
 俊彦は鼻歌を歌う。
「…」
 恵はぶるっと寒さに眼が覚めると、腰の激痛に呻いた。
「恵君、解ってるよね? 龍之介に知られたら、どうなるか」
 恵は龍之介の名に身体を震わせて、床の上にポタリと涙を零す。
「…どうしてこんな事したの? そんなに龍之介さんが嫌い?」
 恵は俊彦に訊きながら、窓の向こうで再び降り出した雪を見詰めた。
「あぁ、嫌いだね。それよりさ、恵君の身体凄く良かったよ? またやらせてよ」
 残酷な言葉。
 ーーーあぁ。俺、汚れちゃったんだ。
 恵は腰の痛みに耐えて、よろよろと窓辺に歩み寄る。
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