天使は甘いキスが好き

吉良龍美

文字の大きさ
上 下
39 / 98

天使は甘いキスが好き

しおりを挟む
「大人なんて所詮皆同じなんだ。お父さんも…そうだったんだからっ」
 そこで気付いた。恵はおかしくなって笑い出す。平片はゾクリとした。
「なんで…龍之介さんに惹かれたのか解ったよ」
 恵は両手で顔を覆う。とんだお笑いだ。情けなさ過ぎて反吐が出る。
「昔のお父さんの面影を追い駆けてたんだ…!」
 ーーーきっとそうだ…そうとしか思えない。
 恵は思い知らされる。これは愛じゃなかったと。禁忌の恋じゃなかったのだと。そう思う事で、龍之介を記憶から遠ざけ様とする。平片は恵を胸に抱き寄せた。
「大人なんて大嫌いだっ!」
 平片に抱き締められてむせび泣く恵を、平片はずっとその背を擦っていた。

「嘘だろう? …ピアス?」
 呆然とした龍之介は、伝言とやらを思い出し、寝室のベッド付近を捜した。
「なんで…」
 光るダイヤのピアスが眼に映った。龍之介はそれを手にする。迂闊だった。此処に美加を泊めるのではなかった。頭を抱えて壁を殴った。
「くそっ!」
 後悔しても遅い。解っている。解っているが。
「携帯電話の位置が変わってたのは、美加が触ったからか!?」
 やっと出逢えたと思ったのに。例え相手が同じ男でも、心が惹かれたのだ。ゲイではないと何度も思ったが、眼の裏に浮かぶのは恵だった。龍之介は怒りのまま、美加に電話を掛ける。
【…あら、やっぱり私が恋しくなったの?】
「ふざけるなっピアスをわざと置いて行っただろう!?」
【怒ってるの? 私は心配してあげただけ。未来在るあなたの為に、結婚相手は私だってあの小さな仔猫に教えてあげたのよ?】
 電車の音が聞こえる。車内からの声だ。
「俺はお前が浮気した時点で別れた。俺は誰とも結婚などしない。お前とは特にだ! 恵はお前とは違うんだよっ!」
 龍之介は叫んで、美加のアドレスを拒否登録に設定した。
「恵…」
 龍之介はベッドに腰を下ろす。恵の電話番号を掛ける。が、女性のアナウンスが流れた。
【この電話番号は電源が切られているか、電波の届かない場所に…】
「恵…」
 龍之介は携帯電話のフラップを閉じた。龍之介は立ち上がると、鍵を手に玄関へ向かった。

「けいにいちゃん?」
「…なんだ?」
 伊吹は帰って来た恵が恋しくて、ハグして欲しくてドアをノックする。ドアを開けて顔を出した恵を見上げて、伊吹は眉根を寄せた。
「ないてたの? どっかいたいの?」
「…え?」
 恵は帰って来てから偏頭痛が酷くなり、そのまま自室のベッドで眠っていたのだ。
「大丈夫。なんだ? 一晩俺が居なくて寂しかったか?」
 しゃがんで、恵は伊吹を抱き締める。恵は痛む頭を我慢して、深呼吸した。龍之介の事は忘れなければと、考え過ぎての軽い精神的な疲労だ。失恋して解るなんて。滑稽じゃないか。
 漸く気付いた盲点に。龍之介の中に昔の太一を探していたんだと。そう思うことにした。
「うん。すごくさみしかったのっけいにいちゃんのベッドかりてねたんだよ?」
「そうか…」
 恵は涙の渇いた頬で、伊吹の柔らかな頬に摺り寄せる。その時ドアチャイムの音が聞こえた。
 ーーー宅配便だろうか?
 十和子は玄関へは行かなかった。もう一度チャイムが鳴る。
「お祖母ちゃんは?」
 恵は伊吹を放してから、伊吹に訊く。
「おばあちゃんおかいもの。このじかんはおみせじゅんびちゅうだから」
 ーーーそうか。そんな時間なのか。
「伊吹はリビングにでも行ってろ」
「うん」
 恵は伊吹をリビングへ促すと、自分は靴を履いて玄関のドアを開けた。
「恵」
 恵はびくりとして顔を上げる。インターホンで確認せずに出てしまった事を後悔する。
「…なんで」
 龍之介は恵の腕を掴むと、恵を胸に抱き寄せた。
「っ!」
「美加の話は誤解なんだ、ピアスもわざとあいつが置いて行った」
 恵はカッとなってを龍之介を睨んだ。
「結婚するんでしょう!?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

食事届いたけど配達員のほうを食べました

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか? そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。

【完結】遍く、歪んだ花たちに。

古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。 和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。 「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」 No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。

壁穴奴隷No.19 麻袋の男

猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。 麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は? シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。 前編・後編+後日談の全3話 SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。 ※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。 ※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

九年セフレ

三雲久遠
BL
在宅でウェブデザインの仕事をしているゲイの緒方は、大学のサークル仲間だった新堂と、もう九年セフレの関係を続けていた。 元々ノンケの新堂。男同士で、いつかは必ず終わりがくる。 分かっているから、別れの言葉は言わないでほしい。 また来ると、その一言を最後にしてくれたらいい。 そしてついに、新堂が結婚すると言い出す。 (ムーンライトノベルズにて完結済み。  こちらで再掲載に当たり改稿しております。  13話から途中の展開を変えています。)

処理中です...