天使は甘いキスが好き

吉良龍美

文字の大きさ
上 下
37 / 98

天使は甘いキスが好き

しおりを挟む
「平片、起きろっ」
 恵は怒って平片の抱き付いて来る腕を、無理やり解く。
「んあ? 恵か、おはよう」
 平片は何事も無かったかの様に起きた。平片は直ぐにハッとして布団の上で正座をし、恵を見詰めた。
「恵。俺はマジでお前に本気だ」
 突然の告白に、恵は後退りする。
「平片? 寝ぼけているなら…」
「本気だ。もう黙っていない。好きなんだよ。今すぐに返事しなくても良い。お前が南川先輩とやらに、惚れてんのは昨日のお前を見てて解った」
 恵は胸の前を押さえた。
「…龍之介さんは」
「相手は大人で、教師を目指してんだろう? 十代に手ぇ出したら犯罪だ」
「…脅すのか?」
「脅すも何も。相手の立場を考えるなら、止めておけよ」
 恵は俯いて、膝の上に置いた両手の甲に、涙をひとつ零した。
「解ってるっ解って…るけど」
 平片は恵を抱き締める。
「…平片…」
「ずっと見て来た。子供の頃から恵だけ。辛い恋なら止めておけ」
 恵は双眸を閉じ、ぽろっと涙を二つ三つと零した。辛いのは解る。龍之介は大人で、将来の夢が教師だ。せめて自分が同じ歳なら。もっと早く出逢えていたら。もっと早く産まれていたら。
 ーーーもし同じ歳に産まれてたら? 出逢って恋をしたのだろうか?
 多分していたと思いたい。
「平片、ごめん。俺……」
 平片は溜息を吐く。その腕から、恵を離した。
「…しょうがねぇな。もう少し待ってやるよ」
 平片がはあっと深い溜め息を吐く。
「…平片?」
「何度も云うが、辛いなら俺にしておけ。それだけは忘れるな。お前の泣く顔なんか俺は見たくない」
 平片は恵の頬の涙を手で拭う。昔はよくこうしてくれていた。
「…平片、ごめん。ごめ…」
「だから、泣くなって」
「だって。だって、平片」
 泣き止まぬ恵を平片が、ヨシヨシと恵の頭を撫でる。
「飯作るから、待ってろ」
 平片が恵を置いて、キッチンへ向かう。平片の想いに気付かずにいた恵は、申し訳無さに頭を下げた。ごめんなさいと。龍之介への想いに恵は不安を感じ始めていた。美加の面影が眼に焼き付いて離れなかったのだ。昨夜、平方からの行為に抗えなかったのを云い訳に、途中まで許してしまった。恵は自己嫌悪に捕らわれる。恵は少し迷ってから、携帯電話で龍之介に『おはよう、よく眠れた?』と送信した。
 返事は直ぐに返って来て同じ様な言葉が書かれている。『心配だった』と付け足されて。恵は携帯電話を胸に抱き締めていた。

 朝食を終えた龍之介は、携帯を手に片手で自らの髪をグシャグシャに掻き雑ぜた。
「どうした?」
 友人のひとりが帰りの支度をしながら、龍之介の溜息に気付く。
「ん? ちょっとな」
「なんだ彼女か?」
「そんな処」
 否定しないんだなと友人数人からからかわれる。面白くないのは美加だ。
「私は帰る」
 荷物を手に先に玄関を出た。美加は自分のポケットに入れた、紙切れを確認した。
「待てよ。俺らも今出るから」
 わらわらと皆が帰って行く。龍之介はホッとしてリビングを片付け初めた。先程、タオルケットを手に龍之介は、自分の置いた携帯の位置がずれていたのに気付いた。
 ーーーテーブルの上に置いてたのに右にづれていたよな。誰かが自分と間違えたのか?
 龍之介は恵を思い出しながら、昨夜からの睡眠不足に小さく欠伸をした。心配でよく眠れなかったのだ。

 駅へ向かう人々の背を見詰めながら、美加は脚を止めた。
「ねぇ私用事あるから此処で。また明日ね」
「おう、またな」
 美加は皆と改札口で別れると、スカートのポケットに隠していた紙を取り出した。小さく折りたたんだ紙には、恵の携帯電話の番号が書いてある。深夜皆が寝静まったのを見計らって、龍之介の携帯から番号を盗み見たのだ。美加は鼻歌を歌いながら、恵の電話番号を押す。
【……はい…?】
「っ」
 数秒後に出た恵の声は、美加に嫉妬の焔を募らせた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

食事届いたけど配達員のほうを食べました

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか? そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。

【完結】遍く、歪んだ花たちに。

古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。 和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。 「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」 No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。

壁穴奴隷No.19 麻袋の男

猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。 麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は? シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。 前編・後編+後日談の全3話 SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。 ※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。 ※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。

九年セフレ

三雲久遠
BL
在宅でウェブデザインの仕事をしているゲイの緒方は、大学のサークル仲間だった新堂と、もう九年セフレの関係を続けていた。 元々ノンケの新堂。男同士で、いつかは必ず終わりがくる。 分かっているから、別れの言葉は言わないでほしい。 また来ると、その一言を最後にしてくれたらいい。 そしてついに、新堂が結婚すると言い出す。 (ムーンライトノベルズにて完結済み。  こちらで再掲載に当たり改稿しております。  13話から途中の展開を変えています。)

ハッピーエンド

藤美りゅう
BL
恋心を抱いた人には、彼女がいましたーー。 レンタルショップ『MIMIYA』でアルバイトをする三上凛は、週末の夜に来るカップルの彼氏、堺智樹に恋心を抱いていた。 ある日、凛はそのカップルが雨の中喧嘩をするのを偶然目撃してしまい、雨が降りしきる中、帰れず立ち尽くしている智樹に自分の傘を貸してやる。 それから二人の距離は縮まろうとしていたが、一本のある映画が、凛の心にブレーキをかけてしまう。 ※ 他サイトでコンテスト用に執筆した作品です。

処理中です...