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天使は甘いキスが好き
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人恋しさに、携帯のフラップを開いて龍之介のアドレスを呼び出す。【会いたい】と、打ってから恵の手の甲に涙がポタリと落ちる。
「なんで?」
太一への憎しみが胃の底から湧く。気持ちが悪い。助けて。それでも、【会いたい】と打った文字を送る事が出来ない。迷惑にはなりたくない。好きだから。愛しいから。あの腕がまた自分を抱き締めてくれるのを、待っているから…。
カーテンの隙間から見えていた月は、雲に隠れて今は見えない。明日は平片の家に泊まる。皆と愉しく騒いで、お菓子を食べて。それから…。前から親に気兼ね無く、してみたかった事を思いおこす。明日、平片の家に泊まりに行く前に、かおるの顔を見に行こう。ピンクの花を持って、かおるの優しい笑顔を見て、平片の家に泊まり込みで遊ぶのだと話そう。きっと微笑んで、「ちゃんとお勉強するのよ?」と云ってくれるだろう。今度は恵から、頬にキスをしてあげよう。恥ずかしがらずに。
だから神様。お願いだから、これ以上親への憎しみを増加させない様に、見ていて欲しい。我侭な願いだけれど。
ーーー神様、何もかも俺から奪わないで下さい。
リビングに遣って来た恵を、伊吹は猫のぬいぐるみを抱き締めたまま、見上げる。
「おはよう、伊吹」
「…お、おはよう…」
伊吹は恵の顔色の悪さに、双眸を見開く。
「恵、もう出るの? 朝御飯は?」
十和子がキッチンから声を掛ける。
「いらない。食欲無いし。それにもう昼前だよ」
伊吹は恵の言葉にテレビに表示された、時間を見る。そろそろ英治の父親が迎えに来る時間だ。伊吹はソワソワと落ち着かない様子。
「平片の家に行く前に、お母さんの顔でも見て来るよ」
云いながら伊吹を見れば、小さな身体をガラスに身を寄せて、カーテンの隙間から外を見ている。
「なんだ? 伊吹。外がどうした?」
伊吹はドキンとして振り返ると、プルプルと顔を横に振った。
「なんでもない、なんでもない」
「? 変な奴」
恵は荷物を手に、玄関へ向かう。
「じゃ、行って来ます」
「羽目を外し過ぎない様にね?」
「はーい」
恵はスニーカーを履き、玄関を出た。ダッフルコートが、冷たい風に靡いて恵の身体を掠めて行く。空はどんよりとしていて、肌かんぼうになった木々が寒そうに風に揺られていた。
恵は門扉を開けて、駅への道を歩きながら携帯を打った。
【おはよう。そっち行く前にお母さんの顔見てから行く】と、送信すれば直ぐに返事が返って来た。
【了解。俺の家来る前に、ポテチ買って来てオ・ネ・ガ・イ♪】
【了解】
と、返事を返す。そこへ黒いボルボが通り過ぎた。
「どうした?」
玉木がルームミラーで、バックシートに座る英治を見る。
「なんでもない」
英治は恵の後姿を見送ると、細川家の家に眼を向けた。
ピンポーン。
「来たーっ」
伊吹はぬいぐるみを抱き締めたまま、ソファーから立ち上がる。ぬいぐるみの方が多少大きかったので、勢いのままゴロンとカーペットに転ぶ。
「あらら。伊吹大丈夫?」
「へいき」
「慌てなくても、英治君は逃げないわよ?」
十和子が玄関を開ける。その後ろから、伊吹がぬいぐるみを放り投げて駆けて来た。そして固まる。ドアの向こうで、英治と成田が睨み合っていたのだ。
「なんでおまえがくるんだよ!?」
成田が吠える。
「いぶきはおれのいえにあそびにいくとやくそくしたんだ。だからむかえにきた」
成田が驚く。
「! いぶきっ」
伊吹はビクンとして、思わず十和子の後ろに隠れた。
「ほんとうか!?」
「う、うん」
「なんで?」
太一への憎しみが胃の底から湧く。気持ちが悪い。助けて。それでも、【会いたい】と打った文字を送る事が出来ない。迷惑にはなりたくない。好きだから。愛しいから。あの腕がまた自分を抱き締めてくれるのを、待っているから…。
カーテンの隙間から見えていた月は、雲に隠れて今は見えない。明日は平片の家に泊まる。皆と愉しく騒いで、お菓子を食べて。それから…。前から親に気兼ね無く、してみたかった事を思いおこす。明日、平片の家に泊まりに行く前に、かおるの顔を見に行こう。ピンクの花を持って、かおるの優しい笑顔を見て、平片の家に泊まり込みで遊ぶのだと話そう。きっと微笑んで、「ちゃんとお勉強するのよ?」と云ってくれるだろう。今度は恵から、頬にキスをしてあげよう。恥ずかしがらずに。
だから神様。お願いだから、これ以上親への憎しみを増加させない様に、見ていて欲しい。我侭な願いだけれど。
ーーー神様、何もかも俺から奪わないで下さい。
リビングに遣って来た恵を、伊吹は猫のぬいぐるみを抱き締めたまま、見上げる。
「おはよう、伊吹」
「…お、おはよう…」
伊吹は恵の顔色の悪さに、双眸を見開く。
「恵、もう出るの? 朝御飯は?」
十和子がキッチンから声を掛ける。
「いらない。食欲無いし。それにもう昼前だよ」
伊吹は恵の言葉にテレビに表示された、時間を見る。そろそろ英治の父親が迎えに来る時間だ。伊吹はソワソワと落ち着かない様子。
「平片の家に行く前に、お母さんの顔でも見て来るよ」
云いながら伊吹を見れば、小さな身体をガラスに身を寄せて、カーテンの隙間から外を見ている。
「なんだ? 伊吹。外がどうした?」
伊吹はドキンとして振り返ると、プルプルと顔を横に振った。
「なんでもない、なんでもない」
「? 変な奴」
恵は荷物を手に、玄関へ向かう。
「じゃ、行って来ます」
「羽目を外し過ぎない様にね?」
「はーい」
恵はスニーカーを履き、玄関を出た。ダッフルコートが、冷たい風に靡いて恵の身体を掠めて行く。空はどんよりとしていて、肌かんぼうになった木々が寒そうに風に揺られていた。
恵は門扉を開けて、駅への道を歩きながら携帯を打った。
【おはよう。そっち行く前にお母さんの顔見てから行く】と、送信すれば直ぐに返事が返って来た。
【了解。俺の家来る前に、ポテチ買って来てオ・ネ・ガ・イ♪】
【了解】
と、返事を返す。そこへ黒いボルボが通り過ぎた。
「どうした?」
玉木がルームミラーで、バックシートに座る英治を見る。
「なんでもない」
英治は恵の後姿を見送ると、細川家の家に眼を向けた。
ピンポーン。
「来たーっ」
伊吹はぬいぐるみを抱き締めたまま、ソファーから立ち上がる。ぬいぐるみの方が多少大きかったので、勢いのままゴロンとカーペットに転ぶ。
「あらら。伊吹大丈夫?」
「へいき」
「慌てなくても、英治君は逃げないわよ?」
十和子が玄関を開ける。その後ろから、伊吹がぬいぐるみを放り投げて駆けて来た。そして固まる。ドアの向こうで、英治と成田が睨み合っていたのだ。
「なんでおまえがくるんだよ!?」
成田が吠える。
「いぶきはおれのいえにあそびにいくとやくそくしたんだ。だからむかえにきた」
成田が驚く。
「! いぶきっ」
伊吹はビクンとして、思わず十和子の後ろに隠れた。
「ほんとうか!?」
「う、うん」
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